連載
#23 眠れぬ夜のレシピ
行き場のない夜…たらこバターご飯を「鎮痛剤」に 眠れぬ夜のレシピ
ゆっくり生活の片鱗をこなして自尊心を回復させる
差し伸べられた「手」を取ることすらできないほど、苦しい夜もあります。SNS作家・午後さんが描く「眠れぬ夜のレシピ」は、そんな夜をやり過ごすための「ごはん」。手紙を添えて、お届けします。(漫画・コラム、午後)
午後さんのプレイリスト
眠れない夜。午後さんの身近にあった音楽を教えてもらいました。
あなたの夜の隙間も、少しでも埋められたら、幸いです。
こんばんは、午後です。
お正月も成人の日もあっという間に終わりましたね……心身ともにまだまだ休みモードの中、仕事モードに切り替えるのになかなか苦労をしております。
7日には、七草粥を作って食べました。正月の余ったお餅を角切りにして入れるので、とろみのついたお粥になります。サラサラのタイプより、とろとろしたタイプのお粥が好きです。ゆっくり食べて、正月のご馳走で疲れた胃をいたわりました。
さて、今回は、暴飲暴食のお話を掲載していただきました。毎年年末はケーキやお餅を食べ過ぎてしまうのですが、それとはまた別の、自暴自棄な食事についてです。
私には上手くできないことが数え切れないほどあるのですが、その中の一つに“食事”があります。お菓子を作る漫画を散々描いておいて不思議に思われるかもしれませんが、私は疲れが溜まると、爆食か拒食に、よく陥ってしまうのです。
栄養のあるものを、毎日一定の量で摂ることが難しいです。これは私の作業の臨み方と共通する部分が多いので(毎日決まったタスクをこなすことが難しく、溜めて一気に片付けようとする)、行動のクセのようなものだとは思うのですが、それとは別の作用が働いている可能性を近年感じつつあります。それは、いわゆる自傷的な作用です。
私には、自分がまるでボロボロの汚れきった雑巾のように感じる時間がしばしば発生するのですが、その感覚発生のシステムの根底に、『あなたの代わりに自分をこんなに傷つけているから、どうかそれ以上傷つけてこないで』という気持ちが存在することに気づきました。
架空の誰かに向けて一生懸命、苦しんでる自分を披露・証明しようとしている訳ですね。
はっきり言ってこれ以上に無意味な作業はありません。自分を守ることができるのは自分しかいないのに、つらい時ほど自分を攻撃してしまう。自分が一番聞きたくない言葉を投げかけてくる存在を頭の中に作り出し、その存在に媚を売る。これだけ面倒なことができるならその労力を、自分をいたわることに使えるようになりたいものです。
……といったようなことを、横になりながらぐるぐると考えていた正月でした。頭の中で整理・理解ができても、実際に行動に移すことができるようになる(自分をいたわれるようになる)には、もう一段階、気づきなどが必要です。
どうすればいいのか、私はまたずっと、悩みながら考え続けるのだと思いました。
最後に、最近私の光になった言葉を紹介したいと思います。
「せっかくなら苦しんで生きたいでしょ」 /『違国日記』6巻 ヤマシタトモコ著(祥伝社)
「違国日記」は主人公の両親が事故死し、彼女が叔母の家に預けられるところから始まるストーリー。この物語では一貫して「人と人は分かり合えない」こと、「誰かの孤独は永久にその人だけのもの」だということを、叔母の言動を通じて主人公と、私たち読者に語りかけてきます。
私はそのメッセージを受け取ると、良い意味で諦めがつくといいますか、とても楽になるのです。
無意識に私自身と重ねてしまっている悩み多き叔母からの、「生きにくさを肯定する言葉」「苦しみを受けて立つ言葉」には、途方もなく励まされます。いつか私もこんな風に言えるようになれたらいいなと思うのと共に、年齢を重ねることへの希望を見出せます。
これくらいカッコいい言葉を自分にかけられるようになれたらと思うのですが、この境地までまだまだ到達していない私は今日も、自分の足場を整える作業に集中することでやり過ごしています。歯磨きや、洗顔などです。これらの自分自身のケアの中でできそうなものを一つ選んで、ゆ〜っくり時間をかけて行います。
そうして得た、何かを成し遂げた達成感に少しだけ安堵し、眠りにつくのです。
それでは、今夜も素敵な夢を見られますように。おやすみなさい。
午後
SNS作家。2020年5月からTwitterに漫画を投稿をしている。著書に「眠れぬ夜はケーキを焼いて」、「眠れぬ夜はケーキを焼いて2」(ともに、KADOKAWA)がある。Twitterアカウントは@_zengo。
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