話題
選挙公報「読んで票を入れる人は、そうおらん」ベテラン議員の本音
地方選挙、ふわっと決めないためできること

「安心して暮らせるまちづくり」に「子育て支援の充実」――。でもそれ、どうやって実現するの? 政治家が選挙で訴える公約に、そんな疑問を抱いたことはありませんか。どうして公約って、あんなにあいまいになっちゃうんでしょうか。市議会議員の本音や、専門家の意見を聞きました。(松山総局・照井琢見)
選挙公報の記述「ふわっとしてんなぁ…」
今回はどんなことが争点になりそうかを考えるため、4年前にあった前回の選挙公報を読みました。
選挙公報とは、各自治体の選挙管理委員会が選挙前に配るもの。新聞大の紙に、立候補した人たちの経歴や政策が書かれています。
読んだ感想は、「ふわっとしてんなあ……」。争点を考えたいという、私のもくろみは外れました。

安心して暮らせるまちづくり
子育て支援の充実
公共施設の無駄をなくす!
農業の活性化に取り組みます
大きな自分の似顔絵で枠の半分が埋まっている候補や、右側に氏名が書いてあるのに、さらに枠の上3分の1を使って大きく名前を掲げる候補もいました。
「公報読んで票を入れる人は、そうおらん」
彼は郊外を地盤にするベテラン。前回の公報では政策に一切触れず、自分の信念を大きな文字で記していました。
事務所でお茶を飲みながら、市議は「似顔絵で目立っている候補を見て、『これは負けた』と思ったね。パッと見ていかに目立つかが重要だから」と笑います。
政策に触れなかった理由を尋ねると、「公報の狭いスペースじゃ、項目の羅列になる。それよりも政治姿勢の根幹を示すことが大事」と考えたそうです。
それでも有権者にとって選挙公報は、一目で候補者を見比べられる大事な判断材料です。政策を訴えるべきではと聞くと、身を乗り出して答えました。
「選挙公報を読んで票を入れる人は、そうおらんじゃろ」
長年の活動するなかで、有権者には「普段の行動を見てもらうことを大切にしてきた」と言います。
「何回あいさつをしたか、地域のために何を実現したかで判断されるのが現実。国会議員は主義主張で戦うべきだと思うけど、市会議員に政策を訴えるべきだというのは、机の上の議論と思うんじゃ」

「地方議員=地域の代表」になっている
地方議会の選挙を「政策で比べる選挙」に転換することを提唱する、早稲田大学マニフェスト研究所・招聘研究員の青木佑一さん(37)に聞きました。青木さんは「地方議会議員は、地域代表として議員になっている人が多い」と指摘します。

すると、選挙で重視されるのは、「何をするか」よりも「どんな人がなるか」。
有権者は人柄や人間関係で投票先を決め、候補者が政策を語らなくても当選できる状況が生まれます。
こうした状況は、「議員が住民に痛みを伴う政策を訴えにくくなる」と青木さんは言います。
「議員が住民を『お客さん』として扱い、聞こえのよい訴えに偏ってしまう」
「有権者の聞きたいこと」に答える政治家を
候補者が枠を自由に使える選挙公報のあり方も、課題があるといいます。ある学生から、青木さんはこんな意見を聞いたそうです。
「僕たち学生は就職活動のとき、エントリーシートに書くべきことを整理されて見比べられる。でも政治家は書きたいことだけを書いていてずるい。有権者が聞きたいことを書くべきではないのか」

ここでは、各地の選挙で地元紙や市民団体と協力して各候補に共通の質問をし、政策を比較しやすいように紹介しています。
「政策をきちんと訴えた候補者を当選させる努力が必要です」と青木さんは言います。
負のループ、断ち切るには――取材を終えて
取材を通じ、そんな「負の無限ループ」が、地方議会の選挙に生まれているように感じました。
取材に応えてくれたベテラン市議は「市民がもっと政治に関心を寄せてくれたら、政策も訴えるかもしれない」と話していました。
有権者の求めることに、政治家は敏感です。
たとえ面倒に感じても、自分の1票を投じるときは、青木さんの言う「政策をきちんと訴えた候補者を当選させる努力」をし、自分の求めていることを、政治家に示す必要があると思います。