連載
#7 コウエツさんのことばなし
「ギャル流行語大賞」に輝いた感嘆詞 Z世代の〝やわらかさ〟を象徴
「何にでも使える!」便利さから広まる
暮れも押し詰まり、世間はコロナ下で2度目のクリスマスとお正月を迎えようとしています。毎年12月に発表される「2021ユーキャン新語・流行語大賞」(「現代用語の基礎知識」選)では、選考委員の姜尚中さんが「生きの良い言葉が今年はなかった」とコメントしていました。一方、時代を超えてエネルギーにあふれているのが若者言葉にフォーカスしたランキング「ギャル流行語大賞」です。昨年は「やりらふぃー」だったこのランキング。今年はどうだったのか。2021年の発表があると聞き、記者会見場に駆けつけました。(朝日新聞校閲センター・田辺詩織)
12月2日に発表された「Simeji presents Z世代トレンドアワード2021」。「ヒト部門」「モノ部門」などと並んで「ギャル流行語大賞」のランキングが公表されました。
会場では、2000年代生まれの「Z世代」を代表し、タレント・俳優の岡田結実さんと、動画投稿アプリTikTokで話題のモデル・ロイさん、それに大人世代からはタレントの武井壮さんが登壇。2021年のトレンドを様々な角度から振り返りました。
そして注目の、今年のギャル流行語大賞は――「はにゃ?」。
「はにゃ?」……それって……。
筆者が戸惑っていると、Z世代の2人からは「きゃ~!」「わかるわかる~!」と声が上がります。一方の武井さんは「『はにゃ?』なの?」と意外そうな反応でした。
「はにゃ?」は、何だかよく分からないときに発する感嘆詞のようなもの。YouTuberの丸山礼さんが、コント「井上千晶シリーズ」で演じる井上千晶がよく口にする言葉です。
「ちょっとズレた」役どころがZ世代から愛され、人気に火がつきました。
ロイさんいわく「はにゃ?」は「何にでも使える!」ということで、使い勝手の良さから広まっていったようです。
自身は「団塊ジュニア世代」だという48歳の武井さん。「はにゃ?」を含めたZ世代の言葉をどう思うか聞いてみると、「受け取り方がやわらかい」といいます。
「何か物事を見ても、その言葉で表現するのか!って。僕らが使う言葉とは全然違う発想で生まれて、でもみんながわかるワードとして生き延びている。どんな時代にも生き抜ける、生存本能の強さを感じます」
対してZ世代の2人にも「大人の言葉」をどう思うか聞いてみました。
ロイさんは「ちょっと前はおじさんたちの言葉をダサいなとか思っちゃったりすることもあったんですけど。やっぱ我らまじ弱酸性なんで、Z世代」とにやり。
(※「まじ弱酸性」≒「優しい」の意)
「いろんな世代の言葉が今流にリメイクされて、はやったりとかする。なんかいろんな世代の言葉がどんどん受け入れられる世の中になってきてるなって思います」
子どもの頃から芸能界にいた岡田さんは「Z世代の気持ちも分かるし、大人の気持ちも分かる」といいます。
「若者の言葉って略しすぎてどうなんだろうって思う方も、逆に大人の言葉って古くない?って思う方もいる。でも大人も私たちの言葉をいいねって言ってくれて、私たちZ世代も、大人の言葉って勉強になるねって言えるようになった。だんだん歩み寄れている感じがして、すごく世界の幅が広がったなって気がします」
今回、選ばれた「はにゃ?」は、同時に発表された「顔文字大賞」にも選ばれました。ギャル流行語大賞と合わせて2冠です。
そしてその「はにゃ?」を表す顔文字はというと、これです。
何ともゆる~く、かわいらしいですね。
でもこれ、どんな文字を使ってできているの?
野暮かもしれませんが、ちょっと顔文字を分解してみました。
となります。
使い慣れた記号と、見慣れない「レア文字」を結びつけて、新しい表現が形作られていることが分かります。
取材のあと、「『はにゃ?』って知ってます?」と上司(40代男性)に聞いたところ、「はに丸くんでしょ?」との即答が。
「はに丸くん」とは、1983~89年にNHK教育で放送されていた幼児向け番組「おーい!はに丸」の、はにわをモチーフにした主人公のキャラクターのこと。「はにゃ?」が口癖でした(ちなみに、はに丸くんの相棒は、馬のはにわをモチーフにした「ひんべえ」。こちらの口癖は「ふにゃ」でした)。
一方、90年代生まれの筆者が「はにゃ?」と聞いて真っ先に思い浮かべたのは、実は「のだめカンタービレ」だったのでした。二ノ宮知子のコミックが原作で、06年にフジテレビ系でドラマが放送。主人公の「のだめ」は天然キャラで、その独特な言葉づかいのなかに「はにゃ?」がありました。
このように見てくると、「はにゃ?」はおよそ15年周期で、はやりすたりを繰り返すのでは――そんな仮説を立ててみたくなりました。
ちなみに、「あったらいいな、こんな顔文字」というトークテーマで、岡田さんは『ウレピー』を挙げていました。仲間内でよく使うのだそうです。
これを聞いた武井さんは「これ、昭和の時代にはやりましたよね」と一言。やはり「流行は繰り返す」のでしょうか。
時代や世代を超えて息づく言葉たち。そして自由な発想で世界を広げていく若者たち。これからも斬新な表現に注目していきたいです。
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