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連載

#6 記者が見た帰還

きっかけは「競輪選手」ばらばらじゃない…帰還めざす住民同士の縁

元王者がくれたサプライズの贈り物

谷津田陽一さん(左)から自転車をプレゼントすると言われ、大沼勇治さんは驚いていた=2022年1月18日、福島県双葉町、福地慶太郎撮影
谷津田陽一さん(左)から自転車をプレゼントすると言われ、大沼勇治さんは驚いていた=2022年1月18日、福島県双葉町、福地慶太郎撮影

東京電力福島第一原発の事故から11年。いまでも全町民が避難を続ける福島県双葉町では今年1月から、帰還をめざす住民らが自宅に泊まれる「準備宿泊」が始まりました。帰還をきっかけに面識のなかった家族同士に出会いが生まれることも。様々な事情を抱えた住民たち……「競輪」が結んだ縁に記者が立ち会いました。

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「原子力明るい未来のエネルギー」考案者の一家に密着…記者が感じた「奇跡」
東京電力福島第一原発が立地する福島県双葉町で、今夏の帰還に向けた「準備宿泊」が行われています。大沼勇治さんは1月下旬、東日本大震災後に生まれた息子たちと地元に戻り、約11年ぶりに自宅に泊まりました。原発被災地に足しげく通い、取材してきた記者(31)が大沼さんの3カ月に密着しました。【記事はこちら】

地元紙の取材に答えた「競輪選手」

「谷津田さんをたずねました。良い人でした!」

大沼勇治さん(46)から1月15日夜に届いたメールを開くと、双葉町に帰還する元プロ競輪選手の谷津田陽一さん(70)と妻(54)、大沼さんの3人で撮った写真が添付されていた。

もともと面識はないが、谷津田さんが帰還の準備を進めていると知り、大沼さんのほうから会いに行ったのだという。

震災の直後、長男の勇誠(ゆうせい)君(10)を妊娠中の妻せりなさん(46)と愛知県に避難し、地元新聞社の取材で「息子さんが生まれたら、何になってほしいですか」と質問され、「競輪選手です」と答えた大沼さん。

現役時代は全国4千人超の頂点に立ったこともある谷津田さん。息子が競輪を始めるタイミングなどについて谷津田さんから助言をもらったといい、そのメールからは大沼さんの興奮する様子が伝わってきた。

谷津田陽一さん(右)の自宅を訪れ、言葉をかわす大沼勇治さん=2022年1月18日、福島県双葉町、福地慶太郎撮影
谷津田陽一さん(右)の自宅を訪れ、言葉をかわす大沼勇治さん=2022年1月18日、福島県双葉町、福地慶太郎撮影

つながりがつくっていく町の未来

その3日後。大沼さんが谷津田さん夫婦との写真を自宅に届けると言うので、私も同行させてもらった。

谷津田さんは大沼さんの姿を見るなり、自宅の裏にある屋内練習場へと案内。「孫が小学生のころに乗っていたんだけど、よかったら」と言い、自転車を差し出した。大沼さんの息子へのプレゼントだった。思わぬサプライズに、大沼さんは驚きと感謝の言葉を繰り返していた。

ただ単に町民が帰還するだけではなく、こうした、ひとりひとりのつながりが町の未来をつくっていくのだろう――。谷津田さんと大沼さんが競輪について語り合う様子を見ながら、私はそんなことを考えていた。

※第7回「11年ぶりに泊まれるわが家」はこちらから


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