連載
#8 #コミュ力社会がしんどい
「出来なくてもしょうがない」発達障害判明後〝開き直り〟消えた重荷
自分なりに楽しむコミュニケーション
30歳を過ぎてから、ADHD(注意欠如多動性障害)・ASD(自閉スペクトラム症)と診断された、ゆめのさん。より正確に状態を調べるため、専門的な医療機関で、知能検査を受けました。
すると、言葉や絵から情報を読み取ることは比較的得意な一方、処理速度が極端に遅いと判明したのです。更に、マルチタスクが苦手といったことも分かりました。
「思い当たる!」。一連の結果に、ゆめのさんは膝を打ちます。周囲の人々と話す中で、言いたいことが咄嗟(とっさ)に思い浮かばず後悔したり、食事しながらうまくコミュニケーションが取れず、失敗したりした経験があったからです。
苦悩の根っこを見据えた上で、自分の振る舞いを顧みると、捉え方が変わりました。
他の人と同じように人間関係を築き、交流できない。その点に負い目を感じ、不安を強める場面が少なくありませんでした。でも発達障害由来なら、一つの特性として理解すれば良い、と達観したのです。
「私は他の人と元から違うんだから、出来なくたってしょーがない」。そうやって、良い意味で開き直れるようになったのでした。
ゆめのさんはその後、発達障害について調べる中で、琴線に触れる表現と出会いました。精神科医・本田秀夫さんの著書『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』(SB新書)に登場する一節です。
例えば、大勢で会話するのが苦手な場合、少人数でお茶を飲む機会を設けてみる。たくさんの人と関わらねばならない仕事に抵抗があるなら、在宅勤務や、極力一人で回せる業務に取り組む。自分なりに最適解を導き出すことは可能なのです。
「ふつう」に執着せず、「私」という主語を取り戻すことから始めてみる。無理のない仕方で、対人関係を築いてもいい。そう気付けたとき、心にのしかかる重荷が消えたかのように、開放的な気分になれたのでした。
発達障害の診断は、ゆめのさんにとって、自分自身の特性を受け止めるきっかけになりました。長年悩んできたコミュニケーションについても、「自分らしく、ちょっとずつ進んでいこう」と思えるようになったそうです。
一方で、発達障害の診断を受けずとも、他者との距離感が測りづらい、といった困り事を抱える人はいるでしょう。自分自身と、家族や友人、知人の個性が衝突する場合もあるかもしれません。
こうしたケースを念頭に、ゆめのさんは、次のように話しました。
「『他の人と違う点』を前向きに認識し、自分に合った対人関係を、無理なく築く。そのことが、誰しもに当てはまる、生きやすさを得る手立てになるかもしれません」
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