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「9月になったらCを消す」亡き友の思いを胸に、広がるがん治療支援

みんなの力で、がんを治せる病気にするプロジェクト『deleteC』に賛同するサントリーは、『C.C.Lemon』から「C」の文字を消した商品を販売
みんなの力で、がんを治せる病気にするプロジェクト『deleteC』に賛同するサントリーは、『C.C.Lemon』から「C」の文字を消した商品を販売

目次

みんなの力で、がんを治せる病気に――。企業などと協力し、ブランド名や商品にある「C」の文字を消した商品を販売、それを購入するなどすることでがん治療の研究応援につながるという異色のプロジェクトがあります。3年で3千万円以上の寄付を集め、ソーシャルアクションも活発な取り組みをライターの我妻弘崇さんが取材しました。

「カッコいい年のとり方」を考えたら、見えにくいモノが見えてきた(PR)

Cを消す

きっかけは、一枚の名刺だった。

「テキサス州・ヒューストンにある『MDアンダーソンがんセンター』(MD Anderson Cancer Center)という病院の名刺を目にした際、がんを意味するCancerの部分に赤いラインが引かれて消されていました。名刺とは言え、医者や研究者が“がんをなくす”という意思表示をしていることに驚いたし、そのリアリティーを後押ししたいと思いました」

そう穏やかながら確固たる決意を感じさせる口調で話すのは、NPO法人『deleteC(デリート・シー)』代表理事・小国士朗さん。

deleteC代表理事の小国士朗さん
deleteC代表理事の小国士朗さん

毎年100万人以上が新たにがんに罹患し、生涯 2人に1人はがんにかかると言われている。後に、『deleteC』創業理事となるQOLデザイナー・中島ナオさんも、その一人だった。髪の毛があってもなくてもファッションを楽しめるようにとヘッドウエアなどの帽子をプロデュース。デザインを通じて、がんをデザインしたいと向き合ってきた。

早期診断・治療の時代が到来したものの、がんは国民の死亡原因第1位であり続けている。日本のみならず世界の研究者、さらにはがんを患った当事者たちが、がんを治せる病気にするための糸口を見つけようとしている。

「友人である彼女は、ステージ4の状態でした。『がんを治せる病気にしたい』と掲げ、活動をしていた彼女に対して、僕ができることはないかと考えていました。でも、医師・研究者でもなければ、製薬会社で働いているわけでもない、あたりまえだけど国のようにお金が潤沢にあるわけでもない。そんな自分に何かできるとは思えなくて」(小国さん、以下同)

そう距離感を感じていた。だが、冒頭の名刺と出会い、Cを消すアイデアを思いついた。

順風満帆ではなかった

『deleteC』は企業などと協力し、ブランド名や商品(「C.C.レモン」や「Calbee」など)にある「C」の文字を消した商品を販売することで、その売り上げの一部をがん治療の研究に寄付する。

後述するが、がん征圧月間である9月には、「#deleteC大作戦」と題して数多くの投稿がSNSで展開され、昨年はツイッターのトレンドにも浮上した。個人や企業だけでなく、有名人やスポーツ選手らも参加の意を示し、“誰もががんの治療研究を応援できる社会”を実現すべく、大きなうねりを生み出しつつある。

活動のキックオフは、2019年2月。約3年が経過したが、その道のりは、決して順風満帆ではなかったと振り返る。

「当初は、企業へ「Cの文字を消した商品を作りませんか?」とプレゼンしに行っても、相手にしてもらえなかった。今考えれば、資料の中でみんながよく知るブランドのCを消そうとしているわけですから、危ない奴らだと思われても仕方がないですよね(笑)」

掲げる理念に理解を示してくれたとしても、「医療系の企業ではない我々がなぜ協力するのか」といったことを理由に断られ続けたという。100社以上訪問し、9割は断られたと微苦笑する。

「初めて賛同してくださったのが、今治でオーガニックコットンを使ったタオルを作っているIKEUCHI ORGANICさん。ボジョレーヌーボーのように、その年にとれたオーガニックコットンだけで作る『コットンヌーボー』というブランドを展開しているのですが、コットンのCを取ろうと。本当に大切なブランドの名前なのに……と思ってとてもうれしかった」

小国さんは、03年にNHK へ入局。「クローズアップ現代」、「プロフェッショナル 仕事の流儀」などのドキュメンタリー番組を制作してきた。その傍ら、認知症の⼈がホールスタッフをつとめる『注文をまちがえる料理店』などをプロデュースする。

認知症の理解促進と「ま、いっか」の気持ちを世界中に広げるために生まれた料理店は、世界150か国に情報が発信されるなど大きな反響を呼んだ。その後、NHKを退局し、さまざまなプロジェクトを手掛けて今にいたる。

実績は十分。しかし、『deleteC』への理解は、なかなか得られなかった。道は険しく、「がんを治せる病気に? そんなに簡単なものではない。その言葉は簡単に口に出せる言葉じゃないんです」。がんの専門医からは怒気を帯びた口調で指摘された。

目の前で救える命もあれば、救えない命もある。その言葉の重みに「一瞬ひるみそうになった」と打ち明ける。

身近な病なのに、低い関心

日本のがん研究は、決して遅れを取ってはいない。その一方で、海外では認められている治療法や治療薬が、日本では使えないといったケースも少なくない。また、

「他の先進国と比べると、日本はがんに関わるプレーヤーが少ないと感じます。僕自身がそうであったように、市民の中には『がん治療研究に自分も参加するんだ』という意識はほとんどないんじゃないかなと思います。そんなことできっこないよね、という感覚というか」

「たとえば、アメリカでは寄付だけで成立している小児がん専門の病院などが存在します。自分や身近な人が罹患したことのない病気や治療に対して、市民の関心はあまり高くない現状もあるかと思います。参加するプレイヤーの幅が広くなることで、多様なアプローチが広げやすくなるのではないかと考えます」

先述の通り、がんは2人に1人がなり、3人に1人が命を落とす病気と言われている。小国さん自身が「遠いもの」として考えていたように、身近な病であるはずなのに、がんの治療研究との距離は離れている。この点を変えることも大切だったと語る。

C.C.Lemonが動いた

キックオフから9か月後。潮目が変わる。サントリーの人気商品『C.C.Lemon』からCが消えたのだ。

「僕らに対して厳しい口調だった先生も、 C.C.Lemonを見て、応援してくれるようになりました。『こいつら、本気なんだ』って。本気でがんを消そうという気持ちが伝わり始めました」

ラベルを変えるためには、コストも余計にかかるだろうし、売り上げの一部をがん治療の研究に寄付することにもなる。なぜ、看板商品のロゴを変えてまで? サントリー食品インターナショナルブランド開発事業部・阿部泰丈さんに質問すると――。

「C.C.Lemonの担当者としても、これまでブランドロゴを消すという発想がなかったから、『逆に面白い』と感じました。コストは自社負担ですし、売り上げの一部を寄付することになりますが、意義のあることだろうということで参加させていただきました」

また、こんな驚きの賛同理由もあったと小国さんが教える。

「意味や意義や理屈で考えたら、協力するには躊躇して当然だと思うんです。それなのに、何回聞いても『ノリです』としか答えてくれない企業の方もいらっしゃる(笑)。なんて素敵なノリだろうと思います」

「あかるく、かるく、やわらかく」――。これは、創業代表理事の中島ナオさんが掲げていた言葉だ。ユーザーと企業、双方ががんの治療研究を応援できる社会を実現するためには、「お題目になってはいけない」。そう小国さんは提言する。

「企業の方には売り上げの一部を寄付していただくことになるのですが、一商品につきどれくらい寄付するのかについては、ブランド側の裁量に委ねています。我々としても、企業の方に無理をさせたくないんですね」

「継続性が大事なので、足かせになってしまうと、アクション自体が鈍くなる。サステイナブルにやるためには、利幅で考えてはいけないと思うんです」

あくまで軽やかに。ノリでもいい。ハードルが低くなればなるほど、人はまたぎやすく、近づいてきてくれる。

わずらわしさ感じないアクション

サントリー、カルビー、コクヨといった誰もが知っている企業が協力することで、『deleteC』の取り組みは勢いを増していく。2020年、がん征圧月間である9月にはじめて実施した「#deleteC大作戦」は、その最たる例だ。

同企画は、賛同する企業や団体の商品やロゴなどの「C」の部分を、ユーザー自身が隠したり消したりしてSNS(ツイッター、インスタグラム、フェイスブック)に投稿すると、1投稿あたり100円が企業からがんの治療研究に寄付される仕組みだ。

たとえば、C.C.LemonのCの部分を指で隠して投稿すれば、サントリーが100円を寄付。コクヨのキャンパスノートのCの部分をマグカップなど置いて隠して投稿すれば、コクヨが100円をdeleteCに寄付することになる。集まった寄付は、がん治療研究を推し進める医師・研究者に届けられる。

「『がんの治療研究をするので寄付してください』と言われると、寄付する側も重さを感じてしまう。そうならないように、『みんながCを消してSNSに投稿してる!なんだか面白そう』というシンプルなきっかけを入り口にして、その後、それががんの治療研究の一部になっていると気が付いてくれたらうれしいです」

その結果、9000件超の投稿、100万回以上のアクション(リツイートやいいねなど)が行われ、総額225万円ががん治療研究への寄付金として集まった。このアクションによって、のべ3000万人へリーチしたというから驚きだろう。

「企業同様、ユーザーに対してもお題目や大義名分が先に来てしまわないように。これは、『注文をまちがえる料理店』のときにも思ったことでした。“認知症のために”が先に来ると、尻込みしてしてしまう人が増えてしまう」

小国さんの取り組みは、プロジェクトの世界観や意義とユーザーをつなぐユーザーインターフェースが、抜群になめらかという点が特徴的だ。『注文をまちがえる料理店』にしても『deleteC』にしても、社会へアクションすることに、ユーザーがわずらわしさを感じない。もしかしたら、その時点では参加したことに気が付かないくらい、なめらかだ。

こうしたシームレスな動線作りもあいなって、昨年の「#deleteC大作戦」は、初回(20年9月)の8社を上回る21社が参加。投稿数も2万件に増加し(しかも、ほぼ2万ユニークユーザーだそうだ)、のべ5000万人へのリーチに成功した。寄付総額も688万円と、3倍増となった。

「2万件の投稿」の意味

「21年は、9月4日17時から始めると告知していたのですが、4日の17時になった瞬間に、#deleteC大作戦のタグがツイッターでトレンド入りしたんですね。まるで『天空の城ラピュタ』の「バルス祭り」のようになりました(笑)。キャンパスノートを用意したり、セメダインを買ってきてくれたり、準備してくれていた」

これは、昨年参加した人が、リピーターになっていることを意味する。何層からも成る地層に、ゆっくりとだが着実に浸透していくからこそ、水脈は育まれ、大河となる。「トレンドになるということは、文化になるための第一歩」。手ごたえを感じたと、小国さんは微笑む。

「ある方の投稿が忘れられません。『2万件の投稿があったこのプロジェクトは、2万回がんの治療研究について考える機会を作ってくれたってことだよね』って。僕たちは、がん征圧月間である9月に、毎年『deleteC大作戦』を展開していくつもりです。『9月になったらCを消す』。いずれは、2月のバレンタイン、10月のハロウィンのようにカルチャーになったら」

参加したユーサーの多くが、「こういった活動に対して前向きな企業の商品を買いたい」と書き込んでいる点も見逃せないだろう。企業自身が1投稿に対して100円を寄付することになるが、社会活動を通じて商品そのものが広告になるというリテールの新たな可能性を示しているとも言える。前出・サントリー食品インターナショナルブランド開発事業部・阿部泰丈さんが教える。

「C.C.Lemon自体、がんとは遠い存在なので、Cを消した際、お客様から反感を招く可能性もあると覚悟していました。ところがふたを開けてみると、好意的な反応ばかりで驚きました。例年よりC.C.Lemonの売り上げも伸びました」

「同商品は、ロングセラーブランドなので、新規のお客様が購入されるというケースが少なかったんですね。こういったことを機に、新しいお客様と出会えるのは、私たちにとってもうれしいこと」

視界は良好だ。しかし、「問題がないわけではない」と小国さんは言う。 

「治療研究のことを考えると、たくさんの寄付額をいただいているにもかかわらず、圧倒的に足りないという現状があります」

プロジェクトによって集まった寄付は、公募によって集まったがん治療研究の中から選ばれた医師(または研究者)に手渡される。治験には、製薬企業が医療機関に依頼する治験に加え、医師自ら治験を企画・立案し、治験計画届を提出して実施する治験の二種類がある。

deleteCでは、後者である「医師主導治験」のフィールドをいかす形で寄付されている。今年1月31日には、「deleteC 2022 -HOPE-」と題して医師・研究者へ寄贈するオンラインイベントが開催された。

「deleteC 2022 -HOPE-」。透明性と公平性を確保するため、がん治療研究を進める医療研究者に加えて、deleteC、そしてdeleteCを応援する企業も交えて選考している
「deleteC 2022 -HOPE-」。透明性と公平性を確保するため、がん治療研究を進める医療研究者に加えて、deleteC、そしてdeleteCを応援する企業も交えて選考している

もっと軽やかに、もっとカジュアルに

「アイドルを推すように、誰もが気軽にがん治療研究を応援できないかなと考え、『deleteC推し研!』という仕組みをスタートしました。クラウドファンディング、寄付につながる自動販売機の設置やコラボ商品の発表、音楽やスポーツでの応援など、多種多様な『推しアクション』を開始することで、寄付額を増やしていくことができたら」

小国さんは、「CSR、CSVの次は、CSAじゃないか」と先を見据える。

「Casual Social Acitonの略ですね。ソーシャルアクションと呼ばれるものは、もっともっと軽やかにカジュアルにできたほうがいいと思っています。社会課題を前にして、うーむと理屈や意義にとらわれすぎて動けなくなるよりも、もし自分にできることがあるのであれば、まずはやってみちゃったらいい。そう思えたり、飛び込めたりできる環境だったり舞台装置が必要だと思うんですよ」

「deleteC推し研!」の取り組みを説明する小国さん(右)
「deleteC推し研!」の取り組みを説明する小国さん(右)

朗笑しながら、「東京オリンピックのスケートボードやBMXみたいな感覚に近いかも」と続ける。

「日本におけるこれまでの寄付活動は、どちらかと言うと金メダルを取れなかったらごめんなさいみたいな世界ですよね。誰も悪くないのに選手が謝るではないけど、重さが漂っている世界だと思います」

「でも、僕らが目指したいのは、みんなでたたえ合って、そして楽しむ姿勢を忘れない――そんな日常の生活の延長線上にある寄付社会です。気軽にトライできて、謝ったり、気後れしたりしない寄付の形を、カジュアルソーシャルアクションとして根付かせていきたい」

3年の月日を経て、名もなき団体の名もなきアクションだった『deleteC』は、社会に一石を投じる活動として認知されるようになった。たしかにそれは、ストリートから派生し、カルチャーへと昇華したスケートボードやサーフィンを想起させるアクションだ。

2021年4月、創業理事である中島ナオさんは、泉下の人となった。「あかるく、かるく、やわらかく」。その意思を継ぎ、『deleteC』はもっと軽やかに、もっとカジュアルに、がんの治療研究を応援できる社会を目指す。

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