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「気温上昇とCO2は関係ない?」環境問題の疑問、専門家の答え
「日本の地形、再生エネに不向き?」って本当?
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「日本の地形、再生エネに不向き?」って本当?
気候変動の危機を伝えるニュースを見聞きしない日がない一方、その根拠について疑いの目を向ける人がいるのも事実です。「気温上昇とCO2は関係ない」「日本は地形的に再生エネルギーの普及が難しい」「個人の努力は意味がない」。これらの主張は本当なのでしょうか?専門家に聞いてみました。(取材/たかまつなな編集協力/塚田智恵美)
堅達京子(げんだつ・きょうこ)
話を聞いたのは、NHKで気候変動やSDGsをテーマに数多くの番組を制作してきたプロデューサー・堅達京子(げんだつ・きょうこ)さんです。
堅達さんに確かめたのは以下の三つの疑問です。
まずは「気温上昇とCO2は関係なくて、周期的な地球の気候変動のせい?」という疑問について。
堅達さんはこの説を「『情報が古い』と一蹴しても構わない」と話します。
気候変動に関して、各国の政府から推薦された科学者が参加し、地球温暖化に関する科学的・技術的・社会経済的な評価を行う組織にIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)があります。
このIPCCが2021年8月、最新報告書(『第6次評価報告書』)において、人間が地球の気候を温暖化させてきたことに「疑う余地がない」とする報告を公表したのです。
<気候システム全般にわたる最近の変化の規模と、気候システムの側面の現在の状態は、何世紀も何千年もの間、前例のなかったものである>と指摘しつつ、従来よりも踏み込んで<人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない>と断定しました。
「つまり、もはや温暖化に対して人間が腹をくくらなければいけないところにきているんです」(堅達さん)
よって、「気温上昇の原因はCO2ではない?」という説は大間違い、と堅達さんは強調します。さらに、温暖化のスピードは決して一定ではなく、ドミノ倒し的に加速して後戻りできなくなる“温暖化の暴走”が起こりうることも指摘します。
脱炭素の流れの中で注目されるのが、風力発電や太陽光発電による再生可能エネルギーです。
しかし日本は、この再エネ利用の分野で、欧米に比べて遅れを取っています。
「一周、二周と周回遅れになっている。依然として石炭による火力発電に依存しています。国内にまだ石炭火力発電所新設の計画もある」(堅達さん)
日本がこれだけ遅れているのはなぜか。国土は狭いし山地が多い、といった地理的条件が足を引っ張っているのでしょうか?
ここで2つ目の説「日本は地形的に再生エネルギーの普及が難しい?」について聞いてみた。
「日本も、実は、太陽光発電や風力発電のポテンシャルは十分にあると言われています。緯度から見ても、ヨーロッパの一部の国に比べたら日照量は期待できる。風力発電の成否を左右する、風速や風向きの変わり方といった『風況』も、採算が取れるだけのポテンシャルはありますし、特に住宅やビルの屋上などへの設置や、荒廃農地への設置もまだまだ可能性があります。日本の再エネが高い理由は地理的な問題ではないんですよ」(堅達さん)
つまり2つ目の説も、答えは「間違い」ということ。ではなぜ再エネ普及が進まないでしょう?
それは「日本はまだ再エネが高いから」。EUやアメリカは脱炭素に数百兆円規模の資金を投じて、再エネが安く市場に出回るようにしたり、再エネの普及に欠かせない送電網などのインフラの整備を強化したりしています。
一方、日本政府の後押しは不十分と言わざるを得ません。
「よくよく調べると、日本で再エネが普及しない裏側には、導入に煩雑な手続きがいったり、素材が安く手に入らなかったりといった事情が見えてきます。エネルギーの根本的な転換については、既得権を持つ現在の産業界を中心に反対の声があがっているというのが現状なんじゃないか。“炭素を減らした人が得をする仕組み”にするなど、国として、政策によって変えていくしかないのでは」(堅達さん)
地球環境と聞くと、個人でできることは限られるように思えてきます。
「個人の努力は地球環境に意味がない?」という疑問に堅達さんは「そんなことはありません
」ときっぱり否定します。
その一つがフードロス対策です。
「全体の二酸化炭素排出量の中で、農業分野が占める割合は4分の1程度にも上ります。特にフードロスはたくさん作りすぎているわけなので、作る過程で出る二酸化炭素に加えて、ごみの量が増え、運搬や燃焼のために使う化石燃料の使用量が増えるという問題が起きます。小さなことに見えるかもしれないけれど、無駄な食料品を買わない、食べきれる量だけ買っておいしくいただく、といったことの積み重ねはあなどれない。地球を救うことに直結していると思います」(堅達さん)
私たち消費者は、脱炭素に向けて努力している企業を、消費を通じて応援しつつ、無駄な食料品を買わないといった地道で効果的な活動を続けていくこと。こうした心がけで脱炭素の動きを加速していくことで、欧米との間に開いた遅れも取り戻すことができるかもしれません。
世界規模の課題に対して、消費者が担う役割は小さくありません。サステナブルな取り組みを行う企業かどうか、一人ひとりが見極めていかなければならない時代になっているのです。
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