連載
#19 教えて!マニアさん
「いぬくそ看板」撮り続け12年…4千枚集める男が語る「人間ドラマ」
いぬくそ看板には「人間ドラマ」がある

差別的な言葉もいとわない「設置主の怒り」

「強い言葉は、それほど強い怒りの裏返しです。何度も繰り返しフンを放置されると、落ち込みと怒りでよくない考えも浮かんでしまいます。誰が放置したのかもわからないし、ぶつけようもない怒りを紙に書くしかない。ふだん人と対面して感情をむき出しにして怒ることはなかなかできないですけど、看板では遠慮なく怒れるようです」(坂田さん)

こうした看板に起こる「変化」にも、坂田さんは思いを馳せます。
「実はこの看板、最近なくなっていました。貼った人があきらめたのか、犬の飼い主が心を入れ替えたのか、理由を知るよしもありません。でも何かしらの心の動きが、看板にあらわれているはずなんです」

怨念のような怒りと「注意すればいいわけじゃない」風潮




「犬のフンの問題は、ただ単に注意をすればいいっていうものじゃないんですよね。おそらく犬の飼い主は近所の人ですし、角が立つような注意の仕方はしたくないはずです。波風立てずに、相手の気分を害さないような工夫がされていると感じます」


革靴でフンを踏んだ経験「設置した人に共感」
「いぬくそ看板を見ると、設置した側の気持ちになっちゃうんですよね」

坂田さん自身も、愛車を停めていた駐車場が「すごかった」と話します。地元の人がよく使う犬の散歩コースだったためか、愛車のタイヤで踏んでしまったり、大事な革靴で踏んでしまったり……。気づいたときの気分の悪さは想像に難くありません。

また、もともと雑誌『月刊宝島』で「街のヘンなモノ」をテーマとする読者の写真投稿コーナー「VOW」が好きで、子どものころから身近なものをインスタントカメラで撮っていたという坂田さん。スマホを手に入れたことと趣味のジョギングで行動範囲は広がり、日常にある「ヘンなモノ」の写真は増えていきました。そのひとつが、「いぬくそ看板」でした。
小説も漫画もある現代で「いぬくそ看板」にドラマを見るワケ
「自分の経験から看板を設置した人への共感もありますが、困っている人の気持ちになることで、自分が気づかないうちに加害者になっているかもしれないという視点が得られるんです。犬のフンを放置したことはないですけど、例えばゴミは適切に捨てられているか、人が困るようなことはしていないかとか、自分自身を客観的に振り返って考えられるようになるんですよね」

「そんなふうに相手の気持ちを想像できれば、世界平和にもつながるんじゃないかなって」。そう控えめに話す坂田さんは、誰かの心に思いを馳せながら「いぬくそ看板」を観察し続けています。