連載
#50 「きょうも回してる?」
「公園ゆらゆら遊具」に目をつけた〝オタク社員〟の変態的ガチャ
毎月300種類ほどの新商品が発売されるガチャガチャ業界。売り場も専門店の出店ラッシュが続き、ガチャガチャ好きはもちろん、今までに興味が無かった人まで商品に触れる機会が増えました。
各メーカーはいま、いかに自分たちの商品に目に留めてもらえるかと、しのぎを削っています。
とくに、アニメやマンガなどのキャラクターを用いたIP商品とは違うオリジナル商品は、企画がもっとも大事になります。なぜなら、オリジナル商品は、お客様の嗜好性にかかっているからです。
「ヒット商品を生み出した先輩たちの企画には、共通している部分があります。どれもアクが強い企画でありながら、隠し味として、ある種の変態的な要素が入っています」
こう話すのは、タカラトミーアーツのガチャ・キャンディ事業部の森田和奏さんです。「僕も先輩たちを見習い、企画を立てる上で、『変態的』な要素を少しでも取り入れるように企画しています(笑)」と続けます。
森田さんは自分でも言うほどのおもちゃオタクで、子どもの頃からガチャガチャが好きだったそうです。その想いを大人になってからも抱き、2017年に入社しました。
入社翌年の2018年には、森田さんが初めて企画した商品が発売されました。オリジナルガチャの「カプセルコードリール」です。
本物のコードリールのようにイヤホンやスマートフォンの充電コードを収納できる便利グッズで、これがヒット商品になります。第4弾までシリーズ化され、累計約100万個以上が販売されました。
オリジナル商品は、10万個売れればヒット商品と言われますが、タカラトミーアーツのなかでも、新入社員の企画としては異例の大ヒットです。
商品開発について、森田さんは「『自分が欲しい』という想いを、クオリティに反映させることを大切にしています。そうでないと、刺さる人にも刺さらない。自分のなかでハードルを高くしています」と語ります。
森田さんはよく街中を散策したり、色々な場所に出向いたりするようにしているそうです。「そこで『自分の欲しい』を見つけると、新しい企画の芽になります」。今回紹介する、「公園ゆらゆら遊具3」も身の回りの気づきから生まれました。
公園ゆらゆら遊具シリーズは、誰もが子どもの頃に遊んだことのある、公園などにあるスプリング遊具(ゆらゆら遊具)をミニチュア化したものです。
「新しいアイデアがないかなと、散歩していたときに、子供を楽しませ尽くした、ホラー映画のような恐怖を感じさせるボロボロの遊具を見つけたんです(笑)。見た瞬間、『こんなガチャがあったら、自分が欲しい』と思い、ホラー的なかわいらしさを取り入れたガチャを作りたいと思いました」と企画のきっかけを明かします。
しかし、商品化するためには、企画会議で周りの人を説得しなくてはいけません。そこで、森田さんは、わざわざ100円ショップでバネを見つけ、動物の人形を使いサンプルを手作りしました。
相手に具体的にイメージさせるプレゼンをした結果、自分が作りたい想いを商品化につなげました。今では、プレゼンでサンプルを見せた方が通りやすいと考え、3DCGを勉強しはじめ、3D出力してプレゼンする画策を練っているほどです。商品化に対する熱意が伝わってきます。
こだわった点について、森田さんは「単純なフィギュアではないため、バネという機能性の部分を追求しています。安全面を考慮したうえで、バネのパーツを探すのが大変でした。また、見た目のかわいさや若干のホラー感もです。完成イメージに近づけるため、自分でイラストを描いて伝えることもしました。彩色原型ができたタイミングでも、何度も修正を重ねました」と言います。
第1弾は、純粋なかわいらしさを表現した動物のラインナップで発売し、反響が良かったそうです。ただ、アンケートで「私の近所の遊具は、もっと怖いです」「かわいすぎる」という意見もありました。それをきっかけに、第2弾にはホラー要素を取り入れた汚れたパンダなどを入れ、お客さんを楽しませる工夫がされています。シリーズを重ねるほど、受注数も増えていったそうです。
第3弾は、恐竜やペガサスを追加し、原宿的なかわいい系を意識することにより、色合いもファンシーでPOPなバリエーションになっています。また、ちょっぴり怖いホラー感を出した「古びたリス」も追加しています。
私が初めて公園ゆらゆら遊具を見たとき、あまりのシュールさで驚いた記憶があり、「誰が買うんだろう(笑)」と思いましたが、杞憂に終わり、シリーズ累計40万個以上のヒット商品となりました。
第3弾のお気に入りを聞くと、「コアラが一番好きです」と森田さん。工場からできあがってきたコアラは、原型と比べて、目や口の位置が異なっており、不穏な顔になっていたそうです。
しかし、それが逆に実際の遊具っぽさを出しており、OKを出したという森田さん。「擦れた感じが良かったです(笑)。普通だったらありえませんが、工場でできあがったものが、よりリアルに再現されたものになったと思います」
森田さんに最後、今後はどんな商品を作りたいかと尋ねました。「商品が売れるか、売れないかはもちろん大切です。ただ、企画を考える上で、『自分が欲しいものが世の中に出ていないから、自分で作りたい』。それが企画の根底にあります。いかに自分が欲しいもの=世の中の人が必要としているかを結びつけ、商品を企画していきたいです」
「『これ、待っていたんだよ!』『これ、欲しかった!』と言ってもらえるような商品を作っていきたいです」
森田さんのガチャに対する野望は尽きません。
「ゆらゆら遊具」は、今後キャラクターバージョンもシリーズ化予定です。
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公園ゆらゆら遊具3は、「くま」「コアラ」「すずめ」「ねこ(茶トラ)」「きょうりゅう(むらさき)」「ペガサス」「古びたリス」の全7種。1回200円。
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