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まるで「炭治郎の無意識領域」…コロナ禍でも復活したリゾート地とは
新型コロナウイルスの流行により移動が制限され、世界各地の観光業が大きな打撃を受けています。そんななか、インド洋の島国モルディブでは、コロナ後に激減した観光客が大幅に戻りつつあります。ウィズコロナ時代の観光を模索するリゾート地の取り組みを、ライターの我妻弘崇さんが取材しました。
では、「行きたい」と考える人気の海外旅行先はどこなのか? CCCマーケティング総合研究所が、2022年1月に行った生活者意識調査「海外旅行に関する調査」(コロナの影響が落ち着いてきたら「今後行きたい場所」)によると、トップ3は、
1位「ハワイ」(48.7%)
2位「台湾」(30.6%)
3位「イタリア」(29.2%)
そして、「オーストラリア」(27.5%)、「アメリカ本土」(26.6%)、「フランス」(26.1%)、「(フィンランド・スウェーデン・ノルウェー・デンマークなどの)北欧」(24.8%)といった諸外国が続く。
同調査では、回答した人に「2015~2019年のコロナ禍前に訪れた渡航先」も聞いているのだが、これが興味深い。
1位台湾、3位韓国、6位タイ、7位香港・マカオ、同率7位シンガポール、10位グアム・サイパンという具合に、トップ10にはズラリと身近な旅行先が並び、基本的に「安・近・短」(安い、近い、短期間でも楽しめる)な場所を訪れている人が目立つ。
ところが、「今後行きたい場所」を見ると、トップ10には台湾のみが残り、ヨーロッパやオーストラリアが急伸。11位以下を見ると、「2015~2019年のコロナ禍前に訪れた渡航先」にランクインすらしていなかった「北欧」、「スイス」、「ニュージーランド」、「カナダ」といった国が名を連ね、「安・近・短」な場所が下位に沈んでいることがわかる。
「海外旅行に求める要素や目的」を見ると、「自然・風景・気候にふれるため」(52.9%)で最も多く、次点に「ゆったりとリラックスするため」(47.6%)が支持を集める。
コロナ禍前と比べると、「ゆったりとリラックスするため」、「日常のストレスから離れるため」、「子どもにさまざまな経験をさせるため」といった目的がポイントを上げており、制限されたコロナ禍を経験したことで、人気の海外旅行先に変化が起こっているのは明らかだ。
先の飲み屋で会った常連さんも、「もし行くなら……ストレスを感じないところがいいな。余計なことを考えたくない」。そういって再びグラスを持ち上げるのだった。
「世界的なパンデミックの最中、多くの人々が旅行に出るのをあきらめ、行きたい旅行先、そして、行こうと思えば行ける旅行先としてモルディブが注目されたのではないかと分析しています」
こう語るのは、モルディブ政府観光局だ。
実は同国は、2020年7月15日から世界各国の観光客に国境を再開。GDPの3分の1を観光産業が支えているだけに、世界に先駆けてウィズコロナの中で観光再開に舵を切った国でもある。といっても、無為無策で再開したわけではない。
モルディブへ出発する96時間以内に発行されたPCR検査の陰性証明書や、出発24時間以内に健康申告書をオンラインで提出するなど、迅速に渡航者の健康を管理するシステムを構築。その結果、世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)からいち早く「Safe Travel Stamp」の認証を取得し、旅行客からの信頼を作り上げた。
また、万が一、新型コロナウイルスに感染した場合に備え、「隔離施設の滞在費、医療費、医療機関への搬送費などがカバーされる『コロナ保険』を、モルディブのアライド保険と観光省が共同で開発しました」とモルディブ政府観光局は説明する。
今後の海外旅行においては、「もしもコロナになったら」は現実的な不安要素となりえる。クレジットカードなどの付帯保険だけでは、どこまでカバーしてくれるのか不明瞭なところもあるし、国ごとに対応が異なる点もまどろっこしい。
それだけに、国が対コロナ保険を用意しているのとないのとでは、安心感がまったく違う。低リスクの旅行先としての付加価値を作り上げるという視点は、観光立国を目指す日本も大いに学ぶところがあるはずだ。
モルディブは家族旅行に最適です🙇🙇♀️。自由に渡航できるようになったら、安全・安心な#モルディブ へ🌞🌈🌊#家族旅行 #南国 #島 pic.twitter.com/OUcfTcls0X
— モルディブ政府観光局 (@JapanMaldives) July 5, 2021
そして、モルディブがウィズコロナの渡航先として人気を集めている最大の理由の一つが、「密になりようがない」という点である。
小島嶼国であるモルディブは、陸地が国土の1%しかなく、1200ほどの島(なんらかの植生がある)から形成されている。うち、住民が暮らす島は200近くあり、リゾートとして機能している島は150ほど存在する。リゾートとして機能している島は、“1アイランド1リゾート”と呼ばれ、基本的に一つの島に一つのリゾートがあるのみ。
たとえば、19ヘクタールというモルディブリゾートの中では比較的広大な敷地面積を持つ「プルマン・モルディブ・マームター・リゾート」というリゾートでは、122のタイプの異なるヴィラを有する。
ちなみに、東京ドームの広さは約4.6ヘクタールなので、「プルマン・モルディブ・マームター・リゾート」は東京ドーム約4個分の広さを誇ることになる。そんな広大な島に、マックス時でも観光客は300人もいない(大人2人(+子ども)のヴィラがほとんど)。
食事のときなどを除けば、人口密度は驚くほど低く、目の前には透明な海と、真っ青の空が広がっている。これほどまでに密を感じない空間はない。
大人気マンガ『鬼滅の刃』の無限列車編で、炭治郎の無意識領域が描かれるが、まさにその風景がいたるところに存在する。「美しさ」、「どこまでも広い」、そしてモルディブは年間を通して26~32℃……「暖かい」。炭治郎の精神世界のような優しい世界が、ヴィラから数分の距離に広がっているのだ。ずっとここに居たい…。
こうした条件が揃うことで、モルディブを訪れる観光客は、2020年が約55万人だったのに対し、21年は約130万人にまで増加。なお、コロナ禍前の2019年が約170万人であることを考慮すると、驚異的な回復力と言える。
なぜなら、UNWTO(国連世界観光機関)の最新データでは、2021年の世界の旅行者数(国際観光客到着数)は、パンデミック前の2019年と比較すると72%減という驚異の減少率を弾き出しているからだ。多くの国がいまだ観光復活への道筋を模索している中で、モルディブは着実に旅行先としてのプレゼンスを高めていると言える。
一足先に観光復活を印象付けたモルディブでは、今年3月13日からはワクチン接種、未接種にかかわらず陰性証明の提出は不要となった(ただし、利用の航空会社やリゾートによっては求める場合もある)。
旅行者が島間を移動する際は、無料の検査を受ける必要があり、陰性であれば渡島が可能となる。他の島へ伝染しないよう措置が設けられ、閉めるところは閉め、開放するところは開放する。このメリハリが日本にもほしいところだ。
密にならない場所は、おのずと「自然・風景・気候にふれるため」、「ゆったりとリラックスするため」といった動機を満たすことにもつながる。
ウィズコロナの中で海外渡航経験のある方ならわかると思うが、とにかく渡航までに用意しなければいけない書類や約束事(48時間以内の陰性証明書など)が増えた。出国前にくたくたになることも珍しくない。そうした手続きのわずらわしさは、旅行先を考える上で、十分な判断材料になりえる時代になったと言える。
“安い”“近い”“短期間”のトレンドから、“あこがれ”“負荷がかからない(なめらかさ)”“中長期”へ。コロナは、旅行においてもニューノーマルを作り出していると言えそうだ。
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