【連載】「フカヨミで探る多様性のヒント」
「多様性/ダイバーシティ」という言葉は流行れど、それが一体どういうことなのかは、なかなか実感しにくいのも正直なところ。身近なマンガ作品を“深読み”することで、そんな多様性について考えるヒントを探ります。
こびととイタチの大工、恋に憧れるコクワガタ



“大動物”たちは「踏んでも平気な建物」を共有し合い、大工など体力や体長を活かした仕事をしながら、同じまちで暮らします。例えばイタチの鰯谷は主人公の一人・ハクメイの大工仕事の師匠で、個と個として、種族によらない師弟関係が築かれています。
昆虫たちも、多くはカタコトでも共通言語を話し、運送の仕事をするなど、社会における役割を果たしています。中には流暢に共通言語を操るコクワガタもいて、「都会的な生活」や恋に憧れる姿には親近感が湧きます。
やや異なる描かれ方をしていると感じるのは鳥類(猛禽)で、一部のこびととしか意思疎通はできず、時に危険な存在と認識されているようです。このように「容易にわかり合えない存在」もいることが、同作の深みを増しています。ちなみに、残念ながら魚は食料です。
キツネ系とネズミ系の“異種婚”夫婦ゲンカ
ハクメイや鰯谷が所属する大工組合「石貫會(いわぬきかい)」でのエピソードです。会長であるこびとのナライが妻のハクヨとささいなことでケンカをし、家に帰れなくなって仕事場で寝泊まりをします(単行本第5巻)。
どうハクヨと仲直りをするか、組合メンバーであれこれと話し合う中、「ランテツ(名前) そういや お前 結婚してるじゃねえか」「そうだ 会長以外じゃお前だけだ」「ランテツ 異種婚で苦労も多いと聞いている お前の助言を聞かせてほしい」という会話が。
キツネ系の見た目のランテツの妻はどうやらネズミ系。旅行の約束を破ったことで起きたケンカのてん末が語られます。
また、この流れでノボリとササジマという爬虫類系とネズミ系の二人の異種族のオス同士の同居と、ケンカも「しょっちゅう」な日常生活も明かされます。ただし、この同居がいかなる関係性によるものなのかは確認できません。
はっきりはしない「ハクメイとミコチの関係」

また、第4巻でミコチの姉であるアユネが二人の家に押しかけるエピソードでは、「それにしてもハクメイちゃんってさあ……」「よくアンタとずっと一緒で平気よね」「やっぱあれ? 胃袋掴むってやつ?」というアユネのセリフがあります。料理人でもあり、家では炊事全般をしているミコチは、このとき「……否定はできない」と答えています。
ハクメイとミコチの関係が、いわゆる同性パートナーシップなのかどうかはわかりません。考えてみれば、そもそも私たちのパートナーシップの定義がこびとの世界で成り立つのかもわからないのです。しかし、このように「どういう関係なんだろう」と思う読者の気持ちをある意味でくすぐるポイントは、各所に散りばめられているようにも見えます。
しかし、はっきりとはさせていないのであれば、そのこと自体が意味のあることだとも考えられます。コハルも(初対面だからという事情はあれど)日記に書くことにとどめ、二人に関係性を問うことはしていません。
作品世界で描かれる10巻分の日常のみが読者の知り得る二人の関係性であり、それを垣間見ているだけの私たちは、「どういう関係か」を確かめる立場にも、その必要も、本来はないのです。

美しい自然や、こびとの生活のディテールもすばらしい同作ですが、多様性について思いを巡らすことができるという点でも、非常に魅力的です。