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“ゴールデン”抜擢、髭男爵山田ルイ53世の不安…県出身タレント信仰

“ゴールデン”でレギュラー番組を持った髭男爵・山田ルイ53世=本人提供
“ゴールデン”でレギュラー番組を持った髭男爵・山田ルイ53世=本人提供

目次

世間的には既に忘れ去られたかもしれぬが、筆者にとって金曜日はいまだプレミアム。
名前を付けるなら、“やまなし・フライデー”だろうか。
といっても、
「おーい!パパ特製のほうとうが出来たぞー!?温かいうちに食べなさーい!」
と妻子に故郷の味を振る舞い、信玄公を称える日……ではない。
当方、生まれは兵庫。
山梨は地元でもないし、ついでに白状するとほうとうは苦手だ。
“やまなし・フライデー”とは文字通り、「金曜は山梨で仕事」というスケジュール上の話である。

     ◇

髭男爵の山田ルイ53世さんのコラム。地元テレビで重宝される“県ゆかり”のタレントについてつづります。

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そこまで県々言われても……

毎週甲府をウロつくようになったのは、

「ラジオやりませんか!?」

とかれこれ10年ほど前、山梨放送(YBS)から舞い込んだオファーが発端。

このラジオ、昼の3時間半の生放送で、月~金の帯番組なのだが、曜日ごとにパーソナリティーが異なる。

筆者は長らく木曜担当だったが、今年の春、同じくYBS制作の情報バラエティー、『やまなし調ベラーズ ててて!TV』(金曜夜7時~)のMCを仰せつかったのを機に金曜へと鞍替え……かくして、週に1度山梨に入り浸るようになった。

ローカルとは言え、正真正銘の“ゴールデン”。

しがない一発屋には、身に余る光栄である。

……有難い。

日がな一日、地方でお世話になっていると、

「県勢の○○高校が1回戦に臨みます!」

「やりました、○○選手!県勢が優勝です!」

といった具合に、“県勢(けんぜい)”という言葉をやたらと耳にする。

今夏、いつも以上に飛び交っていたのは、『東京2020 オリンピック・パラリンピック』が開催されていたからだろうが、それにしても……。

これが都道府県の代表が覇を競う、インターハイや高校野球であれば、県勢の連呼も頷ける。

しかし、オリパラの選手はあくまで国の代表。

そこまで喧々、もとい、県々言われてもと思わぬでもない。

ちなみに地元紙、山梨日日新聞を眺めてみると、(県勢に近い概念であろう)“山梨のオリンピアン”を、「夏季、山梨県出身か、五輪出場時に県内選手」と定義している。

レスリングフリースタイル65キロ級金メダリスト、乙黒拓斗選手は笛吹市出身。

卓球女子団体で銀メダルに輝いた平野美宇選手は生まれこそ静岡だが、2歳からずっと山梨だそうな。

“県内選手”は、実業団や大学など山梨を拠点に活動するアスリートを指すものだとして、問われているのは過去もしくは現在の居住歴であろう。

そこで、YBSの社員数名をつかまえ、

「どれくらい山梨で暮らせば県勢と呼べるのか?」

とアンケートを試みたところ、

「高校を卒業するまで!」

というものもいれば、

「いや、幼稚園までで十分でしょ!」

との意見もあり、まあ色々。

随分いい加減だなぁと首を傾げる向きもあるかもしれぬが、むしろコッチの間口の広い“県勢”の方が筆者には馴染み深かった。

なにがなんでも山梨と結びつける

先述のラジオ番組でもしかり。

アスリートに限らず、ミュージシャンや芸人、何かの専門家をスタジオにお招きすると、もう1人のパーソナリティーである局アナ氏がゲストのプロフィル紹介を始めるのだが、

「実は○○さん、山梨とは大変ご縁がありまして!」

と盛大に煽(あお)った割に、

「親御さんの都合で、中学の2年間を山梨で!」

「小学生の頃、2~3か月ほど山梨に!」

「学生時代、河口湖で遊んだ!」

と肝心の“アリバイ”が薄口で拍子抜け……なんてことが珍しくない。

河口湖云々に至っては、ただの言いがかりだが、にもかかわらず、

「え~!スゴーい!」

とスタッフ一堂お祭り騒ぎ。

挙句の果てに、「山梨が育(はぐく)んだ!」、「もう山梨県民ですね!」などと熱い眼差しを向けるものだから、ゲストも苦笑いである。

もはや“出身地ロンダリング”と言っても過言ではない。

傍で黙って聞いている筆者も、いわゆる、「有名になると親戚が増える」の親戚側に与しているようで、みっともないというか恥ずかしい。

せめてもの抵抗に、

「いや、ちょっと強引でしょ!?」

とツッコんでみるも藪蛇。

ブースの外のディレクターに、

(余計なことを……)

と睨まれるのがオチだ。

こうなるともう、“山梨の人ってフレンドリーだよね!”とホッコリして済む話でもない。

その場に漂うのは、

「なにがなんでも山梨と結びつけてみせる!」

と言わんばかりの執念。

マッチングアプリも真っ青である。

なにがなんでも山梨と結びつけようとする地元局に苦言を呈することも……=本人提供
なにがなんでも山梨と結びつけようとする地元局に苦言を呈することも……=本人提供

“売れっ子”に凱旋されたら、ひとたまりもない

筆者の経験上、こうしたローカル局の姿勢が最も顕著になるのが自社制作番組、特にテレビのレギュラー出演者の人選。

ただし、ここまで散々述べてきた“誰でも県民だよ!”といったある種の歓迎ムードは鳴りを潜め、打って変わって狭き門と化す。

「やっぱり出身者、その次は“住みます芸人”でしょうか……」

と語ってくれたのは、再び登場、YBS社員のお1人。

筆者の中で長年燻ってきた、

「ローカル局のキャスティングの優先順位って?」

との疑問に答えていただいたものだ。

一応補足しておくと“住みます芸人”とは、大手事務所のプロジェクトで、実際に移住し地域密着で活動する芸人達のことである。

通常、大阪、名古屋、福岡などの大都市圏を除くローカル局にとって、全国放送で活躍する“売れっ子”の招聘は、ギャラやスケジュールの面で折り合えぬ点が多く容易ではない。

そもそも、自社のアナウンサーで事足りるじゃないかと、タレント起用に消極的な空気も根強くある。

事実、ローカル局には優秀かつ個性豊かな人材が揃っているのでごもっともなのだが、

「それでもとなると、元県民とかの方が(企画を)通しやすい……」(同社員)

と“出身”や“在住”の人間に追い風が吹く内情があるようだ。

勿論、能力や将来性も考慮した上での適切な抜擢。

とはいえ、ブレイク前の若手にとって、“地元”が大きなアドバンテージになるのもまた確かである。

諸々踏まえると、山梨と無縁だった中年芸人、即ち、筆者の“地方におけるキャリア形成”は大健闘の部類。

「男爵(筆者のこと)は特殊なケースですねー……」

とYBSスタッフの面々も口を揃える通りである。

ただ一方で、“ラジオで週1の甲府詣で”というスタンプを10年近く貯め続けてようやくテレビ……と斜に構えた見方が出来なくもない。

自分の実力不足を棚に上げてなんだが、どれほど頑固な陶芸の巨匠でも、もうちょっと早く弟子入りを許してくれるだろう。

まあ、拗ねてみたところでしょうがない。

ローカル局は、観光地に似ている。

一期一会の客としてもてなされるのと、ホテルの従業員として働くのでは、採用基準も変わって当然。

土地勘のある人間の方が都合も良いし、何より……愛されるのだ。

数年前、家族旅行で滞在した山梨のホテルでのこと。

なんとなくチャンネルを合わせていたYBSテレビに、

(……!?)

と言葉を失ったのは、OA中のローカル番組で突如流れた、

「速報!○○がM-1準決勝進出!」

というテロップのせいだった。

○○とは筆者もよく知る、非常に有望ではあるが全国的な知名度となると少々心許ないお笑いコンビ。

言うまでもなく、メンバーの内1人は生まれも育ちも山梨である。

いや、喜ばしいことには違いないが、

「××町出身の△△関、本日の取組結果は……」

と郷土力士の活躍を伝えるニュースよろしく、漫才の賞レースの途中経過、それも、決勝ではなく準決勝をテレビの“速報”で目にしたのは初めて。

出身者に対する溢れる愛情に、

(こりゃ、勝てんわ……)

とため息を吐いた。

今、筆者の胸に去来するのは、未来への不安。

「地元を盛り上げるためなら!」

と山梨出身の“売れっ子”に凱旋されたが最後、「週一県民」の立場などひとたまりもない。

全く情けないが、彼ら・彼女らの全国区での活躍が未来永劫続けと祈るばかりである。

そして、“報われぬ恋”のようなローカル局との関係性に、思いを馳せるのだ。

いや、所詮は仕事。

需要がある内は精一杯やるだけだと、割り切るべきかもしれぬ。

しかし、東京のスーパーの棚に並ぶブドウに、

(いや、高っ!こんな“玉張り”でこのお値段!?山梨ならもっと……)

と憤慨したり、誇らしく思ったりするくらいには、“県勢”の自覚が芽生えつつある身としては……少々寂しいのである。

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