連載
#48 「きょうも回してる?」
ガチャガチャ専門店、仕掛け人が決断した「一等地」への出店
「人を雇うなんて赤字でしょ?」疑問の声を一蹴
ガチャガチャ業界は不況に強いと言われています。リーマンショックや東日本大震災の際には、店舗の空きスペースを活用して、ベンダー(ガチャガチャの機械を設置する会社)がマシンを設置し、ビジネスを展開していました。
最近も新型コロナウイルス感染拡大の影響で、ショッピングモールなどの商業施設に空き店舗が増え、そこにマシンの設置が進みました。ガチャガチャを目にする機会が今までよりも圧倒的に増えました。
とくに2021年は専門店の出店ラッシュがあり、ガチャガチャの歴史の中でも、第4次ブームと位置づけることができるくらい大きな出来事でした。今でも出店のペースは落ちていません。
しかし、今までの不況とは、明らかに違う部分があります。第4次ブームの本質とは何なのか。そこには、約10年前からガチャガチャ専門店を運営するドリームカプセルの存在が大きく関わっています。
現在、全国のショッピングモールなどに33店舗あるドリームカプセルは、代表の都築祐介さんが立ち上げました。成り立ちについて都築さんは「僕の死生観が関わっています」と笑って話します。
都築さんが死を意識するようになったのは、中学1年生の時でした。父親が37才の若さで病死し、思春期のど真ん中である都築さんは「僕も37歳で父親と同じように死ぬかもしれない」と思ったそうです。この死生観は、その後の都築さんの人生に大きく影響を与えました。
社会人になった都築さんは、家具のバイヤーや雑貨の企画会社に勤めたあと、広告代理店に転職します。当時は業績がよかったこともあって、終電で帰れればいいほど激務でした。
「今のままの状態で仕事をしていったら、30代は体力が持つかもしれないが、40代は持たない」と思いながら働きつづけた都築さんは、2009年に亡くなった父親と同じ年齢を迎えます。
「37歳になっても死ななかったんですよね(笑)。僕の人生設計は37歳までしかありませんでしたので、残りの人生はボーナスステージです。次の人生は自分の好きなことをやろうと、会社を辞めて、ドリームカプセルを立ち上げました」
ドリームカプセルは当初、インテリアのWEBショップでの雑貨販売が事業の軸でした。その後、ガチャガチャ運営者に声をかけられたことをきっかけに、副業としてベンダーを始めるようになります。業界では後発のベンダーとなりました。
専門店への転機があったのは10年ほど前です。週末にイオンモールでガチャガチャのイベントを開催していた時に、イオン側から「大垣と京都に空きテナントがあります。ここにガチャガチャを置いてくれませんか」と声がかかりました。
打診を受けた空きスペースは、マシンを数百台設置できる広さがありました。「ここにマシンだけを設置して無人で運営するのは無理だと思いました」と都築さん。アルバイトを雇いガチャガチャ専門店として、2011年2月に「ドリームカプセル イオンモール大垣」を、同年9月には「ドリームカプセル イオンモールKYOTO」をオープンしました。
当時、専門店と言えば、東京の秋葉原にある「秋葉原ガチャポン会館」くらいしかなく、ショッピングモールで常時スタッフを置いて運営する専門店はありませんでした。
「人を雇って運営するなんて、赤字でしょ?」「本当に儲かるの?」と都築さんの運営方法を疑問視する見方も業界内ではあったそうです。
しかし、外部からの声は杞憂に過ぎず、売上が順調に伸びていきました。一方、都築さんは専門店を運営していくなかで、ひとつの疑問が湧いてきたといいます。それはガチャガチャのビジネスモデルについてでした。
当時のベンダーの一般的な営業は「場所はどこでもいいので、空きスペースがあったら、マシンを設置させてください」というものでした。極端な例で示すと、通路の奥のトイレの前にもスペースがあればマシンを設置するというものです。
これは、ガチャガチャが自動販売機の一種として扱われ、マシンの前を通る人が購入するビジネスモデルとして成立しているからです。そのためマシンを設置した商業施設の集客力が売上を左右することになります。
この構図に対して、都築さんは家具のバイヤーや広告代理店の経験から、「メーカーさんがせっかく面白い商品を作っているのだから、設置場所がどこでもいいという考えではもったいない」と、ガチャガチャのマシンを自動販売機として捉えるのではなく、物販という視点で見てもらうことを大事にしていきます。
そこで、都築さんはショッピングモールの担当者に「物販のお店と同じ売上を作るから、一等地にガチャガチャを置かせてくれませんか。僕の店舗をフックに、普段来店されない方も呼びますし、施設全体の集客にも貢献します」と営業をしていったそうです。
営業した当初は、「施設の方からすれば、月にガチャガチャで何百万円も売上を作る感覚がないから、なかなか信じてもらえませんでした」と振り返りますが、出店した先で実績を出していくほか、業界の事情も店舗展開を後押ししました。それは消費税です。
ガチャガチャ業界は不況に強い反面、消費税が上がった時には弱い部分があります。なぜなら、商品は内税で販売されており、ベンダーが商品を仕入れる時は外税のため、消費税が上がるたびに利益が少なくなってしまうからです。
消費税が5%から8%を経て10%に上がった時、売価は固定で仕入れ値だけが上がり、小さなベンダーは撤退あるいは廃業するしかなかったそうです。特に地方のベンダーは消費税の値上げのたびに撤退し、そのタイミングで、ドリームカプセルの店舗は増えていきました。
そして、ドリームカプセルの専門店をきっかけに、トーシンが運営する専門店「#C-pla」や、ルルアークが運営する専門店「ガチャガチャの森」などが登場していきます。
また、都築さんは店舗を運営する傍ら、商品の情報発信力も積極的に行っていきました。
ガチャガチャ業界は、メーカーが新商品を作っても一部の業界誌などが発表する程度です。新商品が発売されたことすら誰も知らない状態がほとんどで、ユーザーは売り場に訪れて初めて新商品が発売されたことがわかるという常識が40年以上も続いていました。
異業種から専門店を立ち上げた都築さんは「新商品が発売されたことすら知らない。どこで売っているかもわからない。そんな商売は世の中にありえない」と言います。店舗拡大は、購入できる場所を増やすためという意味合いもありました。
今では当たりのように思えますが、都築さんは店舗での販売開始の告知や、商品のサイズ感などを紹介するため、SNSを積極的に活用しています。
「重要なのはお客様に、『こんな良い商品を売ってますよ! 買いに来てください!』と言えることです。うちの店舗でなくてもいい。業界が活性化すれば、うちにもプラスになりますから」(都築さん)
このような情報発信をし続けた結果、都築さんが自らTwitterで発信する「ドリームカプセルの中の人」のフォロワーは9万人(1月時点)を超え、同業者やメーカーも商品を積極的にPRしています。
情報発信が少なかった時代は、メーカーでさえも自分たちの商品がどこで買えるかという問合わせに答えることができませんでした。しかし今は、ベンダーが情報発信を積極的にしているので、どこで商品が購入できるのか答えられるようになってきています。
ようやくガチャガチャ業界もここ1〜2年で、ダイレクトマーケティングの重要性に気づきはじめたことになります。そのきっかけを作ったのがドリームカプセルです。ベンダーが集客に力を入れた店舗作りをするとともに顧客視点で情報発信を始めたことこそが、第4次ブームの本質だと言えます。
当社店舗ではマシンの清掃・消毒などお客様の安全を第一に運営しておりますが、実は一番危険なのはマシンの4段積みだと思ってます。製造元もやめてくれって言ってますし。ドリームカプセルではお客様の安全を最優先に考えマシンの4段積みはいたしません。#ドリームカプセル
— ドリームカプセルの中の人【公式】 (@dreamcapsuleCEO) June 5, 2020
この第4次ブームのなか、21年秋にはあるニュースがガチャガチャ業界を駆け巡りました。バンダイのベンダー事業部が新規で特約店(1次代理店)を増やし、ドリームカプセルがそこに入ったというものです。
日本の玩具メーカーのトップ企業と直接取引ができることは、ドリームカプセルの企業価値の向上にもつながると予想されます。特約店は現在数社しか国内にはありません。
バンダイが新規特約店を増やすとなれば、約30年ぶりになります。この点もドリームカプセルに尋ねると、「事実ですが、契約内容に関しては守秘義務があるため詳しい内容はお話しできません」という回答が返ってきました。
ドリームカプセルの専門店が新規特約店になったのも、都築さんが専門店を立ち上げてから10年間、顧客視点で情報戦略をしつつ、受け皿となる専門店を同時に作り続けたことが評価された結果ではないでしょうか。
都築さんはよく「ガチャガチャ専門店なんてどこも一緒でしょ?」と聞かれるそうです。その時に返したという都築さんの言葉が印象的でした。
「それは『ラーメン屋なんてどこも一緒でしょ』って言っているのと同じ。商売は情熱なんです。店舗を作って終わり、マシンを置いて終わりではなく、販売する商品にどれだけ情熱を注げるかが一番大事なんです」
2021年は専門店が次々と出店した結果、目新しいものができたということで興味のない人まで、ガチャガチャを購入する特需も生まれました。しかし、専門店が当たり前のように日常化していくと、専門店の差別化が求められます。
都築さんも「20〜21年は、大型店舗化によりガチャガチャがこんなに多彩であることを知らなかった人たちが買い始めたことと、『鬼滅の刃』のようなキラーコンテンツがあったため、需要がバブル状態でした。その結果、どこに大型店舗を出しても、それなりの売上があったと思います」と総括しつつ、「ただ、このバブル状態も現場の感覚から昨年秋ごろから弾けたような感じがします。次のキラーコンテンツがない限り、他の業種同様、専門店は店舗の質の時代に入っていくので、これから生き残っていくための本当の戦いが始まります」と厳しい見通しを示しています。
ただ、最後には「僕はボーナスステージ中で失うものはないので、ウチの会社は手強いですよ」と笑って話してくれました。
ドリームカプセルのガチャガチャ専門店として、生き残りをかけた戦いは今後注目です。
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