ネットの話題
熱中症招く「ヨシ!」じゃない行動は?「仕事猫」啓発ポスターが秀逸
「額に入れて飾ってる」原作者全面協力
新緑の季節を迎え、気温が日々ぐんぐんと上がっています。そろそろ心配になってくるのが、熱中症です。予防について呼びかけるため、猫のキャラクター「仕事猫」を起用した啓発ポスターが、ネット上で話題を集めています。意外な組み合わせが実現した背景事情を、制作元に聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)
ポスターは、事業主が行う労働安全衛生活動を支援している団体・中央労働災害防止協会(中災防)が、今年4月に発売しました。ヘルメットをかぶり、「ヨシ!」と指さし確認する姿でネット上での人気が高い、仕事猫とのコラボデザインです。
「熱中症がねらう!」。ポスター上部を埋める、赤地に白抜き文字の手書きコピー。直下には「二日酔い」「食事抜き」「夜ふかし」「過信」と、熱中症を引き起こしうる行動が列記されています。
合わせて描かれているのが、仕事猫のイラストです。赤ら顔でグラスになみなみとお酒を注いだり、深夜までスマホの画面を連打したり……。熱中症につながりかねない行動を、コミカルかつ分かりやすい表現で紹介しています。
そして中央部に視線を移すと、工事現場と思われる場所でへたり込んだ、仕事猫の姿が目に飛び込んできます。「こんなはずでは…」。そう言いながら全身に汗をかく、つらそうな様子が印象的です。
5月に入って以降、ツイッター上で関連画像が拡散されると、大いに注目を集めました。「明日は我が身だ……」「表情から熱中症の恐ろしさが伝わってくる」と、現在に至るまでコメントが引きも切りません。
仕事猫のルーツは、イラストレーター・くまみねさんが描いた、受話器を持つ「電話猫」にあります。これを基に、ネット上では、作業員風の外見の「現場猫」が生まれました。
現場猫は多くの場合、作業時に指さし確認を行いながらも、慢心や不注意により労災を引き起こすキャラクターとしてイラスト化されてきました。これを〝逆輸入〟する形で、くまみねさんが公式に翻案したのが仕事猫です。
労災を引き起こしがちというキャラ設定が、かえって労災防止の意識啓発につながるのではないか――。
そんな考えから、中災防はくまみねさんに連携を打診。2019年以降、仕事猫をあしらった、安全衛生にまつわる冊子や標語ポスターを制作してきました。
熱中症予防の啓発ポスターも、この取り組みの延長線上にあります。中災防出版事業部企画開発課の岩田良子課長補佐が、手掛けた理由を語りました。
「熱中症は誰でもかかる危険性があります。しかし、正しい予防方法を知って行動すれば防ぐことができます。そこで幅広い層の方々に注意を呼び掛けるため、職場でも人気が高い仕事猫を起用することにしました」
デザインを考える上で大切にしたのが、ついやってしまいそうな習慣を取り上げること。ポスターを目にした人々に、健康管理を意識してもらう狙いがあったそうです。岩田さんが続けます。
「仕事猫に『危ないよ!』と注意しても、耳を傾けてくれそうにないので、あえて熱中症になってしまった姿を描き、『熱中症がねらう』というコピーを合わせました。見る人に自分事として捉えて欲しいという思いからです」
制作過程では、全体の大まかな方向性を中災防側で考え、くまみねさんの持ち味を活かすため、自由にイラストを手掛けてもらうスタイルを取りました。
更にヘルメットの色を、本来の白から、中災防の指さし呼称キャラクター「ヨシだ君」と同じ黄色に変更。猫の肉球マークの代わりに、安全のシンボル・緑十字マークを入れるなど、様々なアレンジも加わっています。
ポスターの発売以降、製造業などの企業に加え、安全衛生ポスターに縁がなかった個人による問い合わせも相次いでいます。購入者からは「額に入れて飾っている」「友人にプレゼントした」などの声も上がっているそうです。
こうした状況を受けて、岩田さんは次のように話しました。
「仕事猫には、どこか人間らしさが感じられ、親近感を持ってもらえたのではないでしょうか。今回のポスターをきっかけとして、お一人おひとりに、熱中症予防を心がけて頂けたらうれしいです。皆さま、ご安全に!」
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