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しんどい5月「大きな判断は先送りにして」難病に苦しんだ医者の願い

ポジティブな変化もストレスに…

疲れが出て「五月病」も話題になる5月。医師の石井さんは「小さな変化もストレス。それが積もって噴火することもある」と指摘します
疲れが出て「五月病」も話題になる5月。医師の石井さんは「小さな変化もストレス。それが積もって噴火することもある」と指摘します 出典: 写真はイメージです=Getty Images

目次

新年度のたまった疲れ。GWをはさんで緊張の糸が切れたり、気持ちが落ち込んでしまったり……そんな「五月病」を感じる人も多いのではないでしょうか。難病を患って精神的にも追い詰められた経験がある産業医の石井洋介さんは、「自分の不調に自覚的になることが大切。しんどいときには、大きな判断は保留して先送りしましょう」と呼びかけます。心の不調との向き合い方を考えました。

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おうちの診療所中野院長、産業医・石井洋介(いしい・ようすけ):
2010年、高知大卒。株式会社omniheal代表取締役、日本うんこ学会会長、秋葉原内科saveクリニック共同代表、SHIP運営代表、メディカルジャーナリズム勉強会理事などを兼任。
がんの知識普及を目的としたスマホゲーム「うんコレ」の開発・監修

ポジティブな変化でもストレスに

――5月に入って、記者自身も「疲れた」「趣味もおっくう」と感じることが増えました。これが五月病なのでしょうか。

「五月病」という病名はありませんが、4月に入社や転職、新学期といった大きなイベントが多い日本では、5月に心身の不調を訴える人が多く、その精神的な変化を「五月病」と呼んでいます。

海外でも「January Blues(1月の憂鬱)」といって、新年に同様のことが起きています。

新年度でぴんと張り詰めていた糸が、連休をはさんだことで切れてしまって、日常に戻ることが難しくなってしまうんですね。
石井洋介さん
石井洋介さん 出典:石井さん提供
――自分にそんなにつらいことは起きていないと思うんですが……

来院して不調を訴える患者さんに「何かストレスはありますか?」と聞いても、思い当たる大きなものがない人もいます。

たとえ小さな変化のストレスでも、それがたまりにたまってしまうと、ある時に噴火してしまうこともあります。
そして昇進とか結婚とか、通常なら「ポジティブなもの」と考えられる変化でも、実はストレスがたまっているんです。

神戸市精神保健福祉センターが、変化によるストレスをチェックできる「ストレスマウンテン」というサイト(http://stressmountain.jp/index.html)を開いています。

長引くコロナ禍「会えないしんどさ」

――コロナ禍によるストレスも影響しているのでしょうか?

「ずっと家にこもっていなければならない」という状況は、人類史上ほぼなかったことですよね。

全国的なデータではないのですが実感として、コロナ禍の直後、人間関係のストレスが強く影響する過敏性腸症候群(IBS)の患者さんの来院は減りました。

人間関係の悩みが減り、ストレスが減って、腸の炎症が出る人も減ったのではないかと推測していました。

一方で1年ぐらい経って、今度は「人と会えないしんどさ」「感情の出し先やコミュニケーションがなくてつらい」といった違う方面のストレスを感じる患者さんが増えたように感じます。
過去半年に経験したことをチェックして、自分がどのくらいのストレスを抱えているかチェックできます
過去半年に経験したことをチェックして、自分がどのくらいのストレスを抱えているかチェックできます 出典:神戸市精神保健福祉センター「ストレスマウンテン」のサイト
――そんな風にストレスが体の不調になって表れることもあるんですね。

細かいストレスが積み重なって、体に出ていると私は理解しています。

おなかの弱い人は消化器症状に表れますが、片頭痛や不眠、肌荒れといった症状から出る人もいますよね。

そんな身体的な不調がアラームになっているのかもしれません。薬をのんでごまかしたりせず、自身の体の不調には向き合ってほしいですね。

不調なまま働かず、思い切って休む

――医療機関といった専門家に頼ることも大切でしょうか。

「依存先を増やす大切さ」が最近よくいわれていますが、そのうちの一つに医療の専門家も加えてほしいと思います。この「頼る先」は多い方がいいですよね。

たとえば、親友にばかり思いを吐露していると、その親友も同様につらくなったり、面倒だなと感じたりしてしまうかも。

友人や家族のほかにも、精神科や心療内科、カウンセラーや、ネットの知り合いなど、いくつかのコミュニティーに所属して頼れる先をたくさん持って、いろんなところに弱みを出していくことをおすすめします。
出典: 写真はイメージです=Getty Images
――とはいえ、このくらいの不調で休んだり、つらいと言ったりしたらいけないんじゃないか……と考えがちです。

「健康経営」の観点では、心身の不調でパフォーマンスがあまり上がらないまま働き続ける「プレゼンティズム」が問題視されています。

思い切って数日ぐらい完全に休んでしまってから復帰する方が、チーム全体としての損失は実は少ないとされています。

休むのが苦手な人に対しては、上司や同僚から「不調なまま働き続けるよりも、休んでから働いた方がチームとしてもうれしいよ」と伝えた方がいいのかもしれません。

「休むのが苦手」な人へのアドバイス

――「休むのが苦手な人」という言葉に、思い当たるふしがあってドキッとしました。

疲れている患者さんに「休んだ方がいいですよ」とアドバイスすると、「どうやって休んだらいいの?」「休み方が分かりません」という方が結構いるんです。

きっと30~40代ぐらいまで、休む能力を獲得せずに働き続けてしまったのだと思います。真面目でストイックな性格の方が多いので、その場合は「休む努力をしましょう」「一生懸命休みましょう」と伝えます。
出典: 写真はイメージです=Getty Images
――特にコロナ禍以降、在宅勤務だと「仕事から離れる」時間の確保や、仕事とプライベートの切り替えが難しいなとも感じます。

テレワークが広がったことはメリットもある一方で、隙間時間にもミーティングを入れてしまうなど、さらに休まなくなった人は多いのではないでしょうか。

移動時間にぼんやりする、同僚とランチや雑談をするといった「強制的なオフ」がないので、意識的に「オフ」をつくらないとしんどくなります。

私の場合は、会議の合間には「手挽きのコーヒーをゆっくりいれる」という時間を必ずつくって、優先すると決めています。

どこか私たちは時間に追われて、効率化を考えがちです。自分の好きなものと向き合う時間をちゃんと作って、仕事をシャットダウンするという「休息」をまじめに考えた方がいいと思います。
 

しんどい時は「大きな判断は保留して」

――石井さん自身、10代の時に潰瘍性大腸炎を発症して苦しんだ時には「死んでしまいたい」と思ったことがあるそうですね。

学校に行こうとしたら駅でおなかが痛くなって、どうしようもなくなって。いま振り返るとありえないことだと分かっているんですが、「こんなにしんどいなら、電車に飛び込んでしまおうか」なんて思ったこともあります。

自分の力ではどうにもならない「病気」に追い込まれ、視野狭窄になっていたんです。

そういう追い詰められた状況では、「ここから逃げ出すには死ぬしかないんじゃないか」という、それまで考えてもいなかったことが突然頭をよぎってしまうんです。

そんなにつらい状態にある人に「死なない方がいい」という正論は届かないと思います。だからこそ伝えたいことは、心身が不調だったり、急性期のストレスを抱えたりしている時は「とにかく大きな判断は保留して」ということです。

日々の「当たり前のこと」を大切にする

――心の不調を防ぐためにできることはありますか。

まずは自分の体に頓着することだと思います。普段より疲れやすくなっていないか、意識的にみてみること。次に、つらいニュースや情報をシャットダウンしてみることです。

コロナ禍のなか、ロシアによるウクライナ侵攻や、著名人の自死のニュースといった不幸なニュースがどんどん入ってくると、それを自分のこととして辛い気持ちになってしまうこともありますよね。

――つらいニュースを自分事のように感じてしまうことはあると思います。

つらいニュースを自分とは切り離して、今は人類史上まれにみる、コロナ禍という過酷な環境にいることと、そういったつらい情報に自分が影響を受けやすいということを自覚することも大切だと思います。

――意識してつらい情報から離れて、日常を送ることも大切ですね。

この「心の不調」って「特効薬」はないんですよね。

お風呂に入って、歯磨きをして、ちゃんと寝る、食べる、散歩する……そんな当たり前のことを当たり前のようにやることが大切です。

逆にいうと、そんな当たり前のことや、自分が楽しいと感じていた趣味のことさえできなくなったら心の不調のサインだともいえます。
 
出典: 写真はイメージです=Getty Images

「何かできたんじゃないか」と追い詰めない

――石井さんは大学生の時、ご友人が自死した経験があるそうですね。

彼が出していたサインには気づけませんでした。ラーメン屋さんでなんとなく「体調が悪い」と伝えてくれたこともあったのに、「そうは言ってもラーメン食べてるしなぁ」と思ってしまった。

「その時に話を聞けていたら」と自分を責めたこともありましたが、いま医師になって思うのは、「何かできたんじゃないか」と自分を追い詰めない方がいいということです。

身近な人を亡くしたダメージも受けているし、まずはそのグリーフケアが大切だと思います。

そして「自分は何かできたはずだ」という考えもおこがましいですよね。

誰かが死を選ぶとか、世界で感染症が流行するとか、外国で戦争が起きるといったことは、今では「自分ひとりではどうしようもないこと」と俯瞰して考えられるようになりました。
相談窓口を紹介する厚労省のページ。SNSで相談を受けつける窓口も紹介しています
相談窓口を紹介する厚労省のページ。SNSで相談を受けつける窓口も紹介しています 出典:まもろうよこころ
――コロナ禍や世界情勢の前では無力感もおぼえてしまいますが、特に心身がつらいときには、自分の力では変えられないことを思い詰めない方がいいということですね。

いま在宅診療で100歳のおばあちゃんとお話することがあるんですが、若い頃に戦争に巻き込まれた話をしてくれました。

今回のコロナ禍が私たちにとってそうだったように、人生では、どうしようもなくしんどいことに巻き込まれることがあります。

そんな時につらいのは、あなたが弱いからではありません。自分の力でなんとかできる関係性を整えて、自分を守って、「無理せず乗り切ろう」と伝えたいですね。
◆こころの不調の相談窓口はこちら
【厚労省の相談窓口ページ】
まもろうよこころ(https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/)

【10代のための相談窓口】
チャイルドライン
18歳以下の相談窓口。電話やチャットで相談できます。サイト内では、誰にも見られないように「つぶやく」こともできます。
Mex(ミークス)
10代のための相談窓口まとめサイト。なやみに関する記事や動画も見れます。
TEENS POST(ティーンズポスト)
 手紙やメールで相談できます。対象は13〜19歳。

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