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お金と仕事

「働き方改革」より子どもの「勉強のさせ方改革」を 起業家の危機感

これじゃあ、まるで疲れたサラリーマンだ…

夜遅くまで宿題に追われる子どもたち。大人よりも“働き方改革”が必要なのでは? ※画像はイメージです
夜遅くまで宿題に追われる子どもたち。大人よりも“働き方改革”が必要なのでは? ※画像はイメージです 出典: Getty Images

目次

働き過ぎと言われてきた日本でも、最近では「ワークライフバランス」が大事にされるようになりつつあります。ネットのベンチャー企業を立ち上げ、誰よりも“モーレツ”に働いてきたと自負する加藤公一レオさんが今、気がかりなのが、大人の働き方よりも子どもの勉強のさせ方です。スマホやネットが浸透した時代、子どもにとって大事な学び方とは何か? ベンチャー企業の視点から教育についてつづってもらいました。

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加藤公一レオ(かとう・こういちれお) 1975年、ブラジル・サンパウロ生まれ。アメリカで育ち、西南学院大学を卒業後、三菱商事入社。大手広告会社のアサツーディ・ケイ(ADK)などを経て、2010年に売れるネット広告社を設立
加藤公一レオ(かとう・こういちれお) 1975年、ブラジル・サンパウロ生まれ。アメリカで育ち、西南学院大学を卒業後、三菱商事入社。大手広告会社のアサツーディ・ケイ(ADK)などを経て、2010年に売れるネット広告社を設立

大人の“働き方改革”が叫ばれているが

近年、“働き方改革”が叫ばれるようになり、「休日出勤や長時間の残業は“悪”」「仕事だけでなくプライベートの時間も重視して、ワークライフバランスを整えよう」という風潮が日本社会の主流になりつつある。

大学卒業後、三菱商事と大手広告代理店のADKを経て、2010年に『売れるネット広告社』を起業した私は、「20代の頃に誰にも負けないくらい働いたから今の自分がある」という自負がある。だからぶっちゃけ、長時間働きたい人は働けばいいと思っているし、“働き方改革”によって“長時間働く自由”を奪うことは、日本の国力を弱体化させることにつながると考えている。

そんな風に、なぜか大人の働き方や大人のワークライフバランスばかりに注目が集まっているが、急ぐべきはむしろ、子どもの“勉強のさせ方改革”ではないだろうか。

「ライフスタディバランス」が崩れている

私はアメリカ育ちということもあり、小さい頃からあまり勉強せずに自由に遊んで育った。私には3人の子どもがいるが、私の子ども時代に比べ、日本の子どもはつくづく大変だと思う。

日本の親が教育熱心なのはわかるし、受験勉強が大事なのもわかるが、「小中高生の子どもが塾から帰るのが22時過ぎ」でいいのだろうか?
勉強をいっぱいさせて、あまり遊ばせず、青春を犠牲にさせる。そんな日本の子どもの生き方は、「ライフスタディバランス」が崩れているように見える。

窓際の席で勉強に励む中学生=2017年8月29日、杉戸町立図書館
窓際の席で勉強に励む中学生=2017年8月29日、杉戸町立図書館 出典: 朝日新聞

中高生の8割以上が「もっとゆっくり過ごしたい」

2013年にベネッセ教育総合研究所が行った「第2回 放課後の生活時間調査」結果も、日本の子どもが忙しく、ゆとりのない日々を送っていることを裏づけている。

ベネッセ教育総合研究所 [インフォグラフィック]ゆとりがない子どもたちの放課後
ベネッセ教育総合研究所 [インフォグラフィック]ゆとりがない子どもたちの放課後 出典:https://berd.benesse.jp/up_images/research/2014_houkago_Info1.pdf

正直、回答の内容だけを見ると小中高校生というよりは、“疲れたサラリーマン”を対象にした調査結果のようである。この調査結果には、一人の親として強い危機感を覚える。

小中高生といえば、まだ身体も精神も発育途上にある子どもである。そんな子どもが「疲れやすい」「もっとゆっくり過ごしたい」と思ってしまうほど、勉強、勉強で忙しくさせてしまうのは、子どもの健全な成長に悪影響を与えてしまう気がしてならない。

本当にブラックな生活をしているのは大人ではなく、日本の小中高生ではないだろうか。国が規制をかけて守るべきは大人の労働者ではなく、日本の“ブラック教育”の犠牲になってしまっている子どもたちだ。

「夏休みの宿題」がないアメリカ

私がアメリカで小中高生時代を過ごしたころは、「夏休みの宿題」は一切なかったので、夏休みの3ヵ月間は遊びほうけていた。

アメリカの子どもにとって夏休みとは、家族で長期旅行に出かけたり、ゴルフやアートのレッスンを受けたりと、自分が興味のあることに集中して取り組む時間だ。

私の場合は高校から水泳部に入ったが、夏休みのあいだは部活が休みになるので、別のスイミングスクールに行って泳いでいた。「サマースクール」といって、夏休みのあいだも学校で補講が受けられるプログラムもあったが、それに参加する子どもはほとんどいなかった。

親の方針にもよるが、アメリカの子どもの夏休みとは、勉強よりも普段行けない場所に行って視野を広げたり、スポーツやアートに触れたりして、『自分の可能性を広げるための時間』になっている。

日本の「夏休みの宿題」にメリットがまったくないとは言わないが、普段から塾で遅くまで勉強しているのに、夏休みにも学校の宿題や塾の夏期講習に追われ、勉強のことを忘れて思いっきり羽を伸ばすことができないのはいかがなものだろうか。

アメリカでは、勉強の成績だけでなく、クラブ活動やボランティアといった課外活動が重視される傾向にある。そうしたこともあって、「受験のネタ」を仕入れる意味でも、夏休みにボランティアをしたり、空手の黒帯をとったりと、机での勉強以外の活動に力を入れる子どもが多い。

問題用紙が配られ、センター試験の開始を待つ受験生ら=2019年1月19日午前9時16分、東京大学、林紗記撮影
問題用紙が配られ、センター試験の開始を待つ受験生ら=2019年1月19日午前9時16分、東京大学、林紗記撮影 出典: 朝日新聞

“働き方改革”の前に子どもの“勉強のさせ方改革”を

アメリカの子どもが自分の好きなことに時間を使えるのとは対照的に、日本の子どもは普段から塾で遅くまで勉強して、さらに夏休みも宿題や補講に忙殺されている。

私の娘もいつも夜遅くに塾から帰ってくるし、夏休みですら補講で学校に行っている。アメリカで小中高時代を過ごした私からすれば、夏休みも学校で補講を受けるなんてまったく意味がわからない。夏休みが夏休みになっていない。

ここ数年は国が大人を対象に“働き方改革”に力を入れているが、子どもたちの置かれた状況を考えると、小中高校生を対象として“勉強のさせ方改革”をした方が良い。勉強を労働時間と考えると、今の子どもは長時間労働とサービス残業のまっただ中にいるようなものだ。

だから、“ブラック教育”から子どもを守るために国がルールを決めるべきである。

子どもを鬱や自殺から守るためにも、子どもの“勉強のさせ方改革”によって「“長時間勉強”の是正」をしたほうがいい。それは、大人の“働き方改革”よりも喫緊の課題である。

何度も言うが、国が規制によって守るべきは大人ではなく、発育途上の子どもである。

センター試験会場の教室に向かう受験生ら=2018年1月13日、東京都文京区の東京大、関田航撮影
センター試験会場の教室に向かう受験生ら=2018年1月13日、東京都文京区の東京大、関田航撮影 出典: 朝日新聞

ベンチャー経営で痛感した限界

義務教育で保健体育や家庭科、美術、音楽など、いわゆる「受験科目」以外の教科もバランスよく教えている点など、日本の教育には優れた面もあり、「日本の教育が100%ダメで、欧米の教育が100%素晴らしい」とは思わない。

ただ、日本のインプット教育には大いに問題があると考えている。日本の教育に一番足りないのは『アウトプット』の訓練である。日本の教育は“受験”をゴールにした「暗記」インプット主体なので、社会に出た後に役に立たないし、それでは世界と戦えない。

むしろ、世の中で成功するために重要なのは『アウトプット』だ。学校では人前でプレゼンをさせたり、ディベートを通じて自分の考えや意見を述べさせたり、『アウトプット』する教育に変えるべきである。

私自身、ベンチャー企業を経営する中で、暗記教育の限界と、アウトプットの大切さを日々感じている。

私に言わせてみれば、「インプット教育は“歯車”を育てる制度」であり、「アウトプット教育は“エンジン”を育てる制度」だ!

「暗記」を主体としたインプット教育では、「知識」は増えるかもしれないが『知恵』が育たない。今の日本の教育では、言われたことをマニュアル通りこなす社会人が量産されるが、自分の頭で考え、自ら仕事を創り出すビジネスパーソンは一向に増えていかない。

仕事というのは、明確な答えのないコミュニケーションの連続である。受験勉強なら参考書や過去問を見れば答えが出せるが、インプット教育ばかり受けていてもプレゼン能力は育たないので、実社会に出て、上司やクライアントに自分の意見や考えを伝え、説得するという場面では歯が立たないのである。

反対に、子どもの頃からアウトプットの訓練を受けていると、自分の意見や考えを相手に堂々と伝えられるようになるし、常に意見を求められる環境で育つと、自分の頭で考え、自分なりの意見や考えを持つ習慣が身につく。アメリカで育った私は、小学校の頃に「show and tell」をやらされ、中学・高校と「ディベートやプレゼン」の連続だったので、就職活動のときも楽勝だったし、社会に出てからも非常に役立った。

大企業の姿に重なる変わらない日本の教育

日本の教育制度は明治維新以降、基本的にほとんど変わっていない。ネットで検索したらあらゆる情報が手に入る今、150年間ほとんど変わらない詰め込み教育のために子どもたちの貴重な青春を犠牲にする意味はあるのだろうか。

スマホひとつであらゆる知識が得られる時代になったからこそ、「どうすれば自分の知りたい情報が見つけられるのか」「得た情報をもとにどのように考えればいいか」、あるいは「得た情報から感じたこと・考えたことをどう表現すればいいか」、そういった部分に教育の軸足を移していくべきだ。

さきほど「インプット教育は“歯車”を育てる制度」で「アウトプット教育は“エンジン”を育てる制度」だと述べたが、日本の教育の残念さは、日本の大企業のあり方と重なる。

インプット教育ばかり受けてきた日本人は、社会に出てからも上から言われたことを淡々とこなす“歯車”になりがちだ。指示がないと動けない人が多い反面、言われたことは真面目にちゃんとやるので、経営者にとってはある意味都合がよかった。

しかし、超高齢社会を迎え、人口減少が進み、新興国との競争も激化している今、高度成長期と同じようなやり方を続けていてはイノベーションは生まれない。“歯車”を量産するような教育のあり方を変えない限り、日本は世界からどんどん取り残されるだろう。

日本の教育が『アウトプット』重視に転換すれば、膨大な情報を“暗記”する必要はなくなる。そうすれば、毎日遅くまで塾で勉強なんかしなくても、社会に出たときに活躍できる人材は今よりもむしろ増えるのではないだろうか。

そうした視点に立てば、これまでのような“長時間勉強”を前提にしなくても、優秀な人材を育成することはできるはずだ。日本の将来のためにも、大人の“働き方改革”よりも、子どもの“勉強のさせ方改革”を急いだほうがいい。

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