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お金と仕事

「春闘」って何やってるの? 交渉の〝そもそも〟聞いてみた

まずデータ、時には会社に協力も

春闘の労使交渉では、さまざまなデータが大きな力をもつのだという
春闘の労使交渉では、さまざまなデータが大きな力をもつのだという

目次

「春闘」という言葉、聞いたことはあるけど、実際、何をやっっているのか知っている人はそんなにいないかもしれません。ずばり、給料を上げるための交渉である「春闘」。全体的に元気がない日本経済の中、賃金アップを成功させた労組はあるのでしょうか? 待遇改善を次々と勝ち取ってきたというある組合をたずねました。

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給料が親会社を上回った

多くの中小企業などでは賃金制度が明確になく、経営幹部の鶴の一声で、社員の給料が決まることが珍しくありません。今回、話を聞いた労組の会社も1990年代は同じで、こうした状況に異議を唱えた社員が94年、労働組合を結成しました。この会社は、機械装置メーカーグループの子会社で、販売・設置とメンテンナンスなどを手掛けており、2012年にはグループの完全子会社になっています。

――いまの組合執行部は、どんなメンバーですか。

「いまは4代目の執行委員長です。書記長ともに30代。ベテランの女性が副執行委員長として支えてくれています。みんな平日は会社の仕事をしながら二足のわらじをはく形で組合活動をしています」


――親会社を上回るってすごいことだと思いますが、まずどうやって会社と交渉するんですか。

「年末からみんなで話し合いながら会社側に求める『要求』を組み立てます。同じ産業で働く労組の団体の方針も見ながら、自分たちの職場に必要なことを考えていきます。2月中旬に経営側に要求書を提出します」


――賃金の交渉って、イメージがつきません。どうやるんですか?

「まず第一に、基礎になっているのは、賃金のデータ。『賃金プロット』と呼ばれる図表を使って、どんな要求が必要かを考えます」

「賃金プロットのヨコの軸は年齢、タテの軸は賃金の高さをしめし、全従業員の賃金が分布されます。これに照らしながら一人一人の賃金をみて、適正になっていない人がいないかを確認し、交渉するのです」


――目安も示されるのですね。

「同じような業界の会社の組合でつくる上部団体のJAMでは、1人の働き手にとって最低ラインを『30歳で24万円、35歳で27万円』にしています。なので、私たちはそれよりも高い目標として『30歳で29万、35歳で33万円』と掲げています。それぞれが描く賃金カーブに照らしながら、自分たちの会社の立ち位置を確かめています。今春闘でも要求書を提出する前に、自分たちの会社の賃金が参考値となるカーブから大きく外れていないかを確かめました」


――一人一人の賃金を調べるのですか。

「うちの場合は、会社側がデータを提示してくれます。でも会社によっては対応してくれないので、組合側が1人1人から賃金の実態をヒアリングして、一から手作業で作ることもあります」

執行委員長の男性は、組合員の声を幅広く聞くように心がけているという
執行委員長の男性は、組合員の声を幅広く聞くように心がけているという

中途入社、男女の格差も

――そもそも、一人一人の賃金が分布できるほどに違うのですね。

「中途入社の人の場合は、新卒とは異なる賃金体系になり、年数を重ねるに連れ、差が開いてしまうのです。賃金プロットで見ると明らかで、同じ年齢でも賃金が低い人が出てきます。だから春闘の要求では例年、『中途入社者の賃金の開きの是正』を盛り込んでいます。会社側が是正することを認めてくれれば、賃金プロットで誰をどう引き上げるかを議論します」


――誰が引き上げ対象を決めるのですか。

「労組側が『職場で貢献している』と、個人を提起することもあります。一方で、会社側が提案し、労組が様子や人柄を知るために職場のヒアリングに行くこともあります」


――そうやって賃金アップにつながった人は多いのですか。

「年によりますが、全体の3%にあたる毎年5~10人の賃金を引き上げています。対象となっている多くは30~40代。職能給の等級にかかわる単価を引き上げる方法で、平均で月5千円の賃金アップにつながってきました」


――賃金プロットは中途入社の人が対象なのですか。

「いろんな情報が見えてくるので、それだけに限りません。かつては賃金プロットで、差が歴然としていた男女の賃金格差も是正しました。男女雇用機会均等法後、一般職採用だった人で、総合職での勤務を希望する人は、総合職の仕事と賃金体系に引き上げました。でも当時、希望しない人もいた。1人1人の状況を個別で見ることができ、その人にあった対応をとることができました」

書記長の男性は、会社から送られてくる勤怠システムの結果などを見ながら業務効率を改善できないか提案するようにしている
書記長の男性は、会社から送られてくる勤怠システムの結果などを見ながら業務効率を改善できないか提案するようにしている

時には会社に協力も

――データ以外の取り組みはありますか。

「次に、経営側への『協力』があります。具体的には、働き手に業務残業を改善してもらうことで残業を減らし、その浮いた残業代分を賃金引上げの原資にあててもらっています」

「毎日残業せずに7時間45分働くことで、売上げをあげることは労使ともにプラスになること。賃金アップには、経営側に協力姿勢を示すことも大事です」


――残業代を交渉材料にするのですね。

「2012年当時の労組の委員長が労使で、残業削減委員会を結成したことが始まりです。組合員約300人に呼び掛けて、年間で約5千時間の残業を削減したのです。その後も削減を続けたので、2016年には親会社の賃金水準を上回る回答を引き出せたのです。30歳(基本給・扶養2人・住宅手当)の待遇は、11年には親会社より7300円低かったのですが、16年には4100円上回りました」


――労組側として残業削減にはどうコミットしているのですか。

「毎月初め、労組側に会社から勤怠システムの結果が送られてきます。月40時間以上残業がある人をチェックし、『この支店が多い』『この人が多い』など状況を確認。問い合わせて必要な残業か見極めています」


――協力することも重要なんですね。会社と対峙することはないのですか。

「企業にとって先行きが見通せないコロナ禍の昨年の労使交渉は、とくに難しさがありました。2月中旬に労組としての春闘の要求を会社に示した後は、3月に団体交渉や事務折衝と呼ばれる担当者間の会議を3~4回繰り返して、どこが譲れるか、どこを譲れないのかを議論をします。その3月の事務折衝の場で、総務人事部長らからこう言われました。『住宅手当を増やす根拠がない』と」


――根拠が必要になるのですね。

「組合の事務所に戻って、JAMの地域の資料にあたったところ、同じ地域の中小企業の住宅手当の平均値よりもうちが低いことがわかりました。だから改めて説明する場をもうけてもらい、そのデータを示して、最終的に、ほぼ満額回答を引き出せました」


――ここでもデータが重要なんですね。そして粘り強い交渉力も。

「正直、上司にあたる世代や立場のひとたちとの交渉なので、相手の方が巧みなんです。でも熱意とデータをもって当たっていくしかないんです」


――ほかにうまくいっている理由はありますか。

「会社の売上げ自体が好調なことも追い風です。何よりも、かつては賃金はコストとみられて抑える傾向があった中で、賃金が安すぎて、社員が辞めてしまっていたことも響いていると思います。一から育てるよりは長く知っている人に勤めてもらった方が良い。そう考えてもらえているのかな、と思います」

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