MENU CLOSE

IT・科学

スマホ育児、子供への影響は? 最低限の“押さえ”を小児科医が解説

スマホ育児は子どもにどのような影響を与えるのか、専門機関の見解は?※画像はイメージ
スマホ育児は子どもにどのような影響を与えるのか、専門機関の見解は?※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

「動画って、どれくらい見せてもいいのでしょうか」。小児科医として日々お子さん・親御さんと関わっていると、外来で質問を受けることがあります。コロナ禍の影響もあり、お子さんに動画を見せる機会が増えているのでは、と思います。

一方で、医学界には昔から“乳幼児のメディア使用と発達の遅れが関連しているのではないか”という議論があります。エビデンスを交え、今や手放せないデジタル機器を使う中で押さえてほしいことについて、小児科医の視点からご紹介します。(小児科医・成瀬裕紀)
【PR】手話ってすごい!小学生のころの原体験から大学生で手話通訳士に合格

「子どもをメディアから守ろう」という動き

コロナ禍において、病院では共用の絵本・おもちゃの撤去や、プレイルームなどの共用スペースの閉鎖がありました。在宅勤務をしながらお子さんのお世話をする親御さんも多いと聞きます。

子どもは関心を向けられるものなしにはじっとしていられません。今や育児において、スマホやタブレットで見ることのできる動画は心強い味方でしょう。

一方で、「子どもにスマホやタブレットをどれくらいまで使わせてもいいのだろうか……」という親御さんからの疑問の声も頂きます。

実は、世界的には乳幼児を“メディア”から守ろうという動きが起きており、各国の専門機関からいろいろな提言が出されています。

ここで言うメディアとは、近年普及するスマホやタブレット、パソコンなどのほか、従来からあるテレビやDVDなどを含む、スクリーンを持つ情報伝達装置全般を指します。

そして、こうした提言をまとめると、乳児(出生~2歳まで)では「スクリーンは使用しないように推奨」されており、幼児(2〜5歳まで)でも「スクリーンは使用しても1時間以内でより短い方が好ましい」とされているのです。

私自身、子どもを持つ親ですので、これが正直、現実的には達成困難な目標だということを、実感としてよくわかっています。

だからこそ、こうした医学的な助言を踏まえ、私たちはどのように子どもをデジタル機器と関わらせるべきなのか、考えてみたいと思います。

「使用させない」「1時間以内」提言も

ここで、専門機関による具体的な提言の内容を見ていきます。

まず、日本ですが、2004年に日本小児科医会の「子どもとメディア」対策委員会日本小児神経学会が提言を出して以来約17年間、目立った方針は示されていません。日本では、今のところ明確な推奨がないと言ってもよいかもしれません。

ちなみに、当時、両者の見解は分かれていました。日本小児科医会の提言では「2歳まではテレビ・ビデオ視聴は控えましょう」などとされていた一方、これを受けた日本小児神経学会の提言では「さらなる科学的検討が必要」「今のところ十分な科学的根拠はありません」ともされていました。

では、それ以来、どのような科学的根拠が積み重ねられてきたのでしょう。世界の議論を確認していきます。

2016年に米国小児科学会(American Academy of Pediatrics)から出されたメディアとの付き合い方についての提言(※1)ではこのように推奨されています。

・1歳半〜2歳までのお子さんには、スクリーンメディアの使用は控えましょう(ビデオチャットを除く)
・2~5歳の子どもたちに見せるメディアは、1日1時間以下の高品質な番組に限定しましょう
・食事中と就寝前の1時間はスクリーンを使わないようにしましょう

さらに、2019年には世界保健機関(WHO)からもメディアとの付き合い方についての提言(※2)が出されました。

・2歳までは、スクリーンタイム(テレビ・ビデオの視聴、コンピューターゲームなど)は推奨されません
・2歳から5歳までは、スクリーン使用時間は1時間以内とし、より少ない方が好ましいでしょう

どちらの提言でも、乳児(出生~1歳まで)ではスクリーンは使用しないように推奨しており、2〜5歳までの幼児についても、スクリーンは使用しても1時間以内で、より短い方が好ましいという内容です。

カナダやオーストラリアでも上記の提言と同様で、2歳未満の子どもにはスクリーン使用を推奨していません。

こういった世界的な動きには、背景となった研究があります。どのような科学的根拠で、小さいお子さんをメディアに触れさせることが、否定的に捉えられるようになってきたのでしょうか。

デジタルメディアは「肩代わりできない」?

まず大事なのは、研究が進み、デジタルメディアに対する反応が乳幼児と成人では大きく違うことがわかってきたということです。

具体的には、乳幼児は大人が思っているほどには、動画の内容を正しく理解したり記憶したりすることが、そもそもできないのです。

例えば、乳幼児はデジタルメディアからは親御さんとの交流から得られるような学習ができない(※3)といった研究や、デジタルメディアから得た知識を三次元の(現実の)体験に置き換えて応用することが難しい(※4)といった研究が発表されています。

噛み砕いて紹介すると、お子さんが「隣の部屋におもちゃが隠される」シーンを「リアルで見た」ときと「ビデオで見た」ときに、そのおもちゃを探させると、後者でおもちゃを発見できた成績が非常に低かった、というような実験があります。

なぜ、こうしたことが起きるのでしょうか。背景には、乳幼児の能力が未熟なことがあると考えられています。

具体的に言えば、われわれ大人は、建物の写真が映された後に室内の写真に切り替わると、“その部屋が建物の中にある”と推測できます。しかし、2歳未満のお子さんの場合、そもそもそういった“関係性”が理解しにくいのです。また、注意力・記憶力もまだ低いため、より理解しにくくなります。

こういった研究結果などを根拠として、日常生活で親御さんがお子さんに声をかけたり遊んだりする中で得られる学習効果を、デジタルメディアで肩代わりすることは、難しいと考えられるようになってきています。

また、複数の論文をまとめて解析したシステマティックレビューでは、メディアに触れている時間と、運動・認知機能の発達、心理社会的健康の指標との関連は、主に好ましくないか、関連性がないという結論で、有益であるという結果ではありませんでした(※4)。

さらに、いくつかの研究をまとめて分析した最新のメタアナリシスでも、メディアの使用時間が長いほど、言語能力の低下に関連しているという結果が導き出されています(※5)。

このように、単純にメディアを使っていた時間が長いことが、子どもの発達に良い影響を与えないのではないか、と考えられるようになってきています。 

では、反対に、乳幼児がメディアを使用することによって良いことがある、と結論づけている論文や公的な機関の見解はないのでしょうか。

スマホやタブレットは区別するべきという見解も

実は、テレビやビデオといった画面をただ見ているだけの受動的なメディアと、スマホやタブレットのようなタッチやスワイプといったこちら側からのアクションを要するような双方向性のメディアについては、区別して議論した方が良いという考え方があります。

このような双方向性のメディアに対して、アメリカ幼児教育協会(NAEYC)が2012年に提言を発表しています(※6)。

・2歳未満のメディア使用に関しては、双方向性ではないメディア、テクノロジーについては使用を制限すべきである
・2歳以上のメディア使用については、適切な教育方法や環境、遊びのバランス等、効果的となる使用条件を考える必要があることや、幼稚園と家庭と両方のメディア使用状況をあわせて、子どもとメディアとの関係を考えるべきである

メディアの使用については、少し踏み込んで“受動的な使用が問題である”という見解を示しています。そして、さらに2歳以上の場合については、双方向性のメディアに対して、むしろ肯定的な立場であることもわかります。

ここで、前述した2016年の米国小児科学会の提言をよく読むと「ビデオチャットを除く」と但し書きがあります。実は、ビデオチャットに関して「乳幼児が見ているものが理解できるように大人のサポートが必要」とした上で制限をしないという内容が明記されています。

これは、その間の研究により、「2歳児が大人とのビデオチャットやタッチスクリーンの教育アプリから言葉を学ぶことができる」という研究結果(※7)(※8)が出てきたことを根拠にしているようです。

また、それまでの米国小児科学会の提言が、テレビ・ビデオといった受動的メディアに対する研究結果をベースにしているため、提言をスマホ・タブレットに代表される双方向性メディアに拡大解釈してはいけないという意見があったことも影響しています。

どうやらテレビ・ビデオといった情報を受け取るだけの受動的なメディアと、スマホ・タブレットなどの双方向性のメディアについては、区別して考えた方が良さそうです。

ただし、スマホやタブレットで我々が何をしているかというと、もしかすると受動的にYouTubeを見ている、ということも多いのではないでしょうか。デバイスだけではなく、コンテンツや視聴の仕方などの「関わり方」に注意が必要なのかもしれません。

リアルのコミュニケーションを交えながら

さて、ここまで専門機関からの提言の内容を確認してきました。しかし、こうした推奨を完璧に守って生活していくというのは、冒頭で述べた通り個人的には「言うは易く行うは難し」だと思います。

そもそも、こういった海外の提言は、その国の子育ての現状を加味した上で作成されているため、われわれ日本人にそのまま当てはめるのは無理があることかもしれません。

例えば、米国では乳幼児も子ども部屋で1人で寝かせる習慣があったり、子ども部屋にテレビが別に備えつけられていたりします。ベビーシッターを利用する家庭も多く、日本とはかなり子育ての常識が異なります。

日本では、働きながらワンオペで子育てをする親御さんや、核家族が多い背景もあり、現実的には難しい目標かもしれないと感じます。

ただ、発達への影響を指摘する専門機関もある中、こうした提言は一定の目安にはなると思います。そして、ご家族でメディアの使用に関するルールについて話し合うことは、子どもの健康を守ることにもつながります。

私としては、メディアと付き合う上で、「乳幼児は受動的なメディアから有効的に学習することが難しい」「双方向的なメディアについての研究はまだまだ始まったばかりである」という事実を押さえてほしいと思います。

つまり、メディアを使ってはいけないのではありません。ワンオペ育児で大変な思いをしている親御さんにとって、子どもの関心を集めてくれるスマホやタブレットは心強い味方でしょう。親御さん自身が参ってしまうことがないように、頼るシーンがあっても構わないと私は思います。

ただし、メディアを使用するときはお子さんだけで使わせないように注意し、双方向性のものを選んだり、一緒に使うことを心がける。内容をお子さんに説明してあげたり、実体験と関連づけるような声かけを行って「親子の会話」につなげることは、メディア接触の時間をより有意義にする助けになるかもしれません。

忘れてはならないのは、現状、IT分野の発展のスピードに臨床研究が追いついていない可能性があることです。日本小児神経学会が慎重な姿勢を維持しているように、メディアが子どもたちにどのような影響を与えているのか、様々な研究成果は出てきているものの、確たることはまだわかっていないというのが実際のところでしょう。

しかし、いくら社会の変化のスピードが速くなったとしても、ヒトの生き物としての特性は大きく変わるものではありません。乳幼児期のお子さんの発達・成長に関しては、親御さんとのコミュニケーションを取り入れるのが重要というのが、小児科医としての私の見解です。

※1 Pediatrics. 2016 Nov;138(5):e20162591.
※2 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK541170/pdf/Bookshelf_NBK541170.pdf
※3 Am Behav Sci.2005;48(5):505–522.
※4 BMC Public Health. 2017 Nov 20;17(Suppl 5):868.
※5 JAMA Pediatr. 2020 Jul 1;174(7):665-675.
※6 Technology and Interactive Media as Tools in Early Childhood Programs Serving Children from Birth through Age 8
※7 Child Dev.2014;85(3):956–970.
※8 Child Dev.2016;87(2):405–413.

関連記事

PICKUP PR

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます