連載
#3 罪と人間
食べ吐き…押し入れで暮らした漫画家が伝えたい〝たった一つ〟のこと
摂食障害で食べて吐くの繰り返し。人と会うのが怖くなり、一人暮らしだった自宅の押し入れで暮らした――。漫画家のおちゃずけさん(@mcyazke)には、そんな経験があります。「ふつうに食べること」を取り戻した今、〝お願い〟があるそうです。
殴って兄に〝しつけ〟をする父親におびえ、「優秀な子」と認められようと、おちゃずけさんは高校で進学校に入ります。ところが、レベルの高さに圧倒される日々でした。
たまたま取り組んだダイエットは減量という「成果」が得られやすく、のめり込みました。ほとんど食事を取らない日が続き、反動で過食も。高校2年生の時でした。
それから食べて吐く生活が続きました。
「いかに過食し、吐き出すか」を考える日々だったと振り返ります。
予備校に通うため、地元を離れて東京で一人暮らしをしましたが、過食の衝動を抑えられず、人と会うのが怖くなり、押し入れの中でおびえて暮らしたそうです。
仕送りのお金を過食のために使ってしまい、「生きていく価値のない人間」と自分を責めました。
転機は、漫画でした。
小さい頃から漫画を描くのが好きでした。父親に何度も原稿を破り捨てられ、気持ちにフタをしていましたが、漫画を描き始めるようになります。
「薄紙をはぐように、症状はおさまっていきました」
「摂食障害の自分」が、だんだんと「好きな漫画を描く自分」に置き換わっていく感覚だったそうです。
摂食障害を克服するってどう言うこと…?
— おちゃずけ (@mcyazke) September 16, 2021
私の場合
「摂食障害の自分の時間」以外の時間が
どんどん増えて行くことでした。
その時間、
「まんがを描く自分の時間」が好きすぎて
「摂食障害の自分の時間」を取ることが
”面倒くさい”と感じた時。
私は、摂食障害の長いトンネルから抜け出しました。 pic.twitter.com/efcT1NWtvd
症状は、20代の半ばには落ち着きました。
それでも、家族にも摂食障害のことは打ち明けられませんでした。
「食べたり吐いたりを止められないのは、意志が弱いからだ」。そう見られることが、怖かったそうです。ブログ( https://ameblo.jp/ocyazke00/ )で公表したのは、2018年。症状がおさまってからおよそ30年が経っていました。
「症状は落ち着いても、自分の体形に欠点があるという恐怖は残っていました。自分が年を重ねたことで、理想に執着することがなくなってきました。そうなってみて、初めて、他人に話せるようになりました」とおちゃずけさんは言います。
おちゃずけさんの〝お願い〟は、食べることに悩む若い世代に向けてのものです。
摂食障害は10代、20代で発症することが多く、周囲に打ち明けられず孤立して苦しむ人も少なくありません。
そんな若い世代に向けた〝お願い〟はシンプルです。「摂食障害とは何かを知ってほしい。そして、だれかに助けを求めてほしい」。それは1人で苦しんでいた、かつての自分に向けたメッセージでもあります。
こうした願いを込めて、「10代のための もしかして摂食障害? と思ったときに読む本」(合同出版)を昨夏、出版しました。
著書では、小学3年生から大学生までの実例を取り上げています。
好きな人から「顔、丸いね」と言われたり、部活動でアドバイスされたり、さまざまなきっかけがあることを紹介しています。その上で、家族に食べることを強要する、歯が溶ける、薬を過剰に摂取する、といったことにつながったケースもあったことに触れるなど、「気づき」を得るための情報を盛り込みました。
実際の治療の流れのほか、保護者や養護教諭のサポート事例も紹介するなど、子どもたちを支える立場の人に必要な情報もまとめました。摂食障害に苦しむ人たちが、希望を見いだすきっかけになればと、摂食障害の「先輩」たちからの声も集めています。
「SNSによって、つながりを得られることもあると思います。ただ、食べ吐きの方法をシェアするなどして、どんどん深みにはまってしまうこともあるツールです。周囲の大人には、そうした実態も知ってほしいです」
1/8枚