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連載

#5 ミッドウェー海戦の記憶

「事実を正確に後世へ」ミッドウェー海戦を生き延びた100歳の願い

横須賀海兵団時代の写真を手に「戦争は二度と繰り返してはならない」と語る須藤文彦さん=2021年9月、岩手県一関市、三浦英之撮影
横須賀海兵団時代の写真を手に「戦争は二度と繰り返してはならない」と語る須藤文彦さん=2021年9月、岩手県一関市、三浦英之撮影

目次

ミッドウェー海戦の記憶
太平洋戦争の開戦となった真珠湾攻撃から間もなく80年。その直後に出征し、日本が敗戦へと向かう転換点となったミッドウェー海戦で主力空母「赤城」に乗艦した元海軍整備兵が岩手県一関市で暮らしている。須藤文彦さん、100歳。彼の証言から、戦争の実態と、現代の日本につながる共通点を探る。連載第5回は「特攻兵と現代日本」。(朝日新聞一関支局・三浦英之)
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海軍整備兵時代の写真を手に「これが私の青春でした」と語る須藤文彦さん=2021年9月、岩手県一関市、三浦英之撮影
海軍整備兵時代の写真を手に「これが私の青春でした」と語る須藤文彦さん=2021年9月、岩手県一関市、三浦英之撮影

ソロモン海戦を経て筑波へ

ミッドウェー海戦を生き延びた須藤さんは1942年8月、今度は空母「翔鶴」の整備兵としてソロモン海戦へと送られた。

激しい戦闘を経て日本に戻ると、神奈川県の相模野海軍航空隊で飛行機整備の専門教育を受け、茨城県の筑波海軍航空隊へと配属された。44年11月には下士官になり、部下も増えた。

敗戦の色が濃くなり、筑波が特攻機の訓練基地になると、「この戦争は日本が負ける。どういう負け方をするんだろうか」などと部下に漏らすようになった。

「後は頼む」と特攻機に乗った青年

特攻機の整備を任され、出撃を間近に控えた搭乗者が、須藤さんを直接訪ねて来ることもあった。早稲田大学出身の青年で「須藤の整備した飛行機で沖縄に突っ込む。途中で異常が出ないよう、気をつけて整備してくれ」と何度も何度も頼まれた。

出撃の朝、操縦席に桜の花を飾り、数機の特攻機を並べて暖機運転をしていると、青年が須藤さんに「後は頼む」と言い残し、青白い顔で特攻機へ乗り込んで南の空へ消えていった。

やがて東京も空襲され、筑波上空にも敵機が襲来するようになった。米軍が投下するのは爆弾ではなく、「無駄な抵抗はやめて降伏しろ」と書かれた宣伝ビラだった。

そして、広島と長崎に原爆が落とされ、8月15日に戦争が終わった。

8月下旬、1千円の給料と、ポリ袋に入った少量の米を渡され、大船渡線で故郷に戻った。

やはり大事なのは教育

実家の養蚕を継ぎ、4人の子どもに恵まれた。今年100歳を迎えた。

「誰もが『二度と戦争を繰り返してはいけない』と言う。でも、『そのために何をすべきか』ということについては、あまり議論がないのではないか」

横須賀海兵団時代の写真を手に「戦争は二度と繰り返してはならない」と語る須藤文彦さん=2021年9月、岩手県一関市、三浦英之撮影
横須賀海兵団時代の写真を手に「戦争は二度と繰り返してはならない」と語る須藤文彦さん=2021年9月、岩手県一関市、三浦英之撮影

幼い頃から、ケンカや争いが好きな性分ではなかった。それでも、あの時代に「戦争は良くない」と口にする勇気はなかった。全体主義的な世相の中で、誰もが国家を優先し、「命は鳥の羽根より軽い」と教えられ、戦争に臨んだ。

「やはり大事なのは教育だと思う。あの戦争によって日本に生じた被害だけでなく、日本が他国にもたらした被害を含めて、事実を正確に後世へと引き継ぐ。そうすることでしか、たぶん戦争は防げない」

2011年には東日本大震災が発生し、原発事故によって放出された放射性物質が周囲の野山に降り注いだ。地域の名産だったシイタケの農家の多くが、廃業に追い込まれた。

そして今、社会が新型コロナウイルスの猛威におびえ、大都市では医療機関に入ることさえできず、少なくない国民が命を落とした。政府に都合の良い内容が報道され、救われる命と、そうでない命が今も確かに存在している。

戦時中との共通点を問われると、須藤さんは首を振って言った。「私にできることは、過去の経験を伝えることだけだ。比較や検証は次の世代に委ねたい」

 

ミッドウェー海戦で主力空母「赤城」に乗艦した100歳の元海軍整備兵、須藤文彦さん。彼の証言から、戦争の実態と、現代の日本につながる共通点を探る「ミッドウェー海戦の記憶」は今回で終了となります。(連載は須藤さんのインタビューや著作「鴻毛の一毛」、防衛研究所の「戦史叢書」などを参考に構成しました)
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