連載
#15 #今さら聞けない子どもの安全
「家具の遊具化」事故リスク、一番は? たたんだベビーカーまで……
「目を離せる環境作りを」
コロナ禍は、在宅時間が増えがちです。子どもたちが退屈して家の中で遊んでいる時、実は危険が潜んでいました。「家具の遊具化」です。事故が起きやすい家具にはどんなものがあるのでしょうか? 意外な「危険家具」と注意するポイントを聞きました。
そもそも「家具の遊具化」とはどんなことを指すのでしょうか。
遊具の安全に詳しい、東京工業大学教授の 西田佳史さんは、コロナ禍になり、子どもたちが室内で過ごす時間が増える中、家具を遊具のようによじ登って遊ぶことによる危険性に着目しました。
家具をよじ登るなど、本来と違う使い方をすると、落下による骨折や打撲などの危険があります。そこで、西田さんは、どんな家具が「遊具化」しやすいかを明らかにするため、東京消防庁のデータを基に、起きた事故の家具の種類と年齢別に分けて調査しました。分析したのは2016年からの5年間、住宅内で起きたよじ登りに関連した0~9歳の121件の事故です。
分かったのは、年齢が上がるにつれて運動能力が上がり、行動範囲広がるため、よじ登れる家具の種類が増えるということでした。どの年代でも多く発生しているのは、そもそも立ちやすい「椅子」や「ソファー」で、全体の約3分の1を占めていました。一方、大人が想像しにくい家具にも登る例もありました。
家具ではありませんが、室内に収納しているベビーカによじ登ってしまう恐れがあります。0~1歳の40件のうち、ソファーの9件、椅子の8件の次に事故が多い5件でした。玄関、廊下などでベビーカーによじ登って転落した事例が報告されています。西田さんは「ベビーカーはタイヤがあり、不安定なため、よじ登った場合、滑って倒れる危険性が高いです。転落の高さも1m程度になる場合があります。置いてある場所の床が硬いと、頭を打ったときに危険度が増します」と話します。ベビーカーの収納場所は、子どもが登りにくい場所や、硬くない床などを選ぶようにする必要はあるといいます。
0~1歳が登った家具(40件)
ソファー 椅子 ベビーカー ベッド
テーブル マットレス こたつ タンス
段ボール テレビ台 ランドセル 柵
台 棚 本棚 犬小屋
2~3歳が登った家具(38件)
椅子 ソファー 台 棚 自転車
ベビーカー シンク タンス テーブル テレビ台
トランポリン フェンス ブロック塀 安全柵 机
座布団 2段ベッドの柵 出窓 食器棚
子どもが歩くようになり活発になったころ、室内に「安全柵」や「安全ゲート」を設置することがあります。また、子どもが遊ぶ場所を囲ったり、台所や階段などの危険な場所を封じるためにゲートを設けることがあります。
特に火元や刃物がある台所にはゲートを付けることを推奨されていますが、多いのが、誤った付け方をしていたり、もともと倒れたり外れやすいものを使っているケースです。安全のためにつけたゲート自体が原因となってケガをしてしまう可能性があるのです。
西田さんは「ねじや固定カップでしっかりと柱に取り付けることで、外れないような強度のものを選ぶことをすすめます。子どもがぶつかったり、登ろうとした拍子にはずれて、階段に転落するなどの事故を防ぐことができます」。消費者庁も、安全なベビーゲートの使い方や選び方を注意喚起しています。
4~9歳が登った家具(43件)
椅子 壁 塀 タンス フェンス
台 ガラスケース ゴミ箱 ソファー テーブル
テレビ台 ベッド マット 脚立 健康器具
自転車 手すり(ベランダ・階段) 出窓
食器棚 柱 布団
4~9歳になると、より活動的になるため、大人が「登れないだろう」と思うものにまで登ってしまうケースがあります。例えば、タンスや、壁(壁と壁の間を伝って登ったケースも含む)が挙げられます。
西田さんは「タンスは、引き出しを引いている上に登ると、てこの原理でより倒れやすくなります。タンスは重量があるため、下敷きになるなど死亡例もあります」。対応としては、アンカーなどで壁に付ける方法があります。
また、JISの安全基準も2020年12月に改定され、引き出しを引いた上に体重をかけても倒れないようするという基準が設けられました。家にあるタンスがどの基準で作られているか確認してみてもいいかもしれません。
今回の調査は、家具単体での事故の数が対象でしたが、実は、一つの家具だけの危険性を注意するのでは安全対策は十分とは言えません。
西田さんは「家の家具の配置によっては、複数の家具が組み合わさることにより新たな危険が生まれます。組みあわせによって危険が大きく高まる可能性があり、家具を配置するときに子どもがよじ登る可能性を考える必要があります」と注意をうながします。
例えば、テレビです。テレビ台にテレビが乗っていると危険性が高まります。子どものけがを防ぐ活動をするアメリカの非営利団体「Safe Kids Worldwide(セーフキッズワールドワイド)」が、テレビが倒れる事故を調べたところ、2000~10年の間に、アメリカ全土で17歳以下の子ども169人が死亡していました。また、 2002~11年のテレビ倒れたことによる事故では、5歳以下が全体(19歳以下の子ども)の72%を占めていました。
西田さんは「テレビ台の上に乗っているから安心ということではありません。子どもがつたって歩いたり、地震のとき、子どもの頭部に倒れる危険性があります。一番安全なのは、壁に固定することです」と話します。
子どもは昨日出来なかったことが突然今日できるようになります。西田さんは「『歩けないはず』と思っていた赤ちゃんが歩き出したときなど大きく行動範囲が変化した際に、身の回りに危険がないか注意をする必要があります」と警鐘を鳴らします。
コロナ禍で、大人が自宅にいるから大丈夫だろう、という考えも注意です。「テレワーク中に子どもの様子まで見ているのは不可能です。注意がそれた、歩きスマホと同じような状況になっていると言えます。そんな時でも、子どもが事故を起こさないような、『目を離せる環境作り』を第一に考える必要があります」と話します。
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