連載
#52 「きょうも回してる?」
赤ちゃんの“便秘顔”そのまま再現 ガチャメーカーが挑んだ新境地
「仕事中にちょっとチラッと目に入り、気分転換になってもらえたら…」
いい年して、大人がガチャガチャなんてというのは昔の話です。駅構内やショッピングモールなど、今や至る所にガチャガチャの機械が設置され、日常の一部と化したガチャガチャ売り場は、子どもの特権ではなく、大人の間でも賑わいを見せるようになりました。ガチャガチャは、大人にとって心の余裕を取り戻すおもちゃです。大人こそ、ガチャガチャを体験した方がいい。大人になるにつれて、知識が増え、経験を重ねることで、ある程度予測ができてしまうため、ワクワクする体験が少なくなってしまいがちです。
何ができるかわからないワクワク感を大人になっても、体験ができるのがガチャガチャです。忙しい人や悩んでいる人ほど、ガチャガチャをすることで、ワクワクする感情が湧き、心の余裕を持てるのではないでしょうか。
そんなガチャガチャ業界の商品構成は、アニメや漫画、実写などのキャラクターなどのIP商品が7〜8割、残りの2〜3割がオリジナル商品となっています。
SNSが無い時代には、オリジナル商品が発売されたら、お客様は売り場で初めて新商品が出たことを目にします。そのオリジナル商品が日の目を見ることに一役を担ったのが、SNSの普及です。
ツイッターやインスタグラムが国内で普及することにより、オリジナル商品は注目を浴びるようになりました。とくに、2012 年に誕生したキタンクラブから発売した「ーコップのフチに舞い降りた天使ーコップのフチ子(以下、フチ子)」の登場は、ガチャガチャ業界で大きなインパクトを与え、フチ子シリーズは累計2000万個以上を達成しました。フチ子の誕生によって、オリジナルのキャラクターでも、売れることを証明した一例と言えます。
最近では、クオリアから発売された「ネコのペンおき」は累計100万個以上販売しています。業界では10万個以上売れればヒット商品と言われるなか、ネコのペンおきは大ヒットしたオリジナルキャラクターのひとつとなりました。
だだ、ここに挙げた2商品は異例中の異例であり、毎月の商品点数が約300点ほど発売するなか、オリジナルのキャラクターでヒット商品を出すのは依然として難しい状況です。その厳しい環境のなか、観光地向けのご当地商品を作っていたメーカーの夢屋は、コロナ前までインバウンド需要で売り上げを伸ばしていましたが、コロナ禍で一気に逆風が訪れ、21年からオリジナルの商品で勝負を挑み始めます。
オリジナル商品は「ギミック系」と「フィギュア系」を中心に展開します。ギミック系は「押しボタン系の商品に注力している」と、以前のコラムでも取り上げましたが、今回はフィギュア系です。
夢屋の代表の笹沼さんは「今回の逆境でチャンスをいただけました。オリジナル商品を単発で終わらせるのではなく、オリジナルのキャラクターを育て、横展開をさせていきたいです」と話します。
今回は21年に発売されたフィギュア系の第1弾「赤ちゃん倶楽部」です。笹沼さんは2009年に会社を立ち上げてから、いつかはオリジナルのキャラクターを作りたいという夢が強くありました。その夢を実現した最初のオリジナルフィギュアが赤ちゃん倶楽部です。
笹沼さんは「市場では、他社メーカー様がリアルで精巧な商品を作っています。そのなかで、対抗していくためにも、新しく入ってきた私が同じことをしても負けてしまう。個性があり、独自感が出るものはないかと考えたときに、誕生したのが赤ちゃん倶楽部です」と教えてくれました。確かにリアルに作られた赤ちゃんの商品はありましたが、デフォルメした赤ちゃんの商品はありませんでした。特に、赤ちゃん倶楽部は世界観を大事にしていると言います。
「赤ちゃんって、どんな行動をするだろうと想像したら、食べる、トイレをする、寝る、ハイハイと行動が限られますね。それをベースに赤ちゃんに、どんなプラス要素を追加す れば、赤ちゃんの可愛らしさを表現した世界観が構築できるのかを考えました」(笹沼さん)
赤ちゃん倶楽部は、働く人の日常「働いて、ランチして、休憩して、トイレして」の会社生活をかわいい赤ちゃんに置き換え 「ハイハイして、ミルク飲んで、寝て、トイレして」で表現した商品です。仕事場のデスクの上で赤ちゃんが遊んでいる世界観を選出しています。商品ラインナップの中には、ケーブルコードも挟める工夫をしてあり、ちょっとした遊び心も加わっています。
笹沼さんにお気に入りを尋ねると、ラインナップのひとつの「トイレする赤ちゃん」を挙げ、こう話します。
「自分の娘が便秘がちだったんです。その姿がかわいいんだけど、なんだかかわいそう。実際に商品の赤ちゃんと同じような顔をしていたんです」と笑って話してくれました。
営業の荒井信太郎さんは、赤ちゃん倶楽部について「テーマは『かわいらしさ』と『癒し』です。デスクに置いて、仕事中にちょっとチラッと目に入り、気分転換になってもらえたらいいですね。またオモ写として活用してもらったら嬉しいです」と言います。
もともと第1弾を出すときに、シリーズ化も決めており、季節に合わせて、笹沼さんは赤ちゃんの世界観を広げたいと考えていたそうです。昨年夏に発売した「海辺のリゾート 日焼け赤ちゃん」をはじめ、冬の季節には「寒い冬でも暖か布団でおやすみ赤ちゃん 寝るこは育つ!」や「ほっこりぬくぬく こたつ大好き赤ちゃん」など、季節に合わせた赤ちゃんの世界観を演出しています。
最後に今後の展開を聞くと、笹沼さんは「もしも赤ちゃんが大人の社会のなかで、大人のような振る舞いや、様々な職業に就いたらと想像すると、いろいろな演出でき、赤ちゃんのかわいさを表現した世界観がたくさんできます。このオリジナルキャラクターを育てながら、多くの人に夢屋の商品を知っていただきたいです」と話してくれました。
今後もシリーズ化する赤ちゃん倶楽部。夢屋のオリジナル商品への挑戦は続きます。
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赤ちゃん倶楽部は、眠る赤ちゃん、ハイハイ赤ちゃん、トイレする赤ちゃん、ミルク飲む赤ちゃんの全4種類。1回300円。
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