連載
#4 #令和の専業主婦
「専業主婦なら時間あるよね」言われた日々、地域の役割が支えに
定期的に求人広告を見続ける理由は。
持病の悪化を機に専業主婦となった女性がいます。「時間がある」と、メリットだけを見て接してくる周囲の人たち、会うたびに「いま仕事してる?」と聞かれることに感じたストレス――。周囲の視線を気にせず、自分らしく生きるために必要なことを教えてもらいました。
都市部から離れた、田園風景の広がる土地に住むAさん(43)は7年前、持病の関節リウマチの悪化で「家事をしながら働くことに不安を感じた」と、当時働いていた高齢者施設を辞め、専業主婦となりました。
高校卒業後、職を変えながらも働き続けていたAさんにとって、初めて「無職」の期間が始まりました。
「ちょうど施設の中でも大切な役割を任された時期で、これから稼ぎ時というタイミングでした。もちろん続けたかったですよ」
当時、シングルマザーとして5歳の子どもを育てていましたが、足を引きずりながら働き続けることにも限界が来ていました。
ちょうどその頃、Aさんの父親が定年退職。コメ農家を始めました。
Aさんは仕事を辞めた後、田植えや稲刈りの時期には父の手伝いをしつつ、時期を同じくして介護状態になった90代の祖母の介護も自宅で担うようになりました。
現在は再婚し、家事や育児など夫と子どものケアに加え、家業の手伝いや介護も担っています。「役割がある」と、いまの生活に満足をしています。
Aさんが担う役割は、家庭内にとどまりません。「社会と切れてしまうのがいやだ」と、家の外でも自分から積極的に役割を作りに出ています。
Aさんの子どもは現在中学生ですが、小学校の頃から子どもの学校の役員などには一番に立候補。子どもの見守り活動にも積極的に参加しています。
「他の保護者の方も助かるかなと思ってやっています」
また、地域猫の保護活動にも参加。
保護された地域猫を里親に渡すまでの間、人に慣れさせるために一定期間支度で預かるという役割を引き受けています。
「人って、必要とされないと生きていけないなと思うことがあります。猫であっても、必要とされるのはうれしい」
これらは、いわば地域貢献活動です。
それまでは、地域の集まりで「仕事してないから、いくらでも料理に時間かけられるよね」とか、「いまは仕事してないの?」と聞かれることがストレスでしたが、地域のためにできることを探し、実践しているうちに「「何も言われなくなったし、言われたとしても気にならなくなりました」と言います。
家庭にも地域にも役割があるものの、「その役割が一つでも減れば、働きに出たいとずっと思っているんです」とAさん。
「いまは8割方、働く気がない」といいますが、それでも定期的に求人広告を見続けています。
現状に満足しつつも、この先も続く人生の中で、家庭と社会のどちらにも何らかの「役割」は持ち続けたいと考えているAさんだからこそ、「『うちの人』にはなりたくない」。
「一回、働く気がゼロになってしまったら復帰するのが大変だと思うんです。『まだ挑戦できる』『まだ終わっていない』と、日々自分を奮い立たせています。そういう心持ちじゃないと、働くためのモチベーションが維持できません」
いま興味があるのは、介護の仕事。「祖母の介護をしていることもあるし、挑戦できる年齢が長いから」と、生き生きとその理由を語ってくれました。
Aさんのように、病気などが理由で、心から望んだわけではないけれど専業主婦になるというようなケースがあります。
これは女性だけに限った話ではありません。
自身の病気や、家族のケアなどを理由に、離職せざるを得なくなった場合、「辞めたくなかった」という後悔が残りやすいのではないでしょうか。
Aさんも「できるなら働き続けたかった」と思いながら専業主婦になりましたが、7年を経て、「専業主婦であるいまの生活に満足している」と朗らかに語ってくれた姿が印象的でした。
私はそこには「役割」というキーワードがあると思います。
Aさんは「病気で仕事を辞めないといけないという状況に、最初は『人生終わった』と落ち込みました」と振り返ります。
ですが、家庭内の役割に加え、子どもの学校の役員や、地域猫の保護活動を通じて地域にも「必要とされている」「役割」を見つけました。
家庭だけでなく、地域にも自分の役割を見つけ、社会とのつながりを絶やさなかったこと。これがAさんにとって、「働きたいけど働けない自分」を肯定することにつながったのだと思います。
1/34枚