さて、ここまで専門機関からの提言の内容を確認してきました。しかし、こうした推奨を完璧に守って生活していくというのは、冒頭で述べた通り個人的には「言うは易く行うは難し」だと思います。
そもそも、こういった海外の提言は、その国の子育ての現状を加味した上で作成されているため、われわれ日本人にそのまま当てはめるのは無理があることかもしれません。
例えば、米国では乳幼児も子ども部屋で1人で寝かせる習慣があったり、子ども部屋にテレビが別に備えつけられていたりします。ベビーシッターを利用する家庭も多く、日本とはかなり子育ての常識が異なります。
日本では、働きながらワンオペで子育てをする親御さんや、核家族が多い背景もあり、現実的には難しい目標かもしれないと感じます。
ただ、発達への影響を指摘する専門機関もある中、こうした提言は一定の目安にはなると思います。そして、ご家族でメディアの使用に関するルールについて話し合うことは、子どもの健康を守ることにもつながります。
私としては、メディアと付き合う上で、「乳幼児は受動的なメディアから有効的に学習することが難しい」「双方向的なメディアについての研究はまだまだ始まったばかりである」という事実を押さえてほしいと思います。
つまり、メディアを使ってはいけないのではありません。ワンオペ育児で大変な思いをしている親御さんにとって、子どもの関心を集めてくれるスマホやタブレットは心強い味方でしょう。親御さん自身が参ってしまうことがないように、頼るシーンがあっても構わないと私は思います。
ただし、メディアを使用するときはお子さんだけで使わせないように注意し、双方向性のものを選んだり、一緒に使うことを心がける。内容をお子さんに説明してあげたり、実体験と関連づけるような声かけを行って「親子の会話」につなげることは、メディア接触の時間をより有意義にする助けになるかもしれません。
忘れてはならないのは、現状、IT分野の発展のスピードに臨床研究が追いついていない可能性があることです。日本小児神経学会が慎重な姿勢を維持しているように、メディアが子どもたちにどのような影響を与えているのか、様々な研究成果は出てきているものの、確たることはまだわかっていないというのが実際のところでしょう。
しかし、いくら社会の変化のスピードが速くなったとしても、ヒトの生き物としての特性は大きく変わるものではありません。乳幼児期のお子さんの発達・成長に関しては、親御さんとのコミュニケーションを取り入れるのが重要というのが、小児科医としての私の見解です。
※1 Pediatrics. 2016 Nov;138(5):e20162591.
※2
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK541170/pdf/Bookshelf_NBK541170.pdf
※3 Am Behav Sci.2005;48(5):505–522.
※4 BMC Public Health. 2017 Nov 20;17(Suppl 5):868.
※5 JAMA Pediatr. 2020 Jul 1;174(7):665-675.
※6
Technology and Interactive Media as Tools in Early Childhood Programs Serving Children from Birth through Age 8
※7 Child Dev.2014;85(3):956–970.
※8 Child Dev.2016;87(2):405–413.