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話題

「SDGsはガンダムに重なる」各国政府の交渉を支えた日本人の言葉

「誰一人取り残さない」有名フレーズが生まれた理由

国連本部であったSDGsのイベントで表示された「#SDGs」の文字=2021年9月20日、ロイター
国連本部であったSDGsのイベントで表示された「#SDGs」の文字=2021年9月20日、ロイター

目次

持続可能な開発目標であるSDGsの本質が詰まっていると言われる「前文」の〝熱さ〟に感動した私たちは、それをガンダム風に超訳し、ガンダムの声優に読んでもらう『SDGs前文超訳プロジェクト』を実施しました。そんな超訳を聞いてもらいたかったのが「SDGsづくりに関わった日本人」とも言われる国連の小野舞純さんです。「SDGsはガンダムに重なる」と言ってくれた小野さん。各国政府がとりまとめる現場を裏で支えたリアルな感想を聞きました。(FUKKO DESIGN 木村充慶)

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#SDGs最初の一歩
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【動画】ガンダム風に〝超訳〟した「SDGs前文」を朗読する高橋理恵子さん。『∀ガンダム』でキエルハイムの声優をつとめた

SDGsが目指す思想が書かれたSDGsの宣言文(=持続可能な開発のための2030アジェンダ)。そのまま読むとちょっと難しいですが、そこにある言葉はどれも大切なものばかりです。

そんな宣言文について、現代アーティスト、キュンチョメさんは「ガンダムの演説のよう」と解釈しました。宣言文をガンダムにたとえることで、SDGsの考えを広げるチャンスがあると教えてもらいました。

このたび、withnewsはキュンチョメさんとともにSDGsの宣言文の中でもそのエッセンスが詰まった「SDGs前文」をわかりやすく訳し、ガンダムになぞらえて音声コンテンツにする「SDGs前文超訳プロジェクト」を始めました。

キュンチョメさんが「超訳」した前文に声を吹き込むのは、『∀ガンダム』で中心的な人物であるキエルハイム役を演じた高橋理恵子さんです。

『∀ガンダム』は遠い未来、かつて繁栄した文明が荒廃した世界が舞台です。月に逃れた高度な技術を持つ人間と、荒廃した社会から再び立ち上がった人間たちとの争いと交流が描かれています。どんなに発達した科学技術を持っていても戦争は起こり、核爆弾まで使用されてしまう。貧困やジェンダーなど様々な社会問題がちりばめられ、未来の地球を通して現代のSDGsそのものといえるテーマを描いています。

『∀ガンダム』の重要シーンに、争いが避けられない人間同士をつなげるためキエルハイムが演説する「建国宣言」があります。アニメ本編の演説シーンで使われた音楽をBGMに、高橋さんがSDGs前文超訳音声コンテンツを読み上げます。

「実現するんだ」という意思

小野舞純さんは、現在、ニューヨーク(以降NY)の国連事務局経済社会局でソーシャルインクリュージョン(社会包摂部門)チーフとして働いています。かつて国連事務総長特別顧問としてSDGsのとりまとめプロセスの中心人物であり、現在国連ナンバー2の国連副事務総長のアミーナ・J・モハメッドさんのチームでSDGsと「2030アジェンダ」の元となる報告書などの取りまとめをしていました。

――SDGs前文超訳プロジェクト、どうでしたか?

素敵ですね。すごく凝縮されて、全部キーポイントは網羅されている素晴らしい出来で、感激でした。


――よかったです……。音声の中で、印象的なところはありましたか?

「実現するんだ」という志をおさえていただけたのが心強く感じました。というのは、こういう合意文章は複雑で読むのが難しいんですよね。SDGsを推進するにあたって我々が一番危惧していたのは、単なる文章や言葉で終わってしまうことだったんです。それは絶対にあってはならないと考えていました。

そもそも、SDGsって「2030アジェンダ」という文章の一部なんですね。「2030アジェンダ」の中のゴールの部分なのです。SDGs以外にも、資金調達やテクノロジーの活用など実施手段のセクションがあり、言ったことを守ろうよという意味でフォローアップというセクションがあります。

だから、今回の音声の中で「実現しましょう」というのが強く出ていたのは、本質をすごく理解いただけたのかなと。非常にありがたく思います。

超訳を静かに聞く小野さん
超訳を静かに聞く小野さん

ガンダムの世界観と重なる

――小野さんはSDGsの取りまとめに関わったと聞きましたが、具体的にはどのようなことをされたのでしょうか。

最終的な文章である「2030アジェンダ」だけでなく、その前の報告書など、SDGsが策定される過程にはいろいろありました。その中で、私が一番深く関わったのは「2030アジェンダ」の元となる報告書です。

レポートを元に世界各国の政府が交渉し、合意された文章がSDGsになるんですが、その大元、原文の原文みたいな文章をまとめました。


――SDGsをまとめるにあたって長いプロセスがあったのですね。

SDGsって、1人が短期間にまとめたものではなく、とてつもない長い時間軸の上になりたっているものなんです。辿っていけば、それこそ国連憲章まで立ち戻れるくらいです。

これまでの様々な合意文章を経てSDGsが出来上がりました。なので、私が携わった部分は氷山の一角、プロセスの最後の方に過ぎません。

だからこそ、長い年月を経て採択されたものへの重みがあります。音声でも、人類という言葉が何度も出てきましたが、SDGsは一部の人や、少数の国が集まって決めたわけではなくて、3年かけた非常に濃密で、丁寧なコンサルテーション(=様々な専門性を持つ人たちが問題の状況を把握し、援助のあり方を検討する)を経てつくられたものなんです。そういった多くの意見、考えが積み重なった層の厚さというのも感覚で感じていただけたからこそ、ガンダムの世界と重なる部分があったのかなと思いました。

NYにある国連本部に投射されたSDGsの17のゴール
NYにある国連本部に投射されたSDGsの17のゴール

手が震えた瞬間

――まとめる中で特に印象的なことはありましたか?

提出する最終的な実物を、当時の副事務総長に提出した時ですね。副事務総長室に持っていく同僚が手が震えるから一緒にきてくれないかと私に言ってきたのですよ(笑)。

国連に入ってから何度も提出した経験はありましたが、私も同じ気持ちでした。「そうだよね」と言った記憶があります。報告書を書き上げ、提出するのに手が震えるほどになるというのは最初で最後でした。それだけ、情熱もあったし、やっぱり責任を果たした安堵感がありました。まだその先に長く難しい交渉はありましたが、大きな計画を作成したことに感極まりました。


――それは、貧困やジェンダーなど、あらゆる課題で苦しむ人の気持ちを感じたからでしょうか?

はい。様々な国、地域、人々の思いがのっかっています。そして、そこに到達するまでの膨大なプロセスがあったので手が震えたのだと思います。

SDGsが採択された際の国連総会の様子
SDGsが採択された際の国連総会の様子

説教臭くならないように

――日本だと公的な文章はどうしても真面目になってしまいますが、SDGsの宣言文はすごく情熱的です。

元になるレポートを作成する際にチームで気をつけたのは、まずトーンとして説教臭くならないようにすることです。厳しい現状に目を背けるわけではないんですけれども、悲観的にならないようにしようということは当初から決めていました。やはり希望を見出さなきゃいけない。

それと、SDGsには「誰一人取り残さない」という有名なフレーズがありますが、「何一つ取り残さない」ということを大切にしていました。世界中のありとあらゆる問題が集まってくるのですが、それらの問題をまずはきちんと受けとめることに徹しました。取捨選択せず、すべて網羅しようと試みました。なので、エクセルシートをつくり、全部漏れなく入るよう相当な労力を費やしました。

あと、気をつけたのは、書いている我々も気づかないうちに潜在的に持ってしまっている偏見や価値観である「アンコンシャスバイアス」です。なので、チーム全体で常に偏見なくまとめていこうという意識が強くありました。

SDGsを含む「持続可能な開発のための2030アジェンダ」外務省仮訳
SDGsを含む「持続可能な開発のための2030アジェンダ」外務省仮訳

――SDGsに関わる文章は難しい内容ながら、ストーリーとしてもとても読みやすかったです。

メッセージが一貫していないといけないので、宣言文の最初にあるビジョン、基本的理念は関係する多くの人に理解してもらうよう努めました。決して1人で書いたわけではないし、様々な関係者が書いているんです。ただ、書いている中で、チグハグにならないよう、一貫性をもたせるための作業には膨大な時間と労力がかかっています。SDGsをまとめるにあたって難しい作業の一つだったと思います。


――スピーチライターのような人がとりまとめたわではなく、みなさんで書いたんですね。

そうなんです。そこが層の厚さとして出ていると思います。演説だとスピーチライターのような人がいます。でも、数人で作業すると、書き直しを何度も何度もしなきゃいけないんです。そのためにはエクセルを使いながら、すべての要素がちゃんと網羅されているかチェックするような、機械的な部分も必要になる。書き直している時に何か大事な要素を落としてしまうことがあるので。

有名フレーズが生まれた理由

――「誰一人取り残さない」というフレーズは、どうやって生まれたのですか?

「leave no one behind(誰一人取り残さない)」は2014年の報告書「Road to Dignity」の最後に書いてあるんです。そのフレーズで報告書が終わるんですよ。

どの言葉に関しても「キャッチーだから」「聞こえがいいから」という感じで入れたつもりはありません。報告書を書き上げて交渉に入った後も、言葉の意味をずっと考え続けていました。

上司と道端を歩いていた時、ホームレスの方が近くにいたのです。その時に「誰一人取り残さないというのはどういう意味だろうね」とぼそっと言われたことがありました。

それは質問をしているわけではなく、私にとっては「こういう言葉を、キャッチーな文言だけで終わらせてはいけないよ」という戒めのように感じました。今も、たびたび思い起こします。簡単に言葉にしてしまうけど、それで終っちゃいけないよと。


――課題を肌で感じるために、どのような取り組みをされましたか?

ニューヨークだけにとどまらず、世界各国の訪問した先々で、その土地を肌で感じることを大事にしていました。その国、その土地、その地域で感じ取っていないと、言葉が一人歩きしちゃう恐れがあるからです。

訪日したモハメッド副事務総長、日本財団パラスポーツサポートセンターを訪問(2017年10月)©UNIC Tokyo
訪日したモハメッド副事務総長、日本財団パラスポーツサポートセンターを訪問(2017年10月)©UNIC Tokyo

成立していなかったかもしれない

――SDGsをまとめるというのはものすごく大変だったかと思います。

振り返れば非常に楽しかったです。2015年という年が大きかった気がします。2015年は開発面で大事な会議が4つあったんですね。一つは仙台の防災会議。次にエチオピアのアディスアベバでの途上国の資金に関する会議。そして、SDGsが採択された2030アジェンダのサミット。最後は年末にパリ協定がありました。

開発に関する会議がたくさんあった流れもあり、採択されたと感じます。その直後にトランプ大統領が就任してアメリカはパリ協定から離脱しますよね。あの2015年を逃していたら、もしかしたらSDGsというのは成立しなかったかもしれないですね。


――2016年に持ち越していたら、トランプさんからバイデンさんに大統領が変わるまで、世界が遅れていたかもしれないということですか?

そうですね。あの後から、分断とか亀裂とかが始まった気がします。そして、新型コロナウイルスにつながっていきますが、今あらためて「2030アジェンダ」があってよかったなと思います。

コロナで社会の仕組みの弱い部分がいろいろ露呈されました。それは、医療関係だけじゃなく、経済や社会保障もそうだし、教育、環境問題、雇用など、いろいろな課題が見えてきました。それらはただ元に戻すだけだと、違うパンデミックや、違う課題が来たら同じことになってしまいます。

大きいショックが世の中を襲うことを踏まえ、なるべく立ち直れるようなレジリエンスが必要です。そういったサステナブルな社会をつくるための指標こそがSDGsであり、2030アジェンダの本質なのかなと思います。


――本質というのは、何番をやればよいとかではなく、いろいろな課題が複雑に絡み合っていてそういうものを理解しながら課題に向き合うということですよね。小野さんがこの時代においてSDGsが活きるというのはどういう意味でしょうか?

まさに、一つだけをやればよいわけじゃないです。SDGsのドーナツ型のバッチありますよね。バッチの原案を考えた時も、どうやったらこのすべてのゴールがつながっているということを表せるかなと悩んでいました。

そこで、円にするかという話から始まり、最後「ドーナツだろう」みたいな感じで、ドーナツ型に決まりました。その由来があって、今のバッチになっているんですよ。

ただ、17のゴールのアイコンは四角ですよね。四角くなっちゃって、ドーナツにしたコンセプトが失われちゃったじゃないかという問題がありました。

アイコンに関して、時間切れでこれに収まってしまった感があるんですね。インテグレーション(=統合)というのが表せていないので、本当はもっと改良したかった気持ちもありました。

すべての課題がつながっていることを表したカラフルなドーナツ型デザインと17のゴール
すべての課題がつながっていることを表したカラフルなドーナツ型デザインと17のゴール

これから日本ができること

――日本ではSDGsが多くの人に知られていますが、NYなど海外ではどのような感じでしょうか。

アメリカでは一般的にはSDGsの言葉はなかなか知らないかもしれませんね。もちろん、SDGsとしては知らなくても、人種差別や貧困、気候変動への意識を高く持っている層はいますし、積極的に情報を集めている印象です。

でも、それは一部の層で、一般的にはSDGsといっても知らない気がします。そもそも国連の開発問題についての関心が高くないので……。


――日本でこれだけSDGsを知られているのは特異な状況なんですね。

すごいと思います。途上国を除くと、これだけ広まっている国はなかなかないと思います。


――日本は国民レベルからSDGsが浸透しているように思います。海外ではどのように浸透されているのでしょうか。

ヨーロッパの場合はEUが早くから外交政策、いわゆる開発支援の観点だけでなく、EU内の政策に関してもSDGsを反映していくことを打ち出していました。なので、政府レベル、市民団体レベルでは意識が高いと思います。

あとはグローバル企業にしてみればサステナビリティを考えないでビジネスをサバイブすることはできないというくらいの意識にはなっています。そういった意味では政府や企業からSDGsやサステナビリティというものが浸透されていったんじゃないかなと思います。

 

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