コラム
18歳成人「責任」求めるだけでいい? 支える「仕組み」は道半ば
「成人も新成人も共に支え合える社会にしませんか」
民法改正により、4月1日から18歳以上が成年(成人)となります。それに伴い、親の同意がなく契約行為ができるようになり、クレジットカードや借り入れなどでの借金や悪質商法によるトラブル拡大が懸念されています。一方で、親の支援を受けられないなど孤立する10代をサポートしている認定NPO法人D×P(ディーピー)は「18、19歳にとっては自力で選べる選択肢が広がる」と期待を寄せています。様々な事情を抱えた若年層を支援する現場から見えてきた、成人年齢引き下げのメリットと、周囲の大人が考えなければいけないサポートについて、支援者の視点を綴ってもらいました。
こんにちは、認定NPO法人D×P(ディーピー)理事長の今井紀明です。D×Pでは、孤立する10代をサポートしています。コロナ禍では困窮する15歳〜25歳に現金給付・食糧支援を実施し、アルバイトでひとり暮らしをする人、ひとり親で幼い子どもと暮らす人、家庭に居場所がなくパートナーや友人宅で暮らしている人、家族からの経済的援助が望めない学生など、計1300人ほどの若年層をサポートしてきました。オンライン相談の登録者数は7000人を超えています。
なかでも、18歳、19歳の未成年者へのサポートにはいくつかの壁がありました。
これまで18歳、19歳という年齢のため、保護者の同意が必要で身動きが取れなかった若者にとって、18歳成人は自力で選べる選択肢が広がります。D×Pがこれまでにサポートした10代のケースから、18歳成人になることでできること・気を付けるべきことを支援現場の視点でお伝えしたいと思います。
Aさんは、大学進学のため寮で生活をはじめましたが、学費を払うことが難しくなりました。親は生活保護を受けており、また関係性も悪いため金銭的な支援は望めません。
その後、大学が除籍となったため「退寮してほしい」と通知がありました。私たちは急いでAさん自身の生活保護申請と住居探しを進めました。候補となる家は見つかりましたが、その候補のいくつかが、「本人が未成年のため、保護者のサインがないと契約できない」ということでした。
18歳成人になることで、住居契約は親権者の同意が不要になります。本人が契約でき、すぐに引っ越しもできるようになります。
生活保護を受ける場合、住宅扶助で家賃が賄える範囲で家を探す必要があります。選択肢が少ないなかで早く契約を進めなければいけないという状況下でした。加えて、関係性の悪い親に説明し同意を得ることは心理的負荷が高いことです。
成人し自分の居所を自由に決められること(親権に服さなくなる)で、安心して暮らせる若者も多いと感じます。
当時18歳だったBさんは、保護者の暴力から逃れるためひとり暮らしをしていました。支出が多く困っているという話を聞き内訳を確認すると、携帯電話の料金が高く、家計を圧迫していることがわかりました。料金プランの変更を提案すると、Bさんは携帯電話ショップに向かいました。しかし、保護者の名義で契約していたため解約することができませんでした。
Bさんの場合、契約の名義は保護者。支払いはBさん自身が行っていました。Bさんのケースのように、過去に家族が契約した料金プランが高く家計を圧迫していることも多いです。18歳成人で本人の意思で契約が可能となれば、携帯電話の料金プランも自分で選ぶことができます。一方で、本人が自分にとって将来的に不利になる契約を結んでしまう可能性もあります。周囲にいる大人が気にかけるなど、本人が相談できる人との関係性を持てるようにすることや契約を結ぶ前に相談できる場を社会の中に整えていく必要性を感じます。
18歳のCさんは、大学進学を機にひとり暮らしを始めました。大学入学後からアルバイトを始めて生活費を賄う予定でしたが、コロナ禍でなかなかアルバイトが決まらず学費用の貯金を生活費に充てることになりました。その後アルバイトを始めましたが、学費用の貯金を生活費として使ってしまっていたため、給付型奨学金だけで学費を賄うことが出来ません。別の奨学金を借りようかと考えましたが、親と連絡が付かず、Cさんが未成年のため奨学金を借りることができない状況でした。
私たちが支援したケースの中には、なんらかの事情で保護者と連絡も取れないということも何度かありました。18歳で成人になると、自分の意思で保証会社を使ってお金を借りることができるようになります。しかし、奨学金に関わらず、家を借りるなど様々な契約において「連帯保証人」や「保証人」が求められることがほとんどです。お金を払って機関保証制度や賃貸保証会社を使わざるえないため、頼れる人が身近にいない若者にとっては依然として不利な状況には変わりません。若者にかぎらず、頼れる人が身近にいない方を想定した保証人制度の見直しも急務だと感じます。
また、2022年1月には、厚生労働省が、原則18歳とされていた児童養護施設や里親の家庭で暮らす子どもや若者が支援を受けられる年齢の制限を撤廃する方針であると報道されました。
また、2021年に三菱UFJリサーチ&コンサルティングが公表した実態調査では、退所前後で、生活費や学費など金銭的な不安等が継続していることがうかがええ、退所後の5人に1人が収入より支出が上回る「赤字」の状況であることがわかりました。
D×Pのオンライン相談でも、児童養護施設の出身者など保護者に頼れず自立を余儀なくされた10代のなかには早期退学や離職、孤立や困窮状況に陥るケースが少なくありません。
ここで問題提起したいのは、「18歳側に責任をもつことを求めすぎてはいませんか?」ということです。もちろん賃貸借契約などが可能になることで負わなければならない責任はありますが、責任の側面だけを声高に言い続けるだけでいいのでしょうか。
18歳成人によって、自由が生まれ選択肢が広がるメリットがある反面、「大人であること」「自立すること」を強いる社会であると、若者を追い詰めてしまう可能性があります。
自立とは、周囲の人の力を借りながら生きていくこと。困ったときに、「困った」と言えて、信頼できる人に相談したり助けを求めたりすることができる状態だと思います。すでに成人を迎えているみなさんが、新成人にとっての頼り先となって共に支えあえる社会をつくっていきませんか?
私の考えは「当事者に責任を強いるのではなく、大人も一緒に学んでほしい」というものです。
18歳成人には、良い面・悪い面の両方があると感じます。親との関係性が悪かったり、虐待を受けていて家から出たい18歳、19歳にとっては自分で部屋の契約をしやすくなるので必要なことだと思います。
しかし、社会の側に18歳成人を受け入れられる仕組みがあるのかどうかでいうと、まだまだ整っていない部分が多いです。消費者ホットラインは電話相談であり、電話料金もかかります。スマホをメインに使う18歳にとって電話で行う相談は、身近な相談窓口ではありません。
18歳成人については、すでに成人している大人も関心を持っていく必要があると考えます。10代だから・若者だからと契約書の内容を十分に説明しないままサインさせたりしていませんか?自分も契約のことがよくわからないのに、わかったふりをしている大人も実はいるかもしれません。18歳、19歳の当事者に「責任をもつこと」を強いるのではなく、大人も一緒に学び、若者が安心して活躍できる場をともにつくっていきましょう。
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