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女性同士で生活「どういう関係?」聞かなくていい 漫画に学ぶ多様性

『ハクメイとミコチ』の魅力を紹介します。
『ハクメイとミコチ』の魅力を紹介します。 出典: 朝日新聞社

目次

人気マンガ『ハクメイとミコチ』(KADOKAWA)を読んでいると、しばしば印象的な場面に出くわします。身長わずか9cm、森の奥で暮らすこびとのハクメイとミコチの日常を描く同作においては、種や性別にまつわる従来の認識がさらりと覆されるからです。多様性をテーマに掲げる作品ではないのに、世界観に親しむことで、結果的に多様性を当たり前に感じさせてくれる――そんな同作の魅力を紹介します。(withnews編集部・朽木誠一郎)
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「多様性/ダイバーシティ」という言葉は流行れど、それが一体どういうことなのかは、なかなか実感しにくいのも正直なところ。身近なマンガ作品を“深読み”することで、そんな多様性について考えるヒントを探ります。

こびととイタチの大工、恋に憧れるコクワガタ

『ハクメイとミコチ』は樫木祐人さんの作品で、2022年3月現在マンガ誌『ハルタ』で連載中、単行本は10巻まで出版されています。連載は10周年を迎えており、18年にはアニメも放送されました。
森の奥でのハクメイとミコチの暮らし。豊かな自然が細部まで描き込まれている(第1巻第1話より)。※以下画像はすべて(C)樫木祐人/KADOKAWA
森の奥でのハクメイとミコチの暮らし。豊かな自然が細部まで描き込まれている(第1巻第1話より)。※以下画像はすべて(C)樫木祐人/KADOKAWA 出典:ハクメイとミコチ 1巻(KADOKAWA公式サイト)
同作で印象的なのは、二人のようなこびとと、ネズミなどの小動物、イタチやハクビシン、アナグマなどの(作品世界での)“大動物”、そして一部の昆虫までが共生しているところ。
右がハクメイ。大工・修理屋。人一倍の行動力がある。前向きだが空回りすることも(第1巻第1話より)。
右がハクメイ。大工・修理屋。人一倍の行動力がある。前向きだが空回りすることも(第1巻第1話より)。 出典:ハクメイとミコチ 1巻(KADOKAWA公式サイト)
左がミコチ。料理人で裁縫が特技。手間仕事を得意とし、集中すると時間を忘れて没頭することも(第1巻第1話より)。
左がミコチ。料理人で裁縫が特技。手間仕事を得意とし、集中すると時間を忘れて没頭することも(第1巻第1話より)。 出典:ハクメイとミコチ 1巻(KADOKAWA公式サイト)
いなり寿司やコーヒーに使う米や豆が粒単位、野菜をカットする包丁が刀のようといったサイズの問題を除けば、こびとや小動物たちは日銭を稼ぎ、余暇を楽しみ、私たちと大差ない生活を営んでいます。歌姫もいれば研究者もいて、賑やかな顔ぶれです。

“大動物”たちは「踏んでも平気な建物」を共有し合い、大工など体力や体長を活かした仕事をしながら、同じまちで暮らします。例えばイタチの鰯谷は主人公の一人・ハクメイの大工仕事の師匠で、個と個として、種族によらない師弟関係が築かれています。

昆虫たちも、多くはカタコトでも共通言語を話し、運送の仕事をするなど、社会における役割を果たしています。中には流暢に共通言語を操るコクワガタもいて、「都会的な生活」や恋に憧れる姿には親近感が湧きます。

やや異なる描かれ方をしていると感じるのは鳥類(猛禽)で、一部のこびととしか意思疎通はできず、時に危険な存在と認識されているようです。このように「容易にわかり合えない存在」もいることが、同作の深みを増しています。ちなみに、残念ながら魚は食料です。

キツネ系とネズミ系の“異種婚”夫婦ゲンカ

こうした多様性が、押しつけがましくなく、自然に成り立っていることが同作の特徴の一つです。そしてその特徴は、暮らしにおけるパートナーシップからも読み取れます。

ハクメイや鰯谷が所属する大工組合「石貫會(いわぬきかい)」​​でのエピソードです。会長であるこびとのナライが妻のハクヨとささいなことでケンカをし、家に帰れなくなって仕事場で寝泊まりをします(単行本第5巻)。

どうハクヨと仲直りをするか、組合メンバーであれこれと話し合う中、「ランテツ(名前) そういや お前 結婚してるじゃねえか」「そうだ 会長以外じゃお前だけだ」「ランテツ 異種婚で苦労も多いと聞いている お前の助言を聞かせてほしい」という会話が。

キツネ系の見た目のランテツの妻はどうやらネズミ系。旅行の約束を破ったことで起きたケンカのてん末が語られます。

また、この流れでノボリとササジマという爬虫類系とネズミ系の二人の異種族のオス同士の同居と、ケンカも「しょっちゅう」な日常生活も明かされます。ただし、この同居がいかなる関係性によるものなのかは確認できません。

はっきりはしない「ハクメイとミコチの関係」

そもそも、仲良く一緒に生活するハクメイ(女性)とミコチ(女性)の関係性も、本編を読む限り、明確にはされていないようです。ただし、いくつか推察できる要素はあります。
ハクメイとミコチの日常が中心に描かれる(第1巻第1話より)。
ハクメイとミコチの日常が中心に描かれる(第1巻第1話より)。 出典:ハクメイとミコチ 1巻(KADOKAWA公式サイト)
その一つが、コクワガタのコハルが二人と出会ったあとの単行本第3巻収録コラム。コハルの日記に「でもあのふたり、どういう関係なんだろう」という記述があります。

また、第4巻でミコチの姉であるアユネが二人の家に押しかけるエピソードでは、「それにしてもハクメイちゃんってさあ……」「よくアンタとずっと一緒で平気よね」「やっぱあれ? 胃袋掴むってやつ?」というアユネのセリフがあります。料理人でもあり、家では炊事全般をしているミコチは、このとき「……否定はできない」と答えています。

ハクメイとミコチの関係が、いわゆる同性パートナーシップなのかどうかはわかりません。考えてみれば、そもそも私たちのパートナーシップの定義がこびとの世界で成り立つのかもわからないのです。しかし、このように「どういう関係なんだろう」と思う読者の気持ちをある意味でくすぐるポイントは、各所に散りばめられているようにも見えます。

しかし、はっきりとはさせていないのであれば、そのこと自体が意味のあることだとも考えられます。コハルも(初対面だからという事情はあれど)日記に書くことにとどめ、二人に関係性を問うことはしていません。

作品世界で描かれる10巻分の日常のみが読者の知り得る二人の関係性であり、それを垣間見ているだけの私たちは、「どういう関係か」を確かめる立場にも、その必要も、本来はないのです。
 
9cmのこびとに世界はどう見えているのか(第1巻第1話より)。
9cmのこびとに世界はどう見えているのか(第1巻第1話より)。 出典:ハクメイとミコチ 1巻(KADOKAWA公式サイト)
「どういう関係なんだろう」と思ってしまうことで、読者に「誰かに関係性を問うこと」の距離感を思い直すプロセスが生じる、巧みな作りの作品であるとも言えます。

美しい自然や、こびとの生活のディテールもすばらしい同作ですが、多様性について思いを巡らすことができるという点でも、非常に魅力的です。

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