連載
#2 特別じゃない日
チョコ売り場で30分も悩む中年男性 話しかけられて笑った理由は…
「特別じゃない日」をテーマに描き続けている漫画家・稲空穂さんが「バレンタインチョコ」について描きました。作品に込めた思いを聞きました。
バレンタインチョコの売り場で30分も悩んでいる中年の男性。
それを見た店員は「そちらはブランデー入りのものになります。どなたへの贈り物ですか?」と声をかけます。
「妻は酒が好きでね。けど園芸も趣味なんだ。だから花のかたちをしたチョコも捨てがたくてね」と答える男性。
悩みながらも「どれを贈っても喜んでくれそうで迷ってしまうね」と、なんだかうれしそうに笑います。
帰宅した店員がその日の出来事を母に話していると、チョコ売り場にいた男性が「ただいま~」と帰ってきました。
実は店員の父親で、娘のバイト先にチョコを買いに来ていたのでした。
仕事中の娘相手に、夫婦ののろけ話を披露していたんですね。
仕事中など「よそ行き」の顔の時に家族と会うと、なんだか照れてしまいます。
家で接するような態度そのままに声をかけるのもなんだか違うので、ほとんどの場合は仕事モードのまま。
なんとも中途半端な敬語で接してしまうのですが、それはそれで、家で再会した時にまた違った気恥ずかしさがあるのが常です。
それはきっとあちら側も一緒で「今日いたね~」なんて会話をして終わるのですが、普段家の中では見ることのできない家族の口調や態度を垣間見ることができるので、そういう日のことは記憶に強く残っています。
そんな情景を思い返しながら描いた作品でした。
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〈稲空穂=いな・そらほ〉 静岡県出身・在住の漫画家。会社員を経て2017年に「おとぎ話バトルロワイヤル」(KADOKAWA)でデビューし、「特別じゃない日」で日常をテーマにした作品に挑戦中。老夫婦や女子高校生、主婦、バイトの青年……それぞれの小さな幸せがつながっていく物語を描いていて、実業之日本社から第1集が書籍化されています。Twitterアカウントは@ina_nanana
withnewsでは原則隔週水曜日に、稲さんの漫画とともに作品に込めたメッセージについてのコラムを配信しています。
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