MENU CLOSE

地元

淡路島に現れたキティちゃん、パソナ移転は地域活性のお手本になるか

市長は前向き、専門家「キャラ頼みは…」

淡路島でしか会えない乙姫のハローキティ
淡路島でしか会えない乙姫のハローキティ

目次

瀬戸内海最大の島、兵庫県淡路島で変化が起きています。2020年に総合人材サービス会社「パソナグループ」が東京から本社を移す計画を発表し、島の資源を活かした地域活性化に取り組みはじめたのです。県道沿いには巨大なキティちゃんが出現、様々なテーマパークが生まれています。パソナの取り組みについて淡路市の門康彦市長は、一大観光都市に近づく追い風になると歓迎します。一方、地方創生の専門家からは「キャラクター頼りは心配」との声も。パソナ移転は吉と出るのか。淡路島出身のライターが、その影響について聞きました。(ライター・吉野舞)

【PR】手話ってすごい!小学生のころの原体験から大学生で手話通訳士に合格

「本当にできるのか?」最初は不安

実は、本社機能の移転前から、パソナは淡路島とのつながりを作っていました。

その一つが、2008年若者を中心に半分農業、半分芸術といった新しい兼業スタイルを取り入れた「パソナチャレンジファーム」です。

ただ、島内でパソナ関連施設が一番多く点在している淡路市の門康彦(かど やすひこ)市長は、「パソナチャレンジファーム」について「正直、芸術をしながら農業が出来るのか、不安でしたね」と明かします。

ところが、実際にパソナが島にやってきて驚きます。

「一気に知名度が上昇したんです」

実際、現在、淡路島に拠点がある企業約30社の中で、パソナの発信力は群を抜いています。

淡路島が全国的に知名度が上がったのは「パソナのお陰でもあると思います」と言います。

そして、全国的に注目されたことは淡路島に少なからぬ変化を呼び起こします。

その一つが「県道157号線」です。

門市長は、10年前の議会で「県道157号線を観光ルートにしよう」と提案していました。しかし、その時は「伝統のある土地の名前を変えることはできない」と猛反対にあいます。

しかし、現在、県道157号線にはパソナが運営しているエンターテインメント施設「HELLO KITTY SMILE(ハローキティスマイル)」をはじめとする観光施設がが立ち並び、淡路島を代表する一大観光ルートに。そして、地名も「淡路島西海岸」に変わりました。

「島の人たちが出来なかったことを、パソナも含めた島外の企業が新しい風を吹かせてくれたことで動き出し、淡路島の観光はとても元気になりました」と振り返ります。

淡路市の門康彦市長
淡路市の門康彦市長

パソナグループから議員「そうなって欲しい」

パソナグループの移転計画は、2024年5月末までに社員1800人のうち、1200人を淡路島に移す大規模なものです。

「1千票あれば議員になれる」と言われる淡路島。将来、パソナ出身の議員が生まれるかもしれません。

そんな未来について門市長「そうなって欲しいです」と即答します。

「私自身も淡路島で育ちましたが、就職で一度島の外に出た身です。行政は身内だけではなく、外の空気を入れないともったいないと思います」

一方、パソナの移転計画に伴い、島の一部の地域では不動産価格が上昇。島民に親しまれていた県立公園にアニメパークが出来たりと、急な変化に不安の声が上がっているのも事実です。

それでも、門市長はあくまで前向きです。

「時間が解決するのではないでしょうか。島の中でも新しい住民が増えたことに感情的になっていた人も多かったと思います。でも、パソナが来てから3年が経ち、自分の子どもや親戚の中にはそこで働く人も出てくると、印象が変わったという人も多いと聞きます」

もう一つ、不安なのは、あくまで企業であるパソナは、何らかの理由で島から出ていく可能性がゼロではないということ。

実際、他の地域では大型ショッピングモールありきで生まれた団地からイオンが撤退する事例も生まれていますが、門市長は「たとえ、企業がいなくなっても淡路島はなくならない。また違うかたちで発展していくはずです」と強気です。

「地方活性化で一番嬉しいのは 『街の人たちが元気になる』こと。もともと淡路島には雇用の場がとても少なく、一度進学や就職で島を出ると戻りたくても戻れない人が多かったと思いますが、ここ最近で観光施設や島での働き口が増えたことで、島に戻ってくる人が増えることも期待しています」

「淡路島は歴史ある神社仏閣があり食材の宝庫です。10年後には、ハワイやリオデジャネイロと並ぶ世界の一大観光都市に近づいて行きたいと思っています」

専門家、パソナは「ユニークなケース」

パソナで注目された淡路島以外にも、全国では、企業誘致を試みる自治体は少なくありません。

実際、活性化に成功している地域はあるのか。地域創生に詳しい中央大学の山崎朗教授に聞きました。

山崎教授は、淡路島でのパソナの一連の動きについて「本社または本社機能を地方などに移転させる動きの中でも特にユニークなケースだと思います」と指摘します。

「これまで地方に本社が移転するケースは、メーカ系の工場や研究所のある所が目立っていました。ところが、パソナはサービス業で、これまで淡路島に拠点がないという点で珍しいと言えます」

なぜ、パソナは淡路島を選んだのか。山崎教授は、そこに、時代の変化があると見ています。

「1960年代の頃は、地方では下水道や高速道路などのインフラ整備が遅れていました。また、東京に本社を置くことが、優秀な人材の採用につながるとも考えられています。ただし、今は全国的にインフラの整備は進展してきましたし、それに伴って地域間格差も縮小してきています。さらに、DXの進化によって、どこで何をして楽しく面白く仕事や余暇を過ごすのかという地方創生の可能性が生まれています」

加えて、山崎教授が注目するのが淡路島の地理的特徴です。

「その点、淡路島は『島』という名前が付いてますが、神戸空港へのアクセスも近く橋で本土とつながっているので離島ではありません。橋がかかっていなかった時代とは交通条件が全然異なりますし、テレワークやオンライン会議の実現によって、島に本社を立地することの不利性は低下しています​​」

地域創生に詳しい中央大学の山崎朗教授
地域創生に詳しい中央大学の山崎朗教授

求められるストーリ性

地方創生が成功するには何が必要になってくるのでしょうか。山崎教授が挙げたのは「物語」です。

「もともと産業廃棄物の問題を抱えていた香川県の直島は、アートに力を入れて世界的にも有名になりました。現在は事業開始にもストーリー性が求められていて、本社移転の際も手段よりも『何のためにやっているのか』のそもそも論を大切にしなければいけなくなっています」

企業が地方進出した際、向き合わなければいけないのが「地域住民とのコミニケーション」です。企業に求められるのは「相当な時間がかかる」ことを受け入れる覚悟だと、山崎教授は強調します。

「成田空港がある千葉県成田市も空港ができた44年前は、地域社会でどのように受け入れていくか、ということが大きな課題でした。最初は空港建設に反対していた住民も、子どもが空港に勤めるなど、地域の生活の基盤になることで、空港の必要性が理解されるようになっていきました。世代をまたぐくらいの時間がかかるということです」

香川県の豊島にある豊島美術館=2010年10月16日
香川県の豊島にある豊島美術館=2010年10月16日

「キャラクターより歴史や文化を」

淡路島には、サンリオをはじめ、知名度のあるキャラクターを使ったパソナ運営の施設が次々と生まれています。施設目当てで島を訪れる観光客もいますが、山崎教授は「既製品のキャラクターに頼る必要性はない」と批判的です。

「全国でリゾート構想が出てきた1990年代中で『新潟ロシア村』など、海外の街をイメージしたりアニメのキャラクターなどを使ったテーマパークが生まれました。でも、今、残っているものの方が少ないですよね。キャラクターに頼うより、地域に根ざした歴史や伝統文化を基盤にしたものを前に押し出した方がいいと思います」

企業と自治体が一体化した事例として有名なのは愛知県豊田市です。もともと養蚕・製糸業で栄えた挙母市にトヨタ自動車が来たことで名前まで変わりました。

いわゆる企業城下町になることについて、山崎教授は「注意するべき」という立場です。

「地理学的に『外部支配』という言葉があって、外部の企業が経済的にも強い力を持ってしまうと、地域の人たちが自分の町でビジネスを展開する力が弱くなっていしまいます。そうなると『地方創生って何?』って話になってしまうので、そこは注意して地域住民がコントロールするべきだと思います」

現在、淡路島では不動産価格が上がるなど「受け入れのキャパの問題」が起きていることにも「ゆっくりさ」が大事だと説きます。

「多摩ニュータウンなどの日本の都市開発は、短期間に人口が急増する傾向がみられます。開発から30年を経過すると、第一世代は高齢者になり、子どもたちは進学や就職で出ていき人口減少と高齢化に直面します」

「多様な世代が居住するために、ゆっくりと開発していくのがこれからの地方創生のあり方だと思います。短期間に人口が増えれば成功だとはいえません。その地域の身の丈に合った成長をしていければよいのではないでしょうか」

今からおよそ1800~1900年前の弥生時代後期に鉄器づくりを行っていたとされる五斗長垣内(ごっさかいと)遺跡
今からおよそ1800~1900年前の弥生時代後期に鉄器づくりを行っていたとされる五斗長垣内(ごっさかいと)遺跡

山崎教授が特に重要だと考えているのが「教育」です。

「変化への対応は、子どもの方が早い。せっかく大企業の本社が立地したわけですので、企業や社員との連携・協力しながら、情報教育やデータサイエンスの分野で子どもの教育の面白い仕掛けづくりをしていき、次世代への教育貢献活動にも積極的に取り組んでいくべきだと思います」

モノづくりが中心だった経済が終わった時代、地方はかつてのモデルから脱皮できず、東京への一極集中が起きています。

一方で、コロナによる在宅勤務がきっかけとなり、ワーケーションなど新しい働き方も広がっています。

「変化への対応はどの地域にも必要」(山崎教授)という言葉通り、地方が活性化するためには、大きな変化を受け入れていくことが大切です。

島で生まれ育った人間として、淡路島のこれからの盛り上がりに期待しています。同時に、変わらないものと変わるものが適度なバランスで混ざる調和を大事にしてほしいとも思います。

パソナの移転が、これまで及び腰だった変化を起こすきっかけになり、それが島の良さを再発見することにつながれば、同じような悩みを抱える他の地域にとっても大事な気づきになるはずです。

関連記事

PICKUP PR

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます