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話題

大阪ビル火災に居合わせたら…元消防官が伝えたい〝命を守る備え〟

京アニきっかけに生まれた〝攻め〟の避難法

火災現場では煙や熱気は上に滞留するから姿勢を低くして進む=イラスト・仲程雄平
火災現場では煙や熱気は上に滞留するから姿勢を低くして進む=イラスト・仲程雄平

目次

大阪市北区の雑居ビルで2021年12月17日、26人(容疑者を除く)が犠牲になった放火殺人事件が起きました。この火災で注目が集まったのが一酸化炭素中毒の怖さです。同じような火災に巻き込まれたら、どうやって自分の命を守ったらいいのでしょう? 元消防官の筆者が、現役消防官のリアルな声を元に考えました。(元消防官の朝日新聞記者・仲程雄平)

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「避難は難しかった」その理由

私は、高校卒業後、2002年に東京消防庁に入庁し、2010年春まで東京都北区の滝野川消防署で勤務。ポンプ隊員、はしご隊員、救急隊員、指揮隊員を経験しました。その間に夜間大学で学び、2011年春に朝日新聞社に入社しました。

今回の火災に際して、私が信頼している3人の現役消防官に聞いたところ、「避難するのは難しかったと思う」という見解でした。

私もそう思っていた1人でした。

その見解は、他の現役消防官に聞いたとしても、ほぼ一致するところだと思います。

というのも、今回の火災は、一般的な火災とは発生機序(成り立ち)が異なるためです。

大阪市消防局によると、現場は複数のテナントが入る8階建てビル(屋内階段1カ所)の4階のクリニックで、25平方メートルが焼損しました。

容疑者がクリニックの入り口付近でガソリンに火をつけて放火し、さらに来院者の避難を妨げるなどしたと、報道されました。

隊長経験がある東京消防庁の消防官は、その報道を前提にこう指摘します。

「(屋内階段が1カ所の建物において)入り口で炎が上がったら避難はすごく難しくなる。ガソリンに火をつけたのなら、すごい燃え方をしていただろうから、その炎に生身の人間が向かって行って避難するなんてことはできない。本能的に炎から逃げてクリニックの奥に向かうだろうし、そうすると、煙に巻かれることになるから、厳しい現場だったと思う」

火災現場となった4階のクリニック=2022年1月5日、大阪市北区
火災現場となった4階のクリニック=2022年1月5日、大阪市北区

歩くより速く広がる煙

火災の煙には、二酸化炭素(CO2)や一酸化炭素(CO)などの有害物質が含まれています。

火災は酸素(O2)を吸って成長しますが、今回のような耐火建物火災では、早々に酸素の供給が追いつかなくなります。そうなると、火災が不完全燃焼になり、多量の一酸化炭素が発生することになります。

消防学校の教科書には〝(空気中の)一酸化炭素濃度が0.3%の場合は30分で、0.5%の場合には数分で死に至る〟と書かれています。

京都府内の救急救命士は「一酸化炭素の濃度が高かったら、ひと吸いでアウト。助け出して救護したとしても、(命を救うのは)難しい」と話します。

煙の速度については〝一般には水平方向に毎秒0.5~1メートルぐらい。階段などでの垂直方向では毎秒3~5メートルの速度で上昇する。この垂直方向への上昇速度は、人の歩く速度より速いので注意を要する〟と書かれています。

つまり、階段などを使った上への垂直避難は、上昇スピードの速い煙に巻かれる危険性が高い、ということです。

今回の現場は、繁華街のビルにあるような、延焼などを防ぐために耐火性能が高い資材や設備を使った耐火建物で起きました。

一般の住宅よりも煙が充満しやすい耐火建物の場合、特に煙の特性を念頭に避難する必要があります。

大阪市北区の火災現場=2022年1月5日
大阪市北区の火災現場=2022年1月5日

火災現場では姿勢を低く 〝もしも〟に備える

煙の怖さについては、過去の火災でもたびたび指摘されてきました。

最近の火災では、2019年7月に36人が亡くなった京都アニメーションの放火殺人事件があります。

当時、新聞記者になっていた私も応援取材で現地に入りました。

この火災では、多くの人が屋上に通じる屋内階段で煙に巻かれて、一酸化炭素中毒で亡くなりました。

容疑者が建物の1階でガソリンに火をつけたということもあり、煙の上昇スピードは相当なものだったと思います。

他方で、2階の窓から飛び降りて助かった人もいました。

このことから、今回の大阪のビル火災についても、窓から避難できたかも――と考えたこともありましたが、現場を見てみて、地上までの高さや窓の形状などから、それすら無理だっただろう、と感じました。

今回、私が話を聞いた消防官は「避難するのは難しかったと思う」と口をそろえました。

その上で、強いて言うなら「容疑者が放火した段階で消火器を使うことができたら……」という声もありました。

別の消防官は「(事前に取り締まることなどはできないため)消防は人が起こす火災に弱い。燃え方なども助燃剤を使えば、通常の火災とは延焼速度は全く変わってくる。消防設備で対応するとなると、屋外に通じる階段が1カ所しかない建物には、用途とは関係なく小規模でもスプリンクラーを義務設置させるなどしないと防げないのでは……」と話しました。

同じように、全国の消防官が〝どうすれば……〟と苦慮したことだと思います。

結局、火災が発生したら、タオルなどを口鼻にあてて姿勢を低くして避難するという基本的なことのほか、常日頃、ここで火災が発生したらどうやって避難するか……と気持ちのどこかで構えておく、ということに尽きるのかもしれません。

火災最盛期の建物内の状況と避難行動の例=京都市消防局のホームページから
火災最盛期の建物内の状況と避難行動の例=京都市消防局のホームページから

京都市消防局の〝攻めた〟避難指針の内容

京都市消防局は、京都アニメーションの火災を受けて、「火災から命を守る避難指針」を策定しました。

この避難指針には、2階で階段が使えなくなった場合はぶら下がって避難する、という〝攻めた〟内容も含まれています。

広報担当者は「火災における避難については、階段や避難器具を使うように呼びかけていますが、イレギュラーな火災ではどうしようもない場合があります。(京都アニメーションの火災で)助かった人に話を聞いて、2階からぶら下がって避難した方が助かる命があると考え、思い切ったことを盛り込みましたが、迷いもあったと聞いています」と明かしました。

京都市消防局が策定した「火災から命を守る避難」=京都市消防局のホームページから
京都市消防局が策定した「火災から命を守る避難」=京都市消防局のホームページから

京都市消防局のホームページ( https://www.city.kyoto.lg.jp/shobo/page/0000271405.html )には、避難の仕方についての動画も掲載されています。

京都市消防局によると、大阪のビル火災以降、この動画の再生回数が増えているそうで、事業所から「訓練で動画を使っていいか」などの問い合わせも多くなったということです。

大阪のビル火災も〝イレギュラーな火災〟に当たると思います。

いつ火災に巻き込まれるかはわかりません。

こうした情報を得るなどして、いざというときのために備えてほしいと思います。

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