連載
#51 「きょうも回してる?」
「世の中を震撼させる」ガチャ、社長が選んだのは…「生姜」だった
この行為は本当に面白いのか…スーパーに向かった。
駄洒落は本当にしょうもなく、でも面白い時には、どこかくすっと笑ってしまう要素があります。
広辞苑で引いてみると、《【駄洒落】つまらないしゃれ、まずいしゃれ》。身も蓋もないですが、どこかオリジナルのガチャガチャに似ているところもあります。とくにオリジナルのガチャガチャは、正直誰が、買うかわからないがゆえに、企画担当者の商品に対する想いが試されています。売り場の機械に設置してあるディスプレイポップ(以下、DP)で、お客さんの目にとまり、回してもらう行為までひきつける何かが必要になってきます。そのひとつが、商品に伝えたいことやコンセプトを想像させるような印象的なストーリー性(物語)があるかどうかです。
ブシロードクリエイティブの代表であり、カプセルトイブランド『TAMA-KYU(以下、たまきゅう)』の統括プロデューサーを担当する成田耕祐さんは「商品を出すにしても、商品の前後関係や商品に対する納得感、そしてストーリー性がないと、お客様は共感してくれません」と話します。
たまきゅうのコンセプトは「時代の最先端を華麗に刈り取り、次のムーブメントやバズを狙うこと」です。ガチャガチャ業界では今までなかった石の形をした小物入れの「石」、時代的にハンコをあまり使わなくなったからこそ、あえての「事務的はんこ」を発売するなどの仕掛けが話題になりました。また、たまきゅうは商品にストーリー性を持たせるために、ガチャガチャ業界では考えられない、商品のテレビCMを制作したりするなど、プロモーションにも力を入れています。
成田さんに昨年を振り返ってもらうと「たまきゅうは、コロナ禍でも非常に好調でした。過渡期を過ぎ、安定期に入ったことで商品点数も増え、商品もまんべんなく売れるようになりました。ただ、欲を言えば、上半期は世の中を震撼させるものはありませんでした。そのため、下半期からはもう一度たまきゅうを見つめ直そうと考え、商品企画もそうですが、プロモーションに力をいれていこうと考えました」と話します。
文字の消せる生姜です。
— 成田 耕祐|BUSHIROAD (@ohanakoyu) February 8, 2022
話、ついてこれてますか? pic.twitter.com/wNMLiT686f
今回は、2月7日から販売する「しょうがなイレイザー」を紹介します。クリエイターのザリガニワークス(武笠太郎さんと坂本嘉種さん)が企画・デザインした生姜の形をしたイレイザーです。今までのガチャガチャの商品のなかでも、さすがに生姜の商品は見たことがありません。
企画のきっかけは半年前に、たまきゅうの企画会議にテレビ番組の取材が来たときのこと。その企画会議で、ザリガニワークスさんが「しょうがなイレイザー」の企画を持ってきており、生姜をすっている感じが消しゴムですっている感じと似ていることが面白いと提案したところ、参加した人たちが大爆笑しました。その提案に対して、成田さんは商品イメージがすぐに湧いたそうです。
そこで、成田さんは「果たして生姜をする行為は、そこまで面白かったかどうか」を確認するため、近所のスーパーに生姜を買いにいきました。
「すりおろし器も購入し、みんなで生姜をすりました(笑)。そしたら『生姜をするって、こんなに面白いのか!』と感じました。生姜を触るとわかりますが、大根おろしと違い、生姜はすごく持ち手が多い。触り心地が抜群です。自分なりのお作法でできるのが、生姜です! みんながザリガニワークスさんの企画に対して大爆笑したことで商品化をほぼ決めていましたが、生姜の触り心地や、する楽しみを実際に確認してわかったことが最終的な決め手となりました」(成田さん)。
大の大人が企画会議で知恵を絞りあうなか、みんなで生姜をすっていることを想像するだけで、思わず笑ってしまいます。
試作が出来た段階で、成田さんは「絶対にダメですが、『子どもが食べてしまうのではないか』というくらいリアルだなと思いました」と教えてくれました。しょうがなイレイザーは、わざわざ実力派の原型師を起用して生姜の原型にもこだわっています。また、消しゴムの機能としても「これ、めちゃくちゃよく消えるんです」(成田さん)と言うくらい、品質にもこだわりが見られます。さらに、ラインナップにはセクシー型の生姜が入っており、「セクシーな生姜って、何だ!」とつっこみたくなるくらい面白すぎます。
しょうがなイレイザーのDPも、成田さんなりの想いが詰まっています。
成田さんは「たまきゅうの商品のDPには、凄くこだわります。僕の役割として、企画・デザインしたザリガニワークスさんの商品に対する想いを汲み取った上で、筐体に入っているところを想像しつつ、それをどうDPとして落とし込むかを考えています」と話します。
またガチャガチャのDPの作り方は、CMを作る発想と一緒だと成田さんは言います。「一瞬で人を引き留めるという作り方は、CM作りと似ています。CMのラストカットは、ブランドロゴや企業ロゴで終わるケースが多いです。次のCMの始まる手前なので、すごく印象に残りやすいんですよね。DPのデザインは、CMのラストカットのように、そのまま転用してもパンチが効くデザインを意識しています」(成田さん)
しょうがなイレイザーのDPは商品が生姜の文字を消しているデザインです。
このデザインについて、「ザリガニワークスさんと何度も協議し、カメラワークや照明を作りこみました。またどんな人の手を使うか…例えば男性の手なのか、女性の手のか、おじいさんの手なのか、おばあさんの手なのかを検討した結果、若い女性の手を起用しました。さらに、品が良く暮らしが質素でかつ、ちょっとお金持ちの家庭で、料理研究家の本に載っていそうな雰囲気を目指しました」と話してくれました。メインビジュアルに自信が持てたため、空きスペースに商品情報をあえて多く入れず、タイトルロゴの視認性を落としてでもメインビジュアルを立たせることにしました。このデザインに到達するために、何通りも試行錯誤したそうです。
生姜が相手だとしても、熱狂的なものづくりを行う成田さんのお話を聞いていると、私も「生姜をすってみような…消しゴムだけど」と思えるほど、成田さんから商品愛を感じました。
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しょうがなイレイザーは、生姜、新生姜、生姜(セクシー)、新生姜(セクシー)、わさびの全5種類。1回200円。
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