連載
#24 SDGs最初の一歩
ガンダムの黒歴史「絵空事じゃない」SDGs宣言文〝超訳〟への思い
アニメ声優の朗読が実現「宇宙が広がった」
「SDGsの宣言文はガンダムの演説のよう」。現代アーティストのキュンチョメさんの言葉をきっかけに、実際にこの言葉をガンダムの声優によって再現するプロジェクトが生まれました。キュンチョメさんがガンダム風に〝超訳〟したSDGsの宣言文を、『∀ガンダム』の声優を務めた高橋理恵子さんが朗読します。「SDGs、もう知っているよ、あれでしょ、と思っている人こそ聞いて欲しい」。〝超訳〟を通してSDGsの本質を探ります。(FUKKO DESIGN・木村充慶)
SDGsが目指す思想が書かれたSDGsの宣言文。そのまま読むとちょっと難しいですが、そこにある言葉はどれも大切なものばかりです。
そんな宣言文について、現代アーティスト、キュンチョメさんは「ガンダムの演説のよう」と解釈しました。宣言文をガンダムにたとえることで、SDGsの考えを広げるチャンスがあると教えてもらいました。
このたび、withnewsはキュンチョメさんとともにSDGsの宣言文の中でもそのエッセンスが詰まった「SDGs前文」をわかりやすく訳し、ガンダムになぞらえて音声コンテンツにする「SDGs前文超訳プロジェクト」を始めました。
キュンチョメさんが〝超訳〟した前文に声を吹き込むのは、『∀ガンダム』で中心的な人物であるキエルハイム役を演じた高橋理恵子さんです。
『∀ガンダム』は遠い未来、かつて繁栄した文明が荒廃した世界が舞台です。月に逃れた高度な技術を持つ人間と、荒廃した社会から再び立ち上がった人間たちとの争いと交流が描かれています。どんなに発達した科学技術を持っていても戦争は起こり、核爆弾まで使用されてしまう。貧困やジェンダーなど様々な社会問題がちりばめられ、未来の地球を通して現代のSDGsそのものといえるテーマを描いています。
『∀ガンダム』の重要シーンに、争いが避けられない人間同士をつなげるためキエルハイムが演説する「建国宣言」があります。アニメ本編の演説シーンで使われた音楽をBGMに、高橋さんがSDGs前文超訳音声コンテンツを読み上げます。
キュンチョメ
――高橋理恵子さんの収録はいかがでしたか。
ホンマ)圧倒されました! 何かとんでもないものを目撃してしまった感じです(笑)。
ナブチ)とにかくすごかった。台本も頭に入ってこなくて、ただぼーっと声を聞いていました(笑)。
ホ)SDGsの前文って元から、魂が込められた決意の文章だったと思うんですけど、そこに声がついたことで魂にブーストがかかった感じがしました。
――自分たちで書いた原稿が、声を吹き込まれて違うものに生まれ変わったと。
ナ)あらためて、声の力に気がつかされましたね。まるで初めて出会う文章であるかのように、新鮮に聞き入ってしまった。超訳が跳躍したって感じです。
ホ)この前文は、元から声に出すための文章だったのかもしれないなとすら思いました。
――女性の高橋さんの声だから感じる部分もあると思います。
ホ)歴史的にみても、重要な演説や宣言文のほとんどは男性が読み上げているんですよね。でもSDGsの中核には『男性中心主義的な社会を変えていかなければいけない』という決意があるわけで、SDGsの超訳は女性が読まなきゃいけないと思ったんです。高橋さんの声は、そうした意思まで全て伝えてくれるような声でした。
ナ)色々な意見があるとは思いますが、超訳の作業をしていて、一文一文じっくりと読んでいくと、やっぱりSDGsは力強いフェミニズムなんだなぁって思わされてくるんですね。
ホ)メディアでSDGsが語られると、どうしてもカーボンニュートラルの話題が中心になっちゃうけど、本質はそこじゃない。SDGsの核は貧困問題と女性の人権にあって、それが環境問題と繋がってくるという話なんです。高橋さんの声で読まれたことで、それがまっすぐに伝わるようになった気がします。
――どんなことを意識して超訳しましたか。
ホ)元々の前文がとてもアツいので、熱量はそのままに、ややこしい部分を分かりやすくするイメージで超訳しました。キエル・ハイム(高橋理恵子さんが演じたキャラクター)の声を前提に書いていたので、文体は彼女のイメージに寄せています。
ナ)最初にSDGsの宣言文を読んだ時に、「これはガンダムなんじゃないか?」という確信があったので、その直感を大切にしながら超訳しました。ガンダムって実はずっと環境問題の話をしているんですよ。シャアもハサウェイも、環境とは切っても切り離せないですからね。
ホ)ガンダムはSDGsが失敗した未来の話をしているんです。一貫してずっと地球と環境と人類の関係を描いていて、ガンダムの中核はSDGsそのものなんじゃないかと思っています。そしてそれが一番わかりやすく描かれていたのが、『∀ガンダム』なんです。
ナ)『∀ガンダム』では、度重なる戦争を起こしてきた人類史を、黒歴史と呼んでいるんですね。今の人類はまだ宇宙戦争は起こしていないけど、戦争と環境破壊の歴史をどんどん積み重ねている。もしかしたら自分たちはもう黒歴史の中に組み込まれているのかもしれないと考えると、SFは絵空事ではなく未来予想なんだと思えてくる。
ホ)未来予想としてのディストピアを回避するための鍵がSDGsなんですね。
――超訳する際に大変だったことはありますか。
ホ)この宣言文を書いた人を自分の体に憑依(ひょうい)させるような気持ちで挑んだのですが、それが大変でした(笑)。
ナ)なにか儀式を行っているような気分だったよね。
ホ)あとは言葉の取捨選択ですね。今回高橋さんに読んでいただいたのは基本的に宣言文の中の前文の部分なのですが、そこだけだとSDGsの良い部分が入りきらないんです。なので、前文以外から持ってきている文章もあります。
ナ)SDGsって聞きなれない言葉がけっこうあるじゃないですか。例えば『持続可能な社会』とか、なんとなく意味はわかるけど、冷静に考えると何を言ってるのかよくわからない。だからそこは、『未来の子ども達、そして未来の地球のために』という言葉に置き換えました。
ホ)とんでもなく長い時間軸の話をしていることが伝わるように、そういうニュアンスを入れたほうが良いと思ったんですね。
――お気に入りのフレーズなどはありますか。
ホ)『私たちはこの共同の旅路に乗り出すにあたり、誰一人取り残さないことを誓います』というセンテンスは元から前文にあるもので、一言も変えていません。ドラマチックで最高ですよね(笑)。
ナ)旅路というフレーズが効いてますよね。目的地に本当にたどり着けるかわからないけれど、でも出発しなければならないんだという意思がメチャクチャ良い。
――超訳していて気になったことはありますか。
ホ)この宣言文、そもそも誰も読んでないんだろうなあ、マジでもったいない!と思っていたので、宣言文の認知度をあげたいっていう謎の使命感を感じていたんですよ(笑)。 だからラジオに出たりとか、人前に出たりした時には「SDGsの宣言文すごいから読んで!」って言ってきたんですけど。でも文章そのものがとっつきづらいのは間違いなくて、どうにかしたかったんです。
ナ)やっぱり、翻訳調の言葉って頭に入ってきづらいよね。それにSDGsって一番最初に17の目標をド派手にビジュアライズした結果、誤解された側面も強いんじゃないかなと思っていて。
ホ)前に「あなたはSDGsのどの目標に取り組んでいますか?」みたいなことをインタビュアーが聞いてる記事を読んだことがあって、あれ?なんか違うぞっていう(笑)。 前文にも書いてあるんですけど、どれか一つが欠けてもダメ、つまり全部達成できないと意味ないって言い切ってるんですね。SDGsは都合よく選びとるものではないんです。エコバッグと人権問題は繋がっているわけです。
――ガンダムの声優である高橋さんに読んでもらうということでこだわった部分はありますか。
ホ)「SDGsはガンダムである」と仮定して、じゃあガンダムの登場人物のなかでSDGsを宣言できるのは誰か?と考えてみたのですが、絶対に高橋さんしかいないとすぐに確信したんです。まだ高橋さんへの交渉も始まっていない段階から、高橋さんの声で読まれることを前提に文章をチューニングしていきました。
ナ)少し補足説明をすると、『∀ガンダム』の世界では、環境汚染の結果、人類は月に移住していて、コールドスリープ(=身体を低温状態に保ち老化を防ぐ技術)をしながら地球の回復を待っている。で、地球が綺麗になったというので月から人が戻ってくる。その過程で、地球に住み続けた人類と、月から戻って来た人類が衝突してしまう。
そしたら超偶然、月の女王と見た目がそっくりの女性が地球にいて、途中で二人が入れ替わってしまうんです。その結果、月の女王にふんした地球人(キエル・ハイム)が女王にかわって演説をするんですね。覚悟を持って世界平和を決意する素晴らしいシーンです。
ホ)名シーンだよね。私もそのシーンがとても印象に残っていたこともあって、SDGs前文を読むならキエル・ハイムしかいない!と思いました。ガンダムに出てくる他のキャラだと、地球のことを考えすぎたり、愛しすぎたりして、地球を破壊しようとしちゃうからね。
――読んでもらう時に、狙いを伝えていましたが、どんなことを話したのですか。
ホ)高橋さんから「キエル・ハイムの演説は眉間にシワが寄っている感じで読んだのですが、SDGsはもっと笑顔や希望に溢れた感じで読んだほうがいいでしょうか?」と聞かれたので、「いえ、割と眉間にしわ寄ってる感じです」と答えました(笑)。
SDGsの宣言文って、自分たちがしてきてしまったことの反省と、もう繰り返さないぞという切実な決意を感じるんですよ。なので、権力者が人々を導いているとか、聖母になって包み込むように読むのではなく、切実さと強い決意がまずあって、その先に希望を感じるような声で読んでいただきたいと、高橋さんと話し合いました。
――高橋さんが読んでいる時、お二人は目を閉じていましたが、頭の中では『∀ガンダム』を想像していたのですか。
ホ)いえ、完全に宇宙が広がっていましたね。もし宇宙にいけるようになったら、地球を見下ろしながら、この声を聞きたいなと、そんなことを考えていたかなぁ。
ナ)あー、僕もそんな感じだった。地球が意思を持って喋りかけてきている感覚になってきて、マジでユニバースって感じでしたね。
――ガンダムファンは聞いてくれそうな気がしますが、お二人的にはどんな人に聞いてもらいたいですか
ナ)「あ、SDGsね」「もう知っているよ、あれでしょ」と思っている人こそ聞いて欲しいかなと思います。あと、エコとかフェミニズムという単語に悪い印象を持っていたり、苦手意識があったりする人に聞いて欲しいです。
ホ)宣言文を書いた国連の人たちが聞いてくれたら胸アツです(笑)。
――音声を聴く人にメッセージはありますか。
ホ)音声は5分くらいなので、まずはぜひ聞いてみてください。その後に、SDGsの宣言文も読んでみて欲しいんですよね。この熱量が37ページ分、ずっと続いて行くので。これはすごいことなんだなということが伝わると思います。あと、『∀ガンダム』も是非見て欲しい(笑)。今こそ見返す意味のあるガンダムだと思っています。
ナ)SDGsを考える時にSFを読み直したり、見返したりするのはとても重要だと思っていて。なぜなら、ありとあらゆる人類の滅亡がそこでは描かれているからなんですね。そして、そういう最悪の結果を回避するためにSDGsがある。
ホ)いまこそみんなでガンダムを見て、SDGsについて考えよう!!
ナ)あと、ブレンパワード(ガンダムを手掛けた富野由悠季さんが総監督をつとめたテレビアニメ)も観たほうがいい
ホ)え、なんの宣伝!?(笑)。