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お笑いの尺、どんどん短く 『キングオブコントの会』に見る新潮流

「シチュエーション系」もテレビ対応

『キングオブコントの会』で新作コントを披露した「ハナコ」の岡部大
『キングオブコントの会』で新作コントを披露した「ハナコ」の岡部大
出典: 朝日新聞

目次

今主流のコントを大きく分けるなら、シチュエーションコントとシステムコントに分類できる。1980年代、劇団出身者が切り開いたシチュエーションコント。一方、1990年代になると、ダウンタウン・松本人志が、短い尺にも適したシステムコントの土台を築く。そして現在、起きているのが両者の融合だ。先日、放送された『キングオブコントの会』(TBS系)から、ショートネタに集約されるコントの潮流を探る。(ライター・鈴木旭)

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演劇畑からシチュエーションコントへ

2022年4月9日に『キングオブコントの会』が放送され、初回と同様に『キングオブコント』にまつわるメンバーで新作コントが披露された。

この番組で見られたのが、シチュエーションコントとシステムコント、二つの絡み合いだった。

シチュエーションコントとは文字通り、シチュエーション(状況)が生み出す登場人物の食い違いや不条理さ、キャラクターの機微で笑わせるコントだ。そもそもは、古くからイギリスやアメリカでコメディージャンルの一つとして親しまれているシチュエーションコメディーが土台となっている。

日本で現在につながるシチュエーションコントの基礎が築かれたのは、シティボーイズやイッセー尾形らが世に知れ渡った1980年代だろう。シチュエーションコメディーを得意とする三谷幸喜氏の劇団「東京サンシャインボーイズ」が登場し、劇団や俳優養成所の出身者がお笑いの世界に入ってくることも多かった。こうした流れの中で、演劇的なコントが支持されていったと考えられる。

その後、バナナマンや東京03といったコント師がシチュエーションコントの可能性を広げていく。彼らのコントは10分以上ある長尺なものが多く、テレビというよりも単独ライブの中でこそ実力が発揮された。

お笑いトリオの「東京03」の3人(左から、豊本明長、飯塚悟志、角田晃広)
お笑いトリオの「東京03」の3人(左から、豊本明長、飯塚悟志、角田晃広)
出典: 朝日新聞

1990年代に生まれたシステムコント

一方、1990年代になって登場したのがシステムコントだ。システムコントとは、「細雪」というコンビで芸人として活動していたコント作家・オークラ氏が個人的に名付けたものだ。

1991年から1997年までレギュラー放送されていた『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ系)のコントの中で見られる“特徴的なシステム”を抽出し、細雪はライブシーンで実践していた。オークラ氏の著書『自意識とコメディの日々』(太田出版)によると、システムコントはこう定義づけられている。

「『演じるコントの世界に1つのシステム(ルールや状況)を作り、そのシステムを前提としてお話を進めていく。そして、そのルールをお客さんに理解させたところで、展開のさせ方や崩し方でさらに笑いを作る』というものである。そのルール自体が笑える仕組みの場合もある」

一般的にはシステムコントよりも、“システム漫才”のほうが聞きなじみがあるだろう。ナイツの“ヤホー漫才”やオードリーの“ズレ漫才”など、一つのシステム(漫才の型)を軸にテーマを変えて披露される漫才のことで、基本的な構造はシステムコントも変わらない。しかし、コントは世界観そのものも特徴となるため、もう少し幅広いニュアンスを含んでいる。

また、漫才が特徴的なシステムを“持ち味”と認識されるのに対して、コントは繰り返し披露することにリスクが伴う。ここが大きな違いだ。シリーズ化されるものもあるが、ほぼ間違いなく芸人は別の形のコントを作る。「システムコントは、あくまでコント設定の一つ」というフィクションならではの宿命があるからだろう。

システムコントのルーツ『ごっつええ感じ』

システムコントのルーツとも言える『ごっつええ感じ』のコントは、そのままダウンタウン・松本人志の世界とも通じている。先日放送された『キングオブコントの会』(TBS系)で披露された松本の新作コント「落ちる」を見ても、特有のシステムがそこにあった。

松本がボーカルを務めるバンドが、チェッカーズの楽曲「俺たちのロカビリーナイト」を自宅とおぼしき平屋の一室で演奏している。サビ終わりでベース担当のさまぁ~ず・大竹一樹がシャウトすると、突如ぽっかりと穴があいて奈落の底へ。その後、すまし顔で大竹は戻ってくるが、何度試しても同じパートで落ちてしまう。

解散危機にまで話が及ぶも、ドラム担当のかもめんたる・岩崎う大が「落ちたら面白いなと思って。そしたら大竹さん落ちて」と告白。原因がわかり解決に向かうと思いきや、やはり岩崎の気持ちは押さえきれず大竹が穴に落ちていくというオチだ。「なぜか落ちてしまう」システムと、その現象に戸惑いながらも必死に解決しようとするメンバーたち、という構図が実に滑稽である。

前回の『キングオブコントの会』(2021年6月放送)では、こうした松本イズムが新作コントの中でオマージュされている。バイきんぐが担当した「壁」は、なぜか包丁を隠し持って隣接した壁に挟まる「スキマ男」を連想させるし、チョコレートプラネットの「ファクトリークルーズ」は、テーマパークのアトラクションのごとく船に乗ってサラリーマンの世界を見学する「サラリーマン・ツアーズ」が下地にあったはずだ(ともに元ネタは『ごっつええ感じ』)。

番組を抜きにしても、バカリズムやさらば青春の光、ニッポンの社長など、システムコントを得意とする芸人は少なくない(当人は、システムコントという意識はないかもしれないが)。松本の笑いは単にシュールという括りに収まらず、コントの仕組みとして今も生き続けているのだ。

若手コント師がショートネタに強い理由

タイトな尺にも適応しやすいシステムコントに対して、シチュエーションコントは長尺なものが多い。ストーリーや演出を重視すれば、自ずと時間も伸びていくからだ。

それだけに、シチュエーションコントを得意とするコント師は、テレビ向きではないとされていた。東京03・飯塚悟志は、2009年のキングオブコント優勝時に「ライブでは10分くらいのネタをやるんで、4分にまとめられるネタは少なかった」と語っている。つまり、本来は4分ネタではなく、テレビや賞レース用に短くする必要があった。

しかし、この文脈にあるハナコやかが屋、金の国といった若手コント師は、見事にこの課題をクリアしている。ピンポイントの状況を切り取り、3分足らず、企画によっては30秒で笑わせたりもする。なぜ若手はショートネタに適応できるようになったのか。その大きな要因として、賞レースが関係しているように思う。

コント日本一を決める大会『キングオブコント』がスタートしたのは2008年のことだ。予選は2分尺、決勝は5分尺(第2回~第10回までは4分)。この時間以内に収めるという逆算のもと、ネタを作るようになったのは間違いない。直接インタビューで聞いた話でも、ネタ時間に対する意識はどの若手も非常に高かった。これが毎年行われる中で、ショートネタが鍛えられ、クオリティーも上がっていったと考えられる。

さらにはバナナマン、東京03、シソンヌらのライブ映像など、シチュエーションコントの教材も豊富だ。「作家性が高く、柔軟にネタが作れる」というのが若いコント師の特徴だと感じる。


お笑いは一筋縄ではいかない

先日の『キングオブコントの会』で目を見張ったのは、ハナコの新作コント「お座敷遊び」だ。

ハナコの3人は芸妓を、バナナマンの2人は客人を演じるのだが、“野球拳で負けたほうがビールを飲めるらしい”というあいまいなルールの中で、なぜか日村勇紀だけがじゃんけんに勝ち続けていく。

何気にグラスを口に運ぼうとしても、あっさりと芸妓や設楽統に制止されてしまう。最終的に日村はビールを一滴も飲めず、ほうほうの体でししおどしの水を飲むというものだった。

これは「設楽に誘われ、初めてお座敷遊びにやってきた日村」というシチュエーションの中で、「なぜか日村だけが飲めない」というシステムが機能したコントだ。システムコントは「逸脱した世界観やルール」を前提としたものが多く、“その世界の人にとっては当たり前”であることから飄々としたキャラクターで笑わせるのも特徴的だが、このコントはその点でも一線を画している。

お笑いは一筋縄ではいかないからこそ面白い。多様なコント師が絡み合う『キングオブコントの会』は、今のコントを語るうえでも外せない贅沢な番組だと感じる。

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