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息子が突然、白目を…トゥレット症、当事者として体験した不安の日々

「検索ではダメだ」支え見つけるまで

これまでしなかったような顔の動きをし始めた息子(右)。情報が少ない中、家族は様々な情報に翻弄されていきました。普段は妹思いの優しいお兄ちゃんです
これまでしなかったような顔の動きをし始めた息子(右)。情報が少ない中、家族は様々な情報に翻弄されていきました。普段は妹思いの優しいお兄ちゃんです

目次

白目を剥いたり、鼻の下を伸ばしたり……息子が、これまでしなかったような目や顔の動きを頻繁に見せるようになったのは、昨年の秋頃でした。「びっくりするから、やめなさい」。わざとやってるのではないかと思っていた私は、気づくたびに注意していました。情報が少ない中、ネットの情報に頼り、さらに不安が増すことも。自分の息子が「トゥレット症」と診断され、支えを手に入れるまでの日々を振り返ります。(長谷川美怜)

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突然白目を剥く息子に戸惑い

※この記事の内容は当事者家族の経験に基づき、専門家や他の当事者に取材したものです。すべての方に当てはまるわけではないため、子どもの発達に気になるところがある場合、まずはかかりつけの医療機関にご相談ください。
 

「びっくりするから、やめなさい」

息子の動作に対して、わざとやってるのではないかと思っていた私は、気づくたびに注意していました。

こんな時にまず頼りにしてしまうのはネット検索です。

「クセ」「鼻の下伸ばす」などのキーワードを入れて検索すると、「大半がしばらくすると消える」「注意しない方がいい」とのアドバイスが並んでいました。

何も言わないようにしよう。そう決めてしばらく過ごしたのですが、逆にチックは大きくなっていき、白目を剥いて顔をゆがませるような動きまで出てきました。

幼稚園の先生にも聞いてみると、「園でも、そういう顔をすることはあります」とのこと。「お友達にからかわれたりしてませんか?」恐る恐る聞いてみましたが、「そんな様子は見られませんよ」。

先生の答えを聞いて少しは安心したものの、今後もこのまま楽しく園で過ごせるのか、不安は消えないままでした。

幸い幼稚園では楽しく過ごしていた息子でしたが、このままずっと楽しく過ごせるか、不安は消えませんでした(画像はイメージです)
幸い幼稚園では楽しく過ごしていた息子でしたが、このままずっと楽しく過ごせるか、不安は消えませんでした(画像はイメージです) 出典: Getty Images

私の子育てが間違ってた?

かかりつけ医にも相談しました。「チックでしょうね。ストレスが原因だろうから、なるべくストレスをはぶいてあげて」。

確かに、私自身が忙しくしていて、あまりちゃんと構ってあげられなかったかな。ガミガミ色々言い過ぎてきたかな。「自分の子育てが間違っていたのかも」、そう思い悩むようになりました。

その頃、息子が年上の男の子とテレビゲームをしているときに、その男の子から「どうしてそんな顔してるの?」と聞かれているのを目撃しました。とうとう友達にも指摘されてしまった。私の不安は更に加速し、ネットでますます検索するようになりました。

大人になってもチックが残り、さらに、飛び跳ねたり、声が出たり、汚い言葉も出てしまうこともある人もいるという情報も目にしました。そして、それは「トゥレット症」と呼ばれて、根本的な治療法はないとのことも知りました。不安に駆られて、経験談を読みあさるようになりました。

しかし、厚労省に公式の情報はほとんどなく、厚生労働省が支援する難病情報センターにあるページは12年前の情報で止まっていました。

【関連リンク】神経系疾患分野|トゥレット症候群(平成22年度) – 難病情報センター

「ネット検索だけに頼っていたらダメだ」

私にとって未知過ぎるチックやトゥレット症に、ネット検索だけでは立ち向かえる自信がない。そう思い、都内の専門病院の診察を予約。また、当事者の方が代表を務める「トゥレット当事者会」に連絡を取ることにしました。

ドツボにはまるようにネットでチックについての情報を読み漁っては不安になっていました(画像はイメージです)
ドツボにはまるようにネットでチックについての情報を読み漁っては不安になっていました(画像はイメージです)
出典: Getty Images

専門病院で「トゥレット」と診断

専門病院に予約希望を申し込んでから2カ月ほどで、初診を受けることができました。

トゥレット症は、運動チック、音声チックが1年以上持続しているもの、と定義されます。私の息子の場合は、振り返ってみると「ン、ン」と喉を鳴らす音声チックが2歳頃から断続的にあったほか、顔を振ったりする運動チックが5歳頃からやはり断続的にあったため、トゥレット症との診断となりました。

医師からは、トゥレット症が、脳の様々な部位や神経伝達物質が関連する神経系の疾患と見られている、といった説明を受けました。血液検査で鉄分が不足していることがわかったため、鉄剤を処方されたほか、ゲームの時間を減らすこと、また、脳の動きを活性化させるために運動をするように、と指導されました。

「チックの指摘はしない方がいいんですか」「ストレスが関係するんですか」。そう尋ねると、医師は「多少はあると思いますが、基本的にあまり関係ないです」とのお答え。それよりも、脳の働きの問題が大きいとのこと。これを聞いて、正直、心が少し楽になりました。

当事者の自立を応援したい

この初診から約1週間後、当事者会の谷謙太朗さん(43)による面接を受けました。

トゥレット症の当事者として、自分自身が様々な薬物療法、認知行動療法、栄養療法を試されたという谷さん。当事者やその家族と交流してきた経験も踏まえながら、オンラインコミュニティを運営しています。

谷さんがチックを発症したのは3,4才の頃。軽いまばたきからでした。中学生の頃から音声チックが始まり、叫び声で近所からクレームが来ることもありました。高校では、チックを我慢し過ぎたせいか体調が悪くなり救急搬送されることも。大人になってますます悪化し、頭を壁に打ち付けるチックも加わるようになりました。

就職してもチック症状があるため続かず、転職を続ける生活に。精神科で処方された薬も、眠気などの副作用が強い割に、それに見合う効果はありませんでした。困り果てていた頃に、精神科から紹介され受診した東京大学病院で出会ったのが後述する認知行動療法の「CBIT(シービット)」。アメリカでの研究で、特に中等症のトゥレット症に効くという研究結果が出ており、同院でのCBITは谷さんにも効果がありました。

谷さんは自身の病気に向き合う中で、治療法が確立していないために、様々な情報に翻弄される家族の姿も目にしていました。

また、当事者が10~20代の頃チックで引きこもり、やっと30代に症状が落ち着いても、社会復帰に苦労していることも知りました。

オンラインで交流し、様々な治療法についての情報交換や、社会への啓発活動も同時に行っていけないか。そう考え、「トゥレット当事者会」を設立したのが、2019年8月でした。

当事者会代表の谷謙太朗さん
当事者会代表の谷謙太朗さん

症状を軽減するトレーニング

トゥレット症の症状を軽減する可能性があるのが、前述したCBIT(シービット)と呼ばれる認知行動療法です。

CBITはなぜチックが出るのか、なぜチックをしたくなるのか、その原理や各自にとっての悪化因子を把握し、当事者が自らチックの前駆衝動を鎮め、チック症状をコントロールする方法を学び、その症状を改善させる一種のトレーニングのようなものです。

谷さんのような当事者により提供されるもの、専門家により提供されるものもあります。どのような違いがあるのか、東京大学・届出研究員で、CBITについて研究する臨床心理士・公認心理師の白百合女子大・松田なつみ講師に話を聞きました。

「当事者によるCBITは、ご自分がCBITを受けて実感したことや、当事者にしかわからない特有の身体感覚など、当事者だからこそできるCBITであり、救われた方が多くいらっしゃると思います。

CBITは当事者の方の工夫や対処法に近く、より効率的に対処していく中で症状の減少を期待するもので、当事者の方だからこそできることが大きい分野だと思います」

一方で、専門家によるCBITが望ましい場合もあります。「併発症状がある場合や重症で特別な対応が求められる場合などは、専門家が対応にあたることが望ましいことも」(松田講師)。また、CBIT以外の認知行動療法については、実施者の資格については慎重な判断が求められる、とします。

当事者家族として感じるのは、医療現場での専門家によるCBITをどうすれば受けられるのかわかりにくく、アクセスしづらいということでした。

「医療現場での専門家によるCBITについては、私自身も多くの人が参加できるよう研究の準備を進めていますし、他大学でも研究が始まっており、少しずつ日本でも受けやすくなっているのではないかと思います。

今後、専門家が提供するチックへの行動療法も当たり前の選択肢の一つとして選べるように、当事者の方々と一緒にCBITの普及や研究を進めていけたらと思っています」

当事者会の谷さんもCBITの個人・グループセッションを提供しています。これまでに、オンラインコミュニティに参加したり、CBITのセッションを受けたりした人は、のべ1千人を超えたといいます。

谷さんは、「トゥレット症への万人に効く対処法は今もないため、不安になるかもしれません。だからこそ、先行者に頼ってほしい」と話します。

当事者会作成の啓発ポスターより。トゥレットへの理解が進むことで、当事者や家族がより生きやすくなるはず、との思いから、ポスター、ブログ、動画等で、トゥレット症の紹介をしています
当事者会作成の啓発ポスターより。トゥレットへの理解が進むことで、当事者や家族がより生きやすくなるはず、との思いから、ポスター、ブログ、動画等で、トゥレット症の紹介をしています

子どもと始めた「アウェアネストレーニング」

息子の場合、本格的なトレーニングを始める前に、まずは自分自身のチックの前駆衝動に気づくための「アウェアネストレーニング」をするよう、谷さんからアドバイスを受けました。

これは、子どもと親が向き合って、チックが出たら手を挙げるという動作を、どちらが速くできるか競い合うというもの。一定程度、子どもの方が速く手を挙げるようになったら、今度は、子どもにチックが出そうになった段階で手を挙げて、と伝えます。

「今はオラの方が速かったよ!」「今のはチックじゃないよ!」と、息子は積極的に参加してくれました。テレビを見ながらでもOKとのことだったので、テレビを見ながらやったり、ゲームをしながらやったり……そうしていくうちに、いつの間にか、大きなチックがほとんど出なくなっていったのです。

約3週間後の2回目のセッションの際には、ほとんど大きなチックは出なくなったということで、一旦様子を見ようということになりました。

ただし、トゥレット症は、一度収まったとしてもまた年齢とともに再発することが珍しくありません。また、谷さんの経験や他の当事者の方の事例からも、環境の変化や、興奮、ストレスがやはりトリガーになることもあり得るとのこと。

谷さんは、「たとえ再発したとしても、今回のようにトレーニングでコントロールすることは可能です。適切かつ冷静に対応していきましょう」と話します。

トゥレット当事者会のホームページ
トゥレット当事者会のホームページ
出典:https://www.tourette.jp/

私自身、無知から差別していたかもしれない

今回の息子の診断でトゥレット症を知り、私自身も「そういえば、あの人もトゥレット症だったのかもしれない」という場面を思い出すことがありました。

電車の中で、職場でも……でも、そのとき、病気のことを知らなかったために「おかしな人だな」で終わらせてしまっていました。


谷さんに出会い、トゥレット症の方々のことを知り、当事者の家族として、私自身励まされると同時に、かつての自分がしたような無知による差別が、社会からなくなってほしいと、心から願うようになりました。

私がオロオロと悩んでいたころ、息子がふとこんな一言を私に言ったことがありました。「生まれてきてよかった。楽しいことがたくさんあるもん」。私の様子を、息子なりに感じ取って、私を安心させようとしたのかもしれません。

今後またチック症状が出たとしても、息子には「生まれてきてよかった」、そう思ってほしい。この病気と長い付き合いになっていくであろうことを考えると、こうやって、医療の専門家、社会で活躍されている当事者の方につながっているということは、親にとって何よりの支えになる、と感じています。

トゥレットのことを学びながら、息子自身をしっかりと見つめる。そして、時には周りを頼る。そうやって息子の「生まれてきてよかった」という気持ちを守っていこう、とあらためて思っています。

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