話題
ウィキペディアが25周年 日本語版〝創設メンバー〟が初顔出し
名前も顔も出さずに来たのに取材を受けたわけは…
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名前も顔も出さずに来たのに取材を受けたわけは…
誰しもが編集し、無料で閲覧できるインターネット上の百科事典「ウィキペディア」は今年25周年を迎えました。その日本語版の立ち上げ初期から関わってきたことを「息子と同僚の数人にしか話してこなかった」という人物が初めてインタビューを受けてくれました。取材を受けたわけも「ウィキぺディアン」ぽかったです。(朝日新聞withnews編集部・川村さくら)
ウィキ日本語版も2001年に開設されましたが、当初は日本語の表示に対応しておらず、ユーザーはローマ字で入力していました。
日本語で入力できる正真正銘の「日本語版」が始まったのは2002年9月。そこに携わったのが梅本聖さん(57)です。
梅本さんは日本語版の最初の管理者としてウィキにも記録されており、「日本語でウィキの記事を書いた多分最初のユーザー」だといいます。
横浜市出身で東京都在住、現在は作曲家である息子と2人で会社を運営しています。
会社では、電子部品の販売や音楽家である息子の著作権管理をしています。
黎明期のウィキとどのように出会ったのか、なぜ日本語版立ち上げに関わることになったのかなど疑問をぶつけてみました。
ウィキとの出会いは大学院の修士課程への進学を予定していた2001年でした。
研究計画を立てるために様々な論文にあたるために英語版を使い始めました。
調べた結果を書き込んで情報の整理をしたり、海外の文献をたどる手段として使ったりしていました。
やがて日本語版が立ち上がった際、日本語話者ではないユーザーからサイトの日本語化を手伝ってほしいとメッセージを受け取り、作業を担うようになりました。
「目次」「ユーザ」などサイト上の用語を1つずつ英語から訳したり、ページを動作させるためのシステムファイルの書きかえなどの膨大な作業をしました。
立ち上げ後の1年ほどはそうした日本語化の作業を1人で担っていて、その後は編集者としてウィキに関わり続けています。
見知らぬ誰かから頼まれただけなのに、なぜボランティアでそうした作業ができたのでしょうか。
梅本さんは「よくあることだった」といいます。
「当時からネット上で頼まれて、ソフトの開発やバグを探すのを手伝ったりしていたんです」
「あとは単純に『自分がそのシステムを使いたいから』です。ウィキペディアは当初から使い勝手がよかったので」
誰かが落としたお菓子にアリが集まっていくように、無造作に立ち上げられていたサーバーにユーザーが集まり、おのおのが修正を繰り返して日本語版が始まったのだといいます。
これまで梅本さんがウィキ上の記事を編集した回数は取材日(1月28日)時点で899回。
「少ないんですよ。ログインせずに編集している場合も含めたらこの倍以上はあると思う
けど、忙しいときは1、2年触らないこともありました」
ウィキの編集は「コンビニにコーヒーを買いに行くようなもの」だといいます。
責任がないし、大きな負担になるわけでもない。やりたいときに好きにできる気軽さがあるからこそ、ゆるやかに関わり続けてこられました。
「あとは調べ物をしていてウィキペディアを見たときに間違いを見つけたら必ず直します。放置できない性分なんです。信じてしまう人がいたらかわいそうだし、どんなに眠くても修正します」
ウィキの価値はその「網羅性」にあると梅本さんはいいます。
紙の百科事典とは違い、分量に限りがなく、記事が増え続けるウィキ。
「箸にも棒にもかからないようなトリビアばっかりあって、それが読み物としておもしろい。だれにも査読されていないものが人々の目に触れて一覧できるデータベースとしての価値があると思います」
一方で、ウィキがあくまで情報の「とっかかり」に過ぎないことにも言及します。
「紙の百科事典は学者が書いてちゃんとした出版社が出しますよね。ウィキはほぼ匿名です。そこいらのおっさんが医学の記事を書けちゃうわけです」
「自分でその後検証する前提で、情報のとっかかりとして使う分にはすごく便利です」
無償であり無料のサービスとして提供されているウィキは今後どうなるのでしょうか。
「たまにウィキペディアを開くと『寄付のお願い』って出てくるでしょ。あれ自分もうっとうしいと思うんですよ」
「寄付したとしても現地に法人がない日本では所得税の控除の対象外です。だから現地の法人を立ち上げて対策する必要がある。韓国とかはすでにやっています」
「けど、日本人の特性的に誰かが『自分がとりまとめます』と手をあげるとは考えにくいですね。アメリカの財団がリモートで日本法人を立ち上げたらどうなんでしょう」
「日本でウィキペディアを使っている人はめっちゃ多い。こんだけウィキペディアを使ってるんだったら金銭的に貢献できる制度が必要だと思います」
AIとの関係性についてはどう考えるのでしょうか。
メタやマイクロソフトなどの企業がウィキと有償の契約を結んでいる昨今、梅本さんの関心は「記事の精度」にあるようです。
「ウィキペディアの情報がいいとこどりされてAIによって表示されると、人々がウィキペディア本体のサイトにアクセスしなくなるわけです」
「みんなウィキペディアの存在を意識しなくなる。記事を読んだ人が、もっと良くするために編集する循環が途切れてしまうので、記事の精度が上がっていかないことになるんじゃないかと思います」
一方で、記事執筆に関しては「人がやるのと品質が変わらないのであれば、用途を限定してAIを使った編集も許容されていくんじゃないでしょうか」とも話しました。
これまで顔はおろかフルネームもインターネット上に出してこなかった梅本さん。
ウィキとの関わりを「息子と同僚数人にしか話してこなかった」といい、取材の依頼が来たこともありませんでした。
記者が梅本さんを見つけられたのは、メディア向けのウィキ25周年PR資料にて取材先候補として紹介されていたからです。
なぜ取材を受けようと思い始めたのか、聞いてみました。
大きな理由になったのは、2025年に参加したネットユーザーの集まりでの出来事だったそうです。
「うそつき呼ばわりされた気がしたんです」
初期のウィキの話をしても相手にされず、「またうそついて古参ぶってる奴がいる」といった反応でした。
「今後(ウィキ日本語版の最初の管理者として)なりすましも出てくるかもしれない。自分が死んじゃったらなんでもありになっちゃうので、誰かが検証しようと思ったときに信頼できる一次資料がないとまずいと思いました」
「自分でウィキに書くと客観性がないじゃないですか。なので(取材を受けて)誰かに書いておいてもらおうというわけです」
梅本さんのウィキ利用者ページはこちら
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