ネットの話題
「おおきなはっぱをください」子どもの夢に応えた「大人の本気」
閉園する「日本一小さな植物園」がまいた種
せかいでいちばんおおきいはっぱをください――。6歳の子がサンタクロースにお願いしたのは、大人が頭を抱えてしまうような「プレゼント」でした。でも、夢を叶えるべく、長期休園間際の「日本一小さな植物園」が立ち上がります。奔走した大人たちに話を聞きました。
まだ年長の長女が、覚えたての字でサンタクロースに書いたお手紙。
見た時、尚さんは「困ったな」と途方に暮れました。なんで突然、「大きな葉っぱ」?
理由を聞くと、長女は「大きな葉っぱで、仮面を作りたいから」と言います。
「せめて、お金を払えばどうにかなるプレゼントにしてくれればいいのに」
ほかにほしいおもちゃがないか聞いてみたり、「画用紙で仮面を作ってみたら?」と提案してみたり、葉っぱ以外のプレゼントに誘導しようとしましたが、長女は「どうしても葉っぱがほしい」と譲りません。
確かな子どもの願い。「これはどうにか叶えなくては」。覚悟を決めました。
まず、住んでいる埼玉県の周辺で、大きな葉っぱが拾えそうな公園を探しました。
たしか、きれいな葉っぱを集めて料亭に納品するような人もいたはず。
でも夫婦だけで考えるのには限界があり、「フォロワーさんのお知恵を借りよう」と、藁にもすがる思いでツイートしました。
《世界で一番大きな葉っぱが欲しいという6歳児の願いはどこで叶えられますでしょうか。。》
趣味の切り絵で知り合ったフォロワーが、拡散してくれました。
「北海道のハスの葉が大きかったかも」
「模造紙に葉っぱを貼りつけて作っては」
「世界一じゃないけど、日本の大きな朴の葉はどうでしょう?」
さまざまなアイデアが集まりました。でも、長女の希望を叶える方法はなかなか見つかりません。
どなたか、お知恵をお貸しください!!
— 尚(Nao) (@naoapoco) November 21, 2021
今年のクリスマスプレゼントは、世界で一番大きな葉っぱが欲しいという6歳児の願いはどこで叶えられますでしょうか。。
こんなにはやく、無理難題なクリスマスが来るとは思いませんでした。。
何度誘導してもおもちゃはいらないらしく。
よろしくお願いします🙇♀️ pic.twitter.com/TAkXdhOZGn
同じ頃、東京都渋谷区にある植物園の園長・宮内元子(ちかこ)さんのもとに、尚さんのツイートを引用した「お困りの方いらっしゃったので、お知恵拝借出来ませんか」というメッセージが届きました。
「渋谷区ふれあい植物センター」という、渋谷駅から徒歩約10分にある、植物園です。
「日本で1番小さな植物園」。
誰でも気軽に立ち寄れる「人と植物をつなぐ」場所として、地域の人々に親しまれてきましたが、2021年12月28日を最後に、リニューアルのため、閉まることが決まっていました。
宮内さんは快諾。
そして、尚さんとやりとりして、こんな提案をしました。
「『世界で一番大きな葉っぱをほしいと言っている子がいる。どうか葉っぱを見繕ってあげてほしい』そう、私たちがサンタさんから預かったという計画にして、センターで葉っぱをお渡しするのはどうでしょうか?」
12月26日、埼玉県の家を元気に出発した長女の手には、サンタさんから渡されていた「おおきなはっぱチケット」と、「渋谷区ふれあい植物センターまでの地図」が握りしめられていました。
センターでは宮内さんたちスタッフが「今日はサンタクロースのプレゼントを受け取りに来る子が来る。サンタ代行のお仕事をやりきろう。大人の本気を見せよう」と打ち合わせをしていました。
植物園についた長女。
もともとシャイで、初対面の人には物怖じしてしまう性格です。
尚さんははらはらしながら見守っていました。
でも、スタッフたちも役割に徹し、「サンタ代行」の宮内さんもノリノリで、園内を案内します。「この葉っぱはどうかな? これじゃまだ小さいかな?」
温室に茂る、さまざまな「大きな葉っぱ」を前に、長女は一つ一つ、しっかり葉っぱを見て、お気に入りの葉っぱを選ぶことができました。
選んだのは熱帯植物のアンスリウム。
身長約115センチの長女の体がすっぽり隠れてしまうほどの大きな葉っぱでした。
お花屋さんで観賞用にも売っているアンスリウム。その「原種を見てもらいたい」と、大きく成長するものを、植物園が展示しているものでした。
「サンタさんからのプレゼントだ!よかったね!!」
来園しているまわりの客たちも、雰囲気を察して、盛り上げてくれました。
持ち帰れるように葉っぱを準備している間、園内を散策しつつも、そわそわしていた長女。
受け取ると、「背よりも大きい!」と大はしゃぎでした。
帰り道。尚さんは長女の変化に驚きました。
来園するときは歩き疲れて抱っこをねだっていましたが、渋谷駅に向かう帰り道、大きな葉っぱを自分で抱えて、風にふらつきながらも、誇らしげにどんどん歩いていきます。
「この達成感と喜びは、決して金では手に入らなかったな。いろんな方のお力におんぶに抱っこだったけど、頑張ってよかった」
自宅に戻ると、とりあえず仮面のデザインが決まるまで、花瓶に生けてお風呂場に置いています。
すっかり葉っぱが気に入った長女は、名前をつけて、おやすみのキスをし、何もなくてもお風呂場に行っては葉っぱを眺めています。
大きな葉っぱは長持ちします。だんだん枯れて茶色くなっても、残ります。
「これだけ多くの方のご厚意でいただいた葉っぱなので、その思いに負けないような立派な仮面を作らなきゃと、プレッシャーを感じています(笑)」
植物園でもらったスイセンとチューリップの球根もさっそくプランターに植えました。「春までに花を咲かせるんだ」と張り切っています。
「大仕事」を終え、12月28日を最後に閉まるセンター。
小学生の頃、植物園を見て「植物園に住む」ことが夢になったという宮内さんは、こう夢をつなぎます。
「見せるだけの植物園、ただお客さまに来てもらうのを待っているだけの植物園の時代は終わったと思っています。植物園で何かしらの参加できる目的をつくって、見て、感じて頂くきっかけをもってもらえたらうれしい。そして、ほかの植物園につながればいい。その『きっかけ』は子どもだけじゃなく、何歳からでも平等に与えられるべきだと思います」
「植物園の種をまこう」を合言葉に練った、最後の企画展。動画では「出会いの種、発見の種、生きる喜びの種。種たちはそれぞれに運ばれて、どこかだれかのもとにたどり着きいつかの希望につながっていく」とうたっています。
【植物園の種をまく】日本で一番小さい植物園が伝えたい種とは、生きていく中で大切にしたいありとあらゆるきっかけのこと。私たちは延々と重なる明日を生き抜くために種をまき続けねばなりません。命の糧の種子を、文化の礎の種子を、生きる喜びの種子を。
— 渋谷区ふれあい植物センター 軟式 スタッフ宮 (@fureai_miya) November 30, 2021
共に明日への種をまこう。 pic.twitter.com/CttKhDDaYB
1/13枚