連載
#8 記者が見た帰還
10年10カ月ぶりの自宅宿泊 きれいになった家と消えてしまった思い出
「これは消さなくてもよかったのに…」
東京電力福島第一原発の事故から11年。いまでも全町民が避難を続ける福島県双葉町では今年1月から、帰還をめざす住民らが自宅に泊まれる「準備宿泊」が始まりました。主が不在だった間にたまった汚れが落ち、再び泊まることができるのを喜ぶ住民の大沼勇治さん(46)。取材した記者は、家の中にあった「思い出」が消えてしまったことに気がつきました。
「原子力明るい未来のエネルギー」考案者の一家に密着…記者が感じた「奇跡」
東京電力福島第一原発が立地する福島県双葉町で、今夏の帰還に向けた「準備宿泊」が行われています。大沼勇治さんは1月下旬、東日本大震災後に生まれた息子たちと地元に戻り、約11年ぶりに自宅に泊まりました。原発被災地に足しげく通い、取材してきた記者(31)が大沼さんの3カ月に密着しました。【記事はこちら】
「おっ!きれいになってる!」。妻子との宿泊を3日後に控えた1月26日昼、大沼さんの喜ぶ声が双葉町の自宅に響いた。
業者にハウスクリーニングを依頼したといい、家の中にはマスクをしていてもわかるほど、洗剤のさわやかなにおいが広がっていた。窓の黒っぽいカビもなくなり、大沼さんは「10年10カ月の汚れが不安でしたけど、これなら子どもと家内とごはんを食べたり、寝たりしても大丈夫そう」と声を弾ませた。
ただ、環境省が費用を負担する除染とは異なり、ハウスクリーニングは実費。「これから来る請求書が怖いです」と苦笑した。
リビングのエアコンがちゃんと動くかも確認した。長男の勇誠君(10)がおなかにいた妻のせりなさん(46)のため、高価で高性能のタイプを購入したが、設置して2週間もしないころに原発事故が起きた。10年10カ月ぶりにリモコンで電源を入れると、暖かい風が流れてきた。
家族が寝る中2階に布団を運ぶ大沼さんについていったとき。「あれっ?」。私は、大沼さんの子どもたちの成長の記録が消えているのに気づいた。
大沼さんが震災の3年後、柱に書いた勇誠君と次男の勇勝君(8)の身長の高さを示す線もハウスクリーニングで消えてしまっていた。
原発事故がなければ、付けていたであろう「成長の記録」だ。3カ月前、この柱の前で子どもたちの成長ぶりを大沼さんと語り合った。柱にうっすらと見える記録の名残を見た大沼さんは「これは消さなくてもよかったのに…」と少し残念そうだった。
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東京電力福島第一原発が立地する福島県双葉町で、今夏の帰還に向けた「準備宿泊」が行われています。大沼勇治さんは1月下旬、東日本大震災後に生まれた息子たちと地元に戻り、約11年ぶりに自宅に泊まりました。原発被災地に足しげく通い、取材してきた記者(31)が大沼さんの3カ月に密着しました。【記事はこちら】
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