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連載

#16 地デジ最前線

いきなり「ロトの剣」持っても…「すごい公務員」が明かすDXのヒント

市のDX施策を牽引する多田功さんに「自治体DX」のヒントを聞いた=兵庫県加古川市役所提供
市のDX施策を牽引する多田功さんに「自治体DX」のヒントを聞いた=兵庫県加古川市役所提供 出典: 加古川市役所

目次

地デジ最前線
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「DXやってくれ」「デジタル化やってくれ」……社内でこんな声ありませんか。一体どこからどう手を付けたら良いのか。特別定額給付金オンライン申請システムを1週間で立ち上げたり、ワクチン接種予約の抽選サイトを作ったりして注目を集めた、DX施策で一目置かれる関西の地方都市があります。その仕掛け人で、「地方公務員アワード」にも選ばれた職員に「自治体DX」のヒントを聞きました。

兵庫県加古川市は県南部に位置する人口26万人の地方都市です。東京23区でいえば港区と同程度の人口で、神戸からは電車で30分ほどの距離です。

話を聞いたのは、加古川市役所企画部政策企画課スマートシティ推進担当課長の多田功さんです。1998年に入庁。人事課システム担当や情報政策課副課長などを経て、2021年からはスマートシティ推進担当課長として、市のDXを牽引しています。

その実績が評価され、優れた地方公務員を表彰する「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード」(ホルグ主催)を2021年に受賞。イベントなどで講演をしたり、政府の委員会の委員を務めたりしてきました。官民問わずDXが盛んに叫ばれていますが、何を考え、どう取り組んだら良いのか。多田さんに加古川での取り組み事例を聞きながら考えました。

DXに立ちはだかる「共感」

――地方自治体ではデジタル施策を進めたいが、その人材がいないと言われています。

よくデジタル人材がいない、と言われますよね。ただ、デジタル人材の定義はあいまいです。私は文系学部出身でシステム構築の知識は働き始めてから身につけたものですが、デジタル人材のように語られています。

デジタル活用の際はプロジェクトマネジャー、セキュリティー、コーディングなど様々な役割がありますが、十把一絡げに「デジタル人材」と言われます。そんなマルチな才能を持つ人はいません。

市では一般社団法人「Code for Japan」と連携し、データ分析を課題解決につなげるためのスキルについて研修しています。ただ、何もかもデジタルを使わないといけないというわけではありません。アナログのほうが良ければアナログで良い。ただ、職員がそれを判断できるようにならないといけません。

ドラゴンクエストで言えば、レベルが上がっていないのに『ロトの剣』を持つ、みたいなことでしょうか。それを扱う力量がなければ、持っていても意味がないですよね。そうしないと、「スマートシティやってくれ」「デジタル化やってくれ」「DXやってくれ」で議論が終わってしまいます。
――特別定額給付金の申請システムを1週間で立ち上げたり、ワクチン接種予約の抽選サイトを作ったりして注目を集めました。それらのシステムを公開し、他の自治体で利用されました。

特別定額給付金については(政府の専用サイト)マイナポータルからのデータをダウンロードし、印刷することなくシステムに取り込み、振り込みが完了できるようなシステムを市販のソフトを使って組みました。

元々は同僚が、マイナポータル経由できた定額給付金のオンライン申請を1件ずつ紙に印刷し、振り込みのための別のシステムに手で入力していたことを見て、簡略化できないかと考えたことがきっかけです。また、その後市民自らが簡単にデータを入力できる仕組みを作ることでスピード感のある振り込みができるようになりました。

ワクチン接種予約でも市に電話が殺到し、ホームページにも人口の5倍のアクセスが1日にあったため、電話かネットで希望する会場や時間帯を登録すれば、1度抽選に外れても自動で次回に応募が引き継がれる抽選方式を作りました。
――こうした施策を進めていく上でどのような課題を感じていますか。

行政職員はルールに沿った仕事が主で、その意味を深く考えずに前例を踏まえた状態で仕事ができてしまう部分があります。そのため(新しいものに取り組もうとする)アーリーアダプターは、業務改善や新しいことに取り組む際に必要な存在です。ただ、それを実現するには、取り組みへの共感を得なければいけません。そこが難しいですね。

同僚とはよく「そもそもこれは何のためにしているのか」を話し合い、原点に立ち返ります。自分の中でその必要性を咀嚼しないと、他の人の共感は得られません。他人が立てたイシュー(課題)の場合、なかなか腑に落ちず、苦しい作業になりますが、ジブンゴトとして、しっかり考えるべきですし、苦労しないと前に進めないのかなと思っています。

加古川市役所庁舎(市提供)
加古川市役所庁舎(市提供)

データ公開、庁内をどう調整

――2020年には、オンラインで広く意見を集めるDecidimというオンライン上の仕組みも導入しています。海外では事例がありますが、日本の自治体では初めてです。新しいシステムを積極的に使おうとされているのでしょうか。導入の経緯について教えてください。

2017年度に総務省の「データ利活用型スマートシティ推進事業」に採択されました。その後、スマートシティをより進めていくために、「スマートシティ構想」を作ることになり、その主役となる市民から広く意見を集めたいと考えました。

行政が市民から意見を集める方法としては、パブリックコメントがあります。ただ、パブリックコメントは市の提案に、市民が意見をし、その結果を公表するという意味で一往復半のやりとりです。

一方、スペインのバルセロナなど海外の自治体で使われているDecidimは、行政の提案への市民の意見やアイデアに対して、行政と市民、市民と市民が何度もやりとりができ、その議論は可視化されます。

リアル(オフライン)の場も大切にしていますが、オンラインの場は意見をしやすく、参加がしやすいという利点もあります。パブリックコメントを使う層に加えて、パプリックコメントとは異なる層からも広く意見を集めたいと考え、新たなチャネルとしてDecidimを採り入れました。
加古川市の市民参加型合意形成プラットフォーム「Decidim」
加古川市の市民参加型合意形成プラットフォーム「Decidim」 出典:加古川市役所のホームページ
――DXと言えば、新しいシステムを導入するという議論になりがちです。

他の自治体から「Decidimはどうすれば導入できますか?」ということをよく聞かれます。それだとお金を出せば導入できます、ということになってしまいます(笑)。

導入した目的は、意見を広く集めるためであり、決してDecidimを「使う」ことではありませんでした。

その背景には、行政の施策に対して、市民がより積極的に意見を述べることができる機会をどう作るかということを課題に感じていたことがありました。「システムを入れる=ゴール」ではなく、まずは解決すべき課題があり、解決策としてシステムという手段があり、その先に課題解決というゴールがあると考えています。

――解決すべき課題は、どのように見つけ出しているのでしょうか。

一市民の視点に立ち、利点があるかを考えています。Decidimで言えば、私自身が行政に意見をするときに、パブリックコメントはハードルが高く感じました。他にもオープンデータを広く市民に使ってもらいたいと考え、データを地図上で可視化した「行政情報ダッシュボード」を作りました。

そこではAEDの設置施設や指定避難所などの防災関連施設といった場所の情報を示しています。データがそこにあるだけでは利用者がデータに詳しいエンジニアなどに限られてしまいます。そうではなく、それを市民に使ってもらえるサービスとして提供したいと考えました。
防災関連施設の情報など市のオープンデータを地図に重ねて表示させることができる「行政情報ダッシュボード」
防災関連施設の情報など市のオープンデータを地図に重ねて表示させることができる「行政情報ダッシュボード」 出典:行政情報ダッシュボード
――データの公開にあたって、庁内の調整が大変だと他の自治体から聞いたことがあります。

多くの自治体ではデータを出すことを目的にしており、使われることを想定していません。そうなると、使われないから出さないという悪循環に陥ります。

使われないから出さないのではなく、使ってもらえるような工夫ができないかと考えるようにしています。

それは庁内に対しても同じです。市ではイベント情報をホームページで更新すると、それが自動的にオープンデータ化される仕組みがあります。

誰かに何かをしてもらおう、ということだとなかなか持続はしませんよね。既存業務の省力化につなげて考えていくことが大切です。

――加古川がデジタル活用に積極的なのは、スマートシティを目指しているからでしょうか。

よくそのように言われるのですが、スマートシティになることを目的に、ICT活用を始めたわけではありません。きっかけとなったのは、小学校の周辺や通学路を中心に設置した見守りカメラでした。

子どもたちの登下校時における安全確保を目的に、2017、18年に約1500台のカメラを取り付けました。ブルートゥースを使ったタグを持つ子どもや高齢者の所在を家族に通知ができる仕組みです。結果的にテクノロジーを使いましたが、それは後から付いてきたものでした。
加古川市内に点在する防犯カメラ=2019年7月
加古川市内に点在する防犯カメラ=2019年7月 出典: 朝日新聞

「自治体DX」が目指す姿は

――どういうことでしょうか。

加古川市は神戸や姫路、明石などのベッドタウンです。周りの街と比べると観光資源に乏しい。人口減少が見込まれる中で、観光地でないのであれば、ベッドタウンとしての魅力を高めないといけません。住む場所を考えたときに、子育て世代に限らず、地域の安全・安心は切り離せませんよね。

ただ5年ほど前は、人口1千人あたりの刑法犯認知件数は県内自治体の中でも上位に位置しており、犯罪抑止に向けた環境整備が課題になっていました。安全・安心な街づくりを実現するために、市長が見守りカメラを設置する方針を打ち出しました。

その後、タグを使った見守りサービスの拡張やデータ連携基盤を構築するために、総務省のスマートシティ推進事業に採択された、という順序になります。

――カメラの設置についてはプライバシーの問題もありそうです。市民の理解はどのように得ていったのでしょうか。

カメラで家の玄関を映してほしくない、という住民の懸念は当初から想定していました。地域の安全・安心は誰もが求めていることですが、その実現のために見守りカメラを付けることについては、住民との間でしっかりとした合意形成が必要だと考えていました。

オープンミーティングとして市長が市内の12カ所を回り、犯罪の抑止と事故の早期解決を始めとしたカメラの設置目的を説明しました。

プライバシーへの配慮として、各戸の入り口周辺はマスキングで黒塗りし、表札や人の出入りは映らなくしました。設置場所は小学校のPTAや町内会の意見も聞いて進め、実際に設置する際には近くの家庭に設置箇所を伝えました。

その結果、市民アンケートでは約9割が設置に賛成しました。

――少しずつですが、デジタルを積極的に活用する自治体も増えてきています。「自治体DX」の目指す姿はどういうものだと考えますか。

「DX」で何を実現させるのかというのは、それぞれの自治体によって課題も異なりますので、目指す姿も異なります。その一方でそれぞれの自治体において作られたものは一つの自治体だけで閉じるのではなく、他の自治体へ共有しさらに進化を遂げていくべきだと考えています。

5年後、10年後の地域の姿、業務のあり方をイメージしながら、今すべきことを少しずつやっていくことが重要です。デジタル化することは単なる手段にすぎません、それを行う職員の意識の変革こそが「自治体DX」の目指すべき姿だと思います。
 

日本全国にデジタル化の波が押し寄せる中、国の大号令を待たずに、いち早く取り組み、成果を上げている地域があります。また、この波をチャンスと捉えて、変革に挑戦しようとする人たちの姿も見えます。地デジ化(地域×デジタル、デジタルを武器に変わろうとする地域)の今を追う特集です。

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