ホットケーキ、クリームソーダ 、プリン……昔ながらの喫茶店のメニューは、懐かしい色合いや空気感が伝わってきます。アップされる写真は「行ってみたい!」と思うものばかり。いったいどうやって撮っているのか。SNSを中心に作品を発表している4人組の写真家の喫茶トラノコクさんに話を聞きました。(相沢亮)
「学生時代に見た映画は1千本以上」
話を聞いたのは中心メンバーのうちの2人、konさん(27)と、ユーピケさん(27)です。
2人の出会いは、高校時代。高校一年生の4月からバスケットボール部に所属していたユーピケさん。少し遅れて5月に入部したのがKonさんでした。帰り道の方向が一緒だったということから、仲良くなりました。
とにかく映画が好きだというkonさん。高校、大学時代を通じ見た映画の本数は、ジャンルを問わず1千本以上だったそうです。
そんな中でも特に好きだったのが是枝裕和さんが監督をした「海街diary」とスタジオジブリの「風立ちぬ」。作風に共通するのは「懐かしさ」で、現在の作風のルーツになっています。そしてkonさんは美術系の大学に進学しました。
一方、別の大学に進学したのユーピケさんも映画館でアルバイトを始め、それぞれ映画が日常の一部になっていました。

「カメラにはまった学生時代」
2人は高校卒業後、別々の学校に通いながら、休みが合う時は、地元の友達と車を走らせ、旅の思い出を動画として残しました。
「思い出を綺麗に残したい」(ユーピケさん)。それが今の作品活動の原点となっているそうです。
空想喫茶トラノコクのYouTube(https://www.youtube.com/channel/UC9FIw7HtBGHoTu2IX-uGDyw)にアップロードされている動画からも「懐かしさ」という言葉が第一に思い浮かびます。
中には、メンバーでクリスマスの日に鍋を作って食べるという温かい日常を切り取るような動画も。
4人で運営している空想喫茶トラノコクのメンバー。ただHP(https://toranocoku.studio.site/member)を覗くと5人います。
「実は、妄想でできたマスコットキャラクター、もうそう店長なんです」(konさん)。
トラノコクという名前は「明け方の寅の刻、つまり朝の4時頃、ふと歩いている時に温かい明かりとともにお店が出迎えてくれたら嬉しいじゃないですか。帰ってきたくなるような場所、それが由来です」(konさん)と教えてくれました。
一つのアカウントを4人で運営する際のルールは「基本全員一致」。ミーティングでは、それぞれの意見が飛び交い3時間にも及ぶこともあるそうです。
大事にしているのは「妥協のない仕事、作品作りはしない」という共通認識です。
4人組の強みは「視点が違うので物事を客観視できる。迷った時に他のメンバーにいろいろ意見を求めることができ、頼りになる」(konさん)。4人の仲は良く「けんかはしたことがない」(ユーピケさん)と、温かい作品の雰囲気の通り、穏やかな空気感で語ってくれました。

書籍化、メディアにも
また、ファッション雑誌の「メンズノンノ」(集英社)の純喫茶特集でおすすめのお店を紹介。「CANON iMAGE GATEWAY」ではインタビューも公開されるなど(https://ptl.imagegateway.net/contents/original/bokura/index.html)活躍の場を広げていきます。
「今までSNSで作品を見てくれた方々などに感謝を伝える機会がありませんでした。こういった形で露出を増やしていくことで、少しでも自分たちを知ってもらい、興味を持っていただいた方々に感謝の気持ちを伝えることができれば嬉しいです」(konさん)
最近一番多い問い合わせのひとつに「喫茶店は、どこにあるの。行きたい」があるそうです。あくまで空想喫茶なのですが、その声は、活躍の幅を広げるきっかけになっているそうです。
「いつか来店されたお客様が各々自由に過ごし心の拠り所になるような喫茶店をやってみたいですね。実店舗のみに留まらず、全国の方に喜んでもらうために地方の方々にとって憩いの場であるような場所で喫茶のレシピを振る舞いたいです」(konさん)
「そして僕たちの料理を食べたお客様がそこでまた新たな記憶を紡いでくれたら嬉しいです。小さい子が美味しそうにホットケーキを食べて、その子が大きくなり喫茶トラノコクで食べたホットケーキを思い出して来店してくれる。そんなお店を作りたいです」(ユーピケさん)

「温かい過去の記憶」呼び覚ます
喫茶トラノコクさんが持つ「懐かしさ」は、誰もが持つ「食」の記憶を通じて訴えかけてくれます。
多くの人がその作品に共感を覚えるのは、「温かい過去の記憶」を想起させるからでしょう。
それは、konさんやユーピケさんなどの撮影技術からも伝わってきます。
特に視覚に入ってくる情報量のバランス、美味しそうな瞬間の捉え方、その場にいるような空気感の演出に惹かれました。
トラノコクさんならではの「懐かしい」作風の秘密の一つとして自然光での撮影があります。
背景や小物の色味などメインの料理を活かす画作りが同じ写真家として、とても参考になります。
また美味しい瞬間を撮るためのルールとして「料理が提供されたら撮影は、なるべく早めに終わらせる。最も美味しそうな瞬間は、提供されたその時なのでみなさんにその瞬間を届けたいです」と教えてくれました(konさん)
筆者自身、作品を見ていると昔、母親が作ってくれたホットケーキを家族で食べた思い出がよみがえりました。
リアルの店舗への思いも語ってくれた2人。心の奥底に閉まってあった大事な記憶を思い出させてくれる喫茶メニューが並ぶ喫茶店の開店が待ち遠しいです。