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連載

#21 アフターコロナの課題

肥満は自己責任? 新型コロナで重症化リスク…個人まかせには限界

肥満には自己責任論がついて回るが……。※画像はイメージ
肥満には自己責任論がついて回るが……。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

新型コロナの重症化リスクとして、よく「肥満」が挙げられます。では、もし太っている人がやせるように努力すれば、新型コロナの重症患者が減り、社会の負担も減ることになるのでしょうか。専門家を取材すると、そうとも言えないようです……。新型コロナと肥満の関係から、太っている人にまつわる自己責任論を考えます。(朝日新聞デジタル機動報道部・朽木誠一郎)

※この記事はwithnewsとYahoo!ニュースによる共同連携企画記事です。withnewsが情報の真偽検証を行い発信しています。

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新型コロナと肥満の関係

肥満が新型コロナの重症化リスクであることは、新型コロナ感染拡大の初期から注目されてきました。

厚生労働省が2022年3月11日に発表した『新型コロナウイルス感染症の“いま”に関する11の知識』でも、以下のように明記されています。

“新型コロナウイルス感染症と診断された人のうち重症化しやすいのは、高齢者と基礎疾患のある方、一部の妊娠後期の方です。重症化のリスクとなる基礎疾患等には、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性腎臓病、糖尿病、高血圧、心血管疾患、肥満※、喫煙があります。”(※BMI30以上)

なお、日本における肥満の定義は、主なものでBMIの値<体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)>が25以上、となっています。

なぜ、肥満があると、新型コロナが重症化しやすいのでしょうか。大阪大学医学部感染制御学講座教授の忽那賢志さんに話を聞きました。

「肥満の人には、高血圧や心臓・脳血管の病気、2型糖尿病や脂質異常症、慢性腎臓病などの基礎疾患が合併していることがあります。また、交感神経系や血圧調整機構が慢性的かつ過剰に活性化しており、血液凝固も亢進して血栓ができやすくなっています。

その他にも、体の中で慢性の炎症が起きている状態です。肺の機能が低下し、睡眠時の呼吸障害もみられることがあります。こうした要因は、新型コロナに感染した場合、健康な人よりも呼吸器や全身の状態を悪くする方向に働くと考えられています」

肥満だと、具体的にどれくらいリスクが上るのでしょうか。忽那さんが紹介した2020年11月発表のアメリカにおける「COVID-19患者の肥満と死亡」の解析(※1)では、BMIが18.5〜24の患者と比較して、40〜44の人は2.68倍、45以上の人は4.18倍、死亡リスクが高かったと報告されています。

また、2021年6月発表のイギリスにおける「690万人を対象としたBMIとCOVID-19の重症度の関係」の研究(※2)では、BMI26前後がもっとも死亡リスクが低く、BMIが高くなるにつれ、死亡リスクが高くなっていくことがわかりました。なお、BMIが低い人も死亡リスクは高く、やせすぎもリスクでした。

肥満が新型コロナの重症化リスクであることは、これらの研究結果からも支持されます。

ただし、これら海外のデータからは、重症化リスクが大きな差になるのは、かなりの肥満の場合であることもわかります(例えばBMIの値が40になるのは、身長170cmだとすると、体重約115kg)。日本では軽度の肥満とされるBMI30未満では、死亡リスクが上がりはするものの、そこまで大きな差ではないとも読めます。

重症化リスクとしての肥満は、新型コロナの感染拡大初期から取り沙汰されてきました。その後、デルタ株、オミクロン株の流行など変遷があり、治療法の確立も進みましたが、「肥満が重症化リスクであるということに変わりはありません」(忽那さん)ということでした。

※1. Obesity and Mortality Among Patients Diagnosed With COVID-19: Results From an Integrated Health Care Organization - Annals of Internal Medicine
https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/m20-3742

※2. Associations between body-mass index and COVID-19 severity in 6·9 million people in England: a prospective, community-based, cohort study - THE LANCET Diabetes & Endocrinology
https://www.thelancet.com/journals/landia/home

個人ではなく社会にアプローチを

肥満は新型コロナの重症化リスク。そして、コロナ禍においては日々、重症患者数が発表され、社会活動の目安にもなっています。

こうした背景と「太っている人は自己管理ができていない」というイメージからか、「肥満は新型コロナの重症化リスク」という情報は、「なぜ太っている人のために(健康なわれわれが)行動を制限されるのか」という自己責任論を前提にした言説に結びつきやすい面があります。

ここで、太っている人に自己管理を求めることの是非についても、あわせて考えてみる必要があります。

というのも、これは社会疫学という医学の分野における、大事なテーマだからです。京都大学教授で社会疫学を専門とする近藤尚己さんを取材しました。

「人々の健康は、学歴や所得、職業、人とのつながりといった、社会的な状況の影響を受けます。また、国や地域の政策や文化、景気動向や所得格差といった社会環境の影響も同様です。私たちはこれを『健康格差』と呼んでいます。

そのため『バランスのよい食事をしよう』『適度に運動しよう』といった個人の理性的な行動を促すアプローチだけでは人々の健康を守ることはできません。健康に影響する社会的な要因(健康の社会的決定要因)を踏まえて、個人だけではなく社会にアプローチする必要があります」

新型コロナにおいても、2020年9月に発表されたアメリカの「COVID-19と格差、栄養状態と肥満」についての論文(※3)などで、健康的な食事や医療へのアクセス、地域的・身体的な環境、社会経済的な地位、教育、社会や共同体における他者との関係が、新型コロナの重症度に影響することが指摘されている、と近藤さん。

日本でも、例えば残業が多い労働環境や非正規雇用、所得格差、その他にも人間関係のストレスなどが、健康の社会的決定要因になり得ます。

「これには個人の力では対応しがたいので、健康格差対策は“みんなでやる”という意識が大事になります。健康に関心を向けにくい状態にある人も無理なく健康になれるような社会環境の整備が必要です」

ここで近年、社会へのアプローチとして注目されているのが「ナッジ理論」です。

ナッジとは提唱者であるリチャード・セイラーさんがノーベル経済学賞をとったことで有名になった「そっと後押しする」ことを意味する行動経済学の言葉。健康格差の是正を目指す際も「健康づくりを強く意識しなくても自然と健康になれる」環境を作るヒントになる有力な考え方です。

例えば、2016年頃から流行している『Pokemon GO』は、ゲームのプレイ要素の中に「歩行」「移動」を盛り込んでいます。運動不足の人でも自発的に運動をするようになる、このような取り組みがナッジと呼ばれています。

コロナ禍においては、「密を避ける」「不要不急の外出の自粛」という抽象的なメッセージを「人との距離を2m開ける」「買い物は3日に1回」と具体的に言い換えることがナッジの手法の一つとされました。

また、京都府宇治市では、消毒用アルコールによる手指消毒を促進するために、建物の出入口に設置する消毒用アルコールに向かって、床に黄色のテープを矢印型に設置、これにより約10%のアルコール利用率の増加につながったと報告されています。このように、視覚的に行動を促すこともナッジの手法です。

一方で、コロナ禍ではそもそも外出の機会が減り、運動不足になりがちなため、肥満解消に対してのナッジは有効なものが出てきていないということでした。

※3. Covid-19 and Disparities in Nutrition and Obesity - The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp2021264

新型コロナが問いかけたこと

そもそも、ある意味で自然災害のコロナ禍で、「太っている」など特定の属性をもって誰かを責める行為は、誰もが何らかの感染リスクを抱える今、回り回って自分や社会に生きづらさをもたらしかねません。

その上で、肥満者に自己管理を求めるだけでは、限界があることもわかりました。新型コロナの感染拡大により、ただでさえ外出しづらく、ストレスのある環境下で、「新型コロナの重症化リスクのために肥満を解消しろ」と迫られることで、かえって健康に悪い行動を招いてしまう別のリスクにつながります。

肥満について自己責任論に終始してしまうと、肥満対策としては実効性に乏しいばかりか、肥満に社会的・経済的な環境が影響する以上、コロナ禍においてさらなる分断を生んでしまう危険性があるということは、誰かに責任を問いたくなったとき、思い出す必要がありそうです。

長く続くコロナ禍で、なんとかして日常を取り戻したいという思いも、日に日に強くなっているのではないでしょうか。そんなときは、どうしても自己責任論に傾きがちです。

自己責任論に止まらず、社会として健康格差を解消するための取り組みをすれば、回り回ってコロナ禍のような非常事態に社会の負担を軽くできる––非常に難しいことではありますが、新型コロナが人類に問いかけたことの一つと言えるかもしれません。
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