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「素質抜群」なのに人が好きすぎる…保護犬だったいろは、新たな道
犬の「いろは」(メス・1歳)は、耳の聞こえない人をサポートする「ペットアラートドッグ」めざして訓練中です。元々は、より〝狭き門〟である「聴導犬」の候補でした。でも、よくほえてしまうのが聴導犬としては玉にきず。ただ、それ以外の素質は抜群で「なんとか活躍の場を」と「ペットアラートドッグ」の訓練にのぞむことになりました。
いろはは雑種犬で、飼い主のいない保護犬でした。公益社団法人「日本聴導犬推進協会」(埼玉県)が2020年11月、聴導犬の候補として引き取りました。
聴導犬は、盲導犬と法律上は同じ「補助犬」。自動車が近づく音、赤ちゃんの泣き声、火災報知機の音――。生活に必要なさまざまな音を聞いて探し、飼い主に知らせます。協会は、聴導犬を育て、耳の聞こえない人に「貸与」する活動をしています。
人間と暮らし社会参加することから、人に対して興味を持てるか、環境に順応できるかが聴導犬にとっては重要な資質です。候補犬を探しに行った際、5頭ほどの保護犬の中から、いろはだけが選ばれました。
「いろはは、人から離れていきませんでした」。協会の事務局長で、いろはを訓練する水越みゆきさんは、人なつっこい性格をそう振り返ります。
ただ、聴導犬への道は〝狭き門〟です。1~2年の訓練を経て聴導犬になれるのは、10頭のうち数頭だそうです。
残りは、希望する一般家庭にペットとして譲渡されます。
いろはは、抜群の素質がありました。音を聞いて探すことはもちろん、「人の行動を読み取るのが得意でした」と水越さんは話します。
訓練のために一緒に暮らす水越さんが出かける支度を始めると、状況を察して自らトイレを済ませるそうです。
ところが、いろはには聴導犬としては大きな難点がありました。よくほえることです。
「怖がっているわけでなくても、誰か好きな人に会うとうれしくなってほえちゃうこともあります」
聴導犬はペットと区別され、飲食店やショッピングセンターへの同伴は「拒んではならない」と法律に記されています。特別な犬だからこそたくさん訓練されますが、その一環としてむやみにほえないか、評価されます。
「社会に出れば犬が嫌いな方もいます。少しほえただけでも、気分がすぐれなくなる方もいます。だから、不快な思いをさせないように訓練するのです」。いろはは、聴導犬になるのは厳しいと判断されました。
水越さんは悩みました。素質のあるすばらしい子で、〝もったいない〟。でも、ほえやすいのは性格でもある。無理に抑えこんで訓練をするのは違う――。
そんな時に浮かんだのが、長年温めてきた「ペットアラートドッグ」構想でした。
聴導犬のように電車やバスに乗って社会参加する時のサポートまでは求めない。けれども、聴導犬と同じように音に反応する。聴導犬とペットの中間のような、いわば「音に反応するペット犬」を育てて譲渡するアイデアです。
これまでは聴導犬に向かない候補は、ペット犬として一般家庭に譲渡してきました。うち一部の犬を「ペットアラートドッグ」として訓練することを考えました。
いろはには、「適材適所」の構想です。
「いつか取り組んでみたいと思っていましたが、いろはの存在が後押ししてくれました」と水越さん。今年度から日本聴導犬推進協会の事業として始めるそうです。
耳の聞こえない人にとっては、生活の質を上げることにつながりそうです。
事業を始めるにあたり、日本聴導犬推進協会では、試験的に「ペットアラートドッグ」を育てて譲渡しました。
山下智恵子さんは、かつて聴導犬のユーザーでした。聴導犬が亡くなり、生活に困ることも出てきたそうです。
聴導犬が亡くなるまで、目覚まし時計代わりに起こしてくれました。亡くなった後は時計のバイブ機能を活用するなどしましたが、起きられるか不安で睡眠が浅くなったと話します。「ペットアラートドッグ」のベル(メス・7歳)がやってきたことで、「2年ぶりに深い眠りが得られるようになりました」
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