連載
#92 コミチ漫画コラボ
机の上の落書きで重ねたやりとり…顔も名前も知らない、だれかの卒業
ノスタルジックな思い出をマンガに
ふだん使わない教室での授業中、ふと机の上に残した落書き。次に着席したら、落書きで「返事」があって――。顔も名前も知らない「だれか」との心温まるやりとりを描いた、みりこさんのマンガに反響が集まっています。「もう二度と会えない人との出会いが心に残ることってありますよね」と振り返るみりこさんに、マンガに込めた思いを聞きました。
マンガはみりこさんの実体験をもとに、創作をまじえて描かれました。
高校2年生の主人公は、どのクラスもHRで使っていない教室で、授業を受けていました。
ノートの端などによくイラストを描いていたというみりこさんは「誰も使ってない机だし……と、ふと落書きをしたんです」と振り返ります。
季節は冬。サンタの絵を描くと、翌週の授業の時に「返事」がありました。
「返事を描いてくれた!」という驚きと、うれしさと。そこから顔も名前も知らない誰かとの「落書き」でのやりとりが始まりました。
しかし数週間後。返事を楽しみに着席すると、「今日が最後の授業でした!(3年です)楽しかったよ!ありがとう!」という言葉が残されていました。
心待ちにしていたやりとりが終わってしまいました。
なんとなく「同学年かな」と考えていたみりこさんは「先輩だったんだ、と初めて気づきました。びっくりしつつも、もうやりとりできない寂しさが襲ってきたのを覚えています」と振り返ります。
みりこさんにとって、高校時代は友人にも環境にも恵まれていたといいます。
周りの目を気にしてしまい、クラスメートと打ち解けるのも苦手だった中学時代。知り合いがおらず、生徒のやりたいことや個性を尊重する校風の高校に進んだことがターニングポイントになりました。
だからこそ「『自分の卒業』には別れの寂しさよりも『一新』というイメージがある」と指摘するみりこさん。
「仲のいい友達や先輩は連絡先も知っているので、卒業も会おうと思えば会えることが多いです。それよりも、もう会えない『だれかの卒業』の方が印象的だったなぁって思います」と話します。
今回のマンガを発表すると、読者からは「キュンとした」「落書きを介して会いました」「名前も知らない人との交流ってあったなぁ」といった感想が寄せられ、自分の体験と重ねて読んでくれたことがうれしかったというみりこさん。
あのときやりとりした誰か、お世話になったり、助けてくれたりした誰か――。
そんな名前も知らない、二度と会わないかもしれない人との出会いが、もしかしたらちょっと特別な思い出になるかもしれない。みりこさんはそんな風に考えているそうです。
いまはネットやSNSで、顔も本名も知らない相手と、何かの話題や共通の趣味で盛り上がることも身近になりました。
みりこさんは「今回の出来事は『手書き』ということもあって、駅にあった掲示板とか文通とか、そんなノスタルジックな思いを呼び起こしたのかもしれません」といいます。
実体験をベースにしたマンガですが、大きく創作を交えたことがあります。
それは、主人公が「卒業おめでとうございます 私も楽しかったです!」と机に書き込むラストです。
「自分の記憶では、最後は何も書かなかったような気がするんです。自由登校が始まって学校に来ないということは、メッセージを書いても見られないだろうなと思って。だから、10年ごしでやっと返事が書けたなと思っています」
みりこさんは「書いた人も覚えてくれていて、このマンガがもし届いたらうれしいですね」と笑います。
作品:夜行バスにゆられて by みりこ @rkare_ota https://t.co/O7oZvKGol2 1/2 pic.twitter.com/eKvwroyTs7
— みりこ/6月個展予定 (@rkare_ota) April 22, 2021
「今後も、自分の体験や思い出を重ねてもらったり、手元に置いておいて、ふとしたときに『読みかえしたいな』と感じてもらったりするような作品づくりをしていきたいです」
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