話題
「父ちゃんはここにおるよ」 亡くなった人と「もう一度家族写真を」
実写とイラストでつなぐ「いま」の姿
両親と幼い兄弟が寄り添い笑う4人の「家族写真」。ただひとつ、いつもの写真と違うところは、父親がイラストで描かれている点です。「大切な人を失った家族の元へ赴き、写真とイラストでもう一度故人と共に家族写真を撮る」。そんな企画を始めたカメラマンとイラストレーターがいます。
友人のイラストレーターのアツダマツシさん(@atsudamatsushi )と共同企画を始めました。
— 渡邉力斗 (@teveeeeeez) October 15, 2021
大切な人を失った家族の元へ赴き
写真とイラストでもう一度故人と共に家族写真を撮ろうという企画です。
↓続く pic.twitter.com/uMndOWHbcL
父親を囲み、満面の笑みを浮かべる3人。父親は長男の肩にそっと手を添え、表情をゆるめます。
父親が亡くなったのは、次男がまだおなかの中にいるときのこと。
これが、家族4人で写る初めての「家族写真」です。
渡邉さんのツイートには、「なんて心温まる一枚なんだろう」「ずっと涙がとまらない」「なんてステキな家族写真」など多くの反響が寄せられました。
イラストで描かれた父親・古石洋平さん(享年39)は、渡邉さんがフリーのカメラアシスタントだったころからお世話になっていた先輩カメラマンです。
「お前はちゃんとした方がええ。ちゃんと就職して修業しろ」
ずっと渡邉さんの背中を押し続けてくれました。
渡邉さんが写真事務所への就職を報告すると、とても喜んでくれた古石さん。
しかしその翌日、突然この世を去りました。
「本当に突然のことで、亡くなられたと聞いても全然実感がわきませんでした。僕に何かできることはないか。そう考えてこの企画を依頼しました」
今回、死をテーマにした企画を始めた背景には、中学生のころ父親を亡くした渡邉さんの思いがあります。
「父が亡くなった後、振り返ってみると家族全員で写った写真が1枚もありませんでした。写真館で写真を撮る家庭ではなかったのですが、本当に心残りです」
大学2年のときにカメラと出会い、写真館でアルバイトをして家族写真を撮る人が多いことを知りました。
周りの人のかけがえのない瞬間をたくさん撮ろうと目指したカメラマン。家族写真の大切さは身に染みています。
「小っ恥ずかしい」「いつでも撮れる」と思っているうちに先延ばしにしてしまうことも理解しています。
でも、大切な人がこの世からいなくなってしまったら?
自分のように後悔してほしくないと、SNSなどで家族写真の大切さを発信してきました。
一方で、大切な家族を失った人へ、自分にできることはないか、誰かの救いになることはできないかーー。
そう考えているときに仕事でアツダさんと出会い、「毒のない、平和なイラスト」にほれ込んで声をかけました。
「写真だけでは失った家族と共に写ることはできませんが、アツダさんのイラストと合わされば今の家族の姿と共に写すことができると思いました」
アツダさんは「僕には実体験があるわけではないので、当事者の方にとっていいものができるのか不安はあった」と振り返ります。どんな表現がいいか模索しながら進めているそうです。
事前に故人の写真をもらい、思い出を聞いてイメージを膨らませます。どんなイラストがいいかあらかじめ思い浮かべますが、実際写真を見ると思っていた表情と違うことも。
「この人は優しそうな顔をしてるなとか、こんな笑い方をするんだろうかと想像しながら描いています」
古石さん・中井さん家族の写真の周りには、魚の絵も描きました。
「京都の海辺の街での撮影だったので、近海にすんでいそうな魚たちが家族を見守っているイメージでした」とアツダさん。
「回数を重ねていきたい企画です。続けるうちにどれも同じ印象になるのはよくありません。撮影地の特徴や当事者さんの雰囲気を表現できる方がいいなと思います。今後も当事者の方が喜んでくれるモチーフ選びをしていきたいです」
今年4月3日には、渡邉さんが2作目をツイートしました。
イラストレーターのアツダマツシ氏( @_atsudamatsushi )との共同企画の第二弾が完成しました。
— 渡邉力斗 (@teveeeeeez) April 3, 2022
今回は7年前に最愛の恋人を無くした女性
黒木美沙さん( @misamisa116116 )のお話です。 pic.twitter.com/Tm1xEOYNKU
邦楽ロックが好きでよくライブに行っていたこと。
原付バイクに乗って阿蘇山を登ったこと。
1日かけて故人との思い出を聞き、写真とイラストのイメージを固めました。
依頼のきっかけは、1作目のツイートです。
反響は大きく、「大切な人を亡くして苦しんでいる方がたくさんいることを肌で感じた」と渡邉さんは話します。
同時に、依頼者の思いにどう寄り添っていけばいいか、難しさも感じました。
「大切な人を失って間もない方から、わらにもすがる思いでお声がけいただくことが多かったように思います。最近大切な家族を亡くされて何も手につかないという方からも依頼がありました」
「この企画は『作り物』でしかありません。実際に会えるわけではないし、亡くなった方の代わりにはならない。わらにもすがる思いで連絡してくれた方を助けることはできないのかな、余計むなしくさせてしまうのではないか、と悩んでいます」
大切な人たちとの別れを経験し、「その人への思いが強ければ強いほど、死は忘れることができない。慣れることが正しいのかもしれない」とも考えます。
忘れることはできない。忘れないからこそ、その人は生き続ける。渡邉さんたちの作品では、故人を他者に知ってもらうことで「忘れない」きっかけになることも意識しています。
ツイートには次のように記しました。
”私たちの作品は、けして失った人ともう一度会える訳ではないですが、その人を思い返す手助けはできると思っております。
この投稿を見て下さった方々に知って貰う事が大切で、
こうして形に残す事で、お2人の思い出が誰かの記憶へと刻まれ、忘れ去られない限り思い出は生き続けると思うので。”
”私たちの活動は死をテーマにしてますが、決して暗いものにはしたくありません。
最大限の笑顔で、最大限の明るさを、
家族を思って心が温かくなるような作品を作りたいのです。
亡くなった家族が本当にそこにいるような、楽しい作品を。”
ご家族の「一番の笑顔」を残すため、今後もライフワークとして活動を続けていくといいます。
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