連載
#53 「きょうも回してる?」
ガチャ〝2億年の歴史〟振り返る展示「何なんだこのくだらなさ」
「何が面白いのか分からなくなる虚無との戦い」
2月17日は、ガチャガチャのビジネスが国内で始まった日です。1965年から始まり、今年で57年目を迎えました。半世紀以上経っても、コインを入れてハンドルを回す、あのアナログ的な購入の仕方はデジタル化が進む今でも変わっていません。
そんな歴史を持つガチャガチャですが、「カプセルトイには2億年の歴史が!」という噂が一部で流布していることを知り、評論家の私は事実を確認するべく、渋谷パルコで3月11日まで開催している「大嘘博物館 カプセルトイ2億年の歴史展」を訪れました。
「大噓博物館」の入場券を手にした私は驚きました。
この博物館は、プセマ国立中央博物館の貴重な所蔵品をはじめて国内外に紹介する巡回展であるらしいのです。パリ、ロンドン、クンヒプリンなどを経て、今回ようやく東京で開催することになったそうです。
評論家を名乗りながらお恥ずかしいのですが、今回私が初めて知った「プセマ国立中央博物館」は、世界でも類を見ないガチャを本格的に扱った博物館であり、「ガチャと自然と人類の進化など」をテーマに、ガチャにおける自然と歴史について学べる総合博物館だそうです。
世界中を飛び回って開催している同展の存在すら気づかなかった自分の視野の狭さを痛感しました。
(繰り返しますが、今回私が訪れたのは「大噓博物館」です。大事なことなので2回言いました)
同展では、古代、近代、未来、闇といったカプセルトイの歴史を4つのゾーンで展示しています。
各ゾーンには、ガチャガチャを回す体験コーナーもありました。ガチャガチャを回すコインは、入場券を購入すると10枚もらえます。そこでまた、衝撃の事実に気づくことになります。
このコインは、第2次ガチャブームが起こった1987年に開催された「EXPO'87」通称、ガチャ万博の記念コインを今回の展示で復刻させたものだったからです。パネルには、ガチャ万博は来場者数100人を超え、大いに盛り上がったと説明がありました。私の記憶では、ガチャ万博の記憶が全くありません。どうしても思い出せないことに混乱しつつ、まずは古代のガチャ展示に行きました。
(繰り返しますが、今回私が訪れたのは「大噓博物館」です。大事なことなので3回言いました)
古代のガチャの展示では、カプセルトイに関わる土器や遺跡、絵巻などが展示され、質量ともに「すごい」の一言です。とくに魅かれたのは、紀元前2500年ごろにあったポーン・チャ・ガーラ遺跡の復元模型。ポーン・チャ・ガーラ遺跡は、世界最古のガチャ遺跡。この遺跡の発掘により、これまで伝説として語られていたガチャ文明が実在することが証明されたと言います。また、1983年に世界異文化遺産に登録されました。
いまでもガチャ信仰の聖地として毎年多くの信者が巡礼に訪れ、世界有数のガチャ観光地として人々に感動を与えているそうです。復元された模型を見た瞬間、ロマンを感じさせる、この遺跡に、今年訪れてみようと固く決意したのでした。
古代のガチャの目玉は、恐竜「カプセラノサウルス」の化石です。カプセラノサウルスは頭に強大な開閉するカプセル状のコブをもつ肉食恐竜で、頭のカプセル状のこぶに子どもを入れて移動したそうです。恐竜の形状までカプセルトイが影響を及ぼしたことに驚愕です。そして、古代のガチャの展示で体験したガチャガチャでは、カプセラノサウルスの発掘現場の古代石を手に入れました。しかも本格鑑定書付きになっています。古代のガチャガチャの歴史に心から感激し、今後の活動に活かすため同展のカタログの購入を決めました。
(繰り返しますが、今回私が訪れたのは「大噓博物館」です。大事なことなので4回言いました)
続いて、近代のガチャの展示です。近代のガチャガチャの歴史は私自身、身近に触れてきたので、これは理解できるだろうと思っていましたが、その自信が打ち砕かれました。
1980年代の「カプセルトイブーム」をけん引したヒーロー「ガチャファイター廻(めぐる)」の存在を知らなかったからです。
ガチャファイター廻は、悪のカプセルデビルと戦い、地球の平和を守る正義のヒーローであり、アニメ化をはじめ、ハリウッド映画にまでなっていました。
近代のガチャの展示には、ガチャファイター廻の記録や着用衣装などが展示してあります。さらに、ガチャファイター廻のファンがブーム時に生活していた部屋も忠実に再現してあり、見どころ満載です。ガチャファイター廻を知れば知るほど、近代のガチャガチャの歴史には欠かせない存在であると同時に、ガチャファイター廻を知らなかった自分を恥じました。
(繰り返しますが、今回私が訪れたのは「大噓博物館」です。大事なことなので5回言いました)
未来のガチャの展示においては、2025年にはすべてのガチャがAIによる意思を持ち、2030年には人類の知能を超えると説明があります。そして食べるものからはじまり、恋人、仕事、名前、寿命すらガチャに決められ管理される未来社会が待ち受けているそうです。古代や近代の展示を見ただけでも、すでにガチャガチャの歴史の真実についていけず、その上、衝撃のガチャの未来を知り、何が何だかわからなくなりクタクタでした。
「闇ガチャ」の展示は、ぜひ訪れて闇ガチャの実態を知ってください。
最後に、同展のカタログを購入しようと決めていたので、物販コーナーに行くと、開催に合わせて制作が進められた公式図録が間に合わなかったという説明があり、表紙だけがありました。最後の最後まで驚きの連続であり、時間が経つのを忘れるほど、見ごたえある博物館でした。
(繰り返しますが、今回私が訪れたのは「大噓博物館」です。大事なことなので6回言いました)
というわけで、この展示品全てが嘘です。私の感想も嘘です。正直、博物館に訪れたときに、「一体、誰がこの博物館に来るのか?」「何なんだ、このしょーもなさ満載の展示は?」と、展示品を見ながら笑いを堪えるのに必死でした。だって、すべてが嘘の博物館であり、ガチャガチャの体験コーナーで手に入れた鑑定書や遺跡石など、全てが嘘だからです。
この博物館を企画・プロデュースした映像作家の藤井亮さんに見所を尋ねると、藤井さんは「細かいところまでのくだらなさの作り込みでしょうか。嘘そのものだけでなく、嘘のリアリティを補強するため、嘘の周囲の作り込みにこだわりました。そのディテールを見ていただけると嬉しいです」と教えてくれました。
嘘をここまで本気で追求することで、真実のように感じた、この博物館。今回開催にあたり、苦労した点についてはこう話します。
「偽物のガチャガチャの展示、それもこんなにくだらないものに、『本当に人が来てくれるのか?』という恐怖と、小ネタが大量すぎてもはや何が面白いのかも分からなくなる虚無との戦いが一番大変でした。ほぼ日曜日の展覧会スタッフの方々が小ネタを送るたびにリアクションをしてくれていたので、それでなんとか正気(狂気?)を保っていた感じです」(藤井さん)
しょーもなさや、くだらなさをとことん追求した藤井さんの姿勢に胸打たれます。
これだけくだならいものに対して、大真面目に取り組む藤井さんは、きっとガチャガチャが好きに違ない。ガチャガチャの魅力を尋ねると、「言ってみれば、ただのクジなんですけど、それだけじゃない魅力がありますよね。あの筐体のレバーを回したり、カプセルがコロコロ出てくる感じの良さなのか、カプセルという規格がある中での作り手の創意工夫なのか。息子も2歳の頃から『ガチャガチャしゅる!』とガチャガチャ愛がすごいので、何か理屈ではない原始的な快楽みたいなものがあるような気がします」と話してくれました。
博物館の入場料は600円。未就学児は無料なので、この博物館をきっかけに、未来のガチャガチャの科学者が生まれるに違いありません(嘘です)。
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