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ももクロの〝ドリフ化〟が止まらない ご長寿グループ目指し邁進
武道館で共演、原点にあったバンドと音楽
今年11月に武道館ライブが開催され、健在ぶりを示したザ・ドリフターズ。88歳でステージに立った高木ブーは、「日本武道館に出演した最高齢アーティスト」としても話題となっている。この記念すべき舞台で共演したのが女性アイドルグループのももいろクローバーZだ。早くからグループとしての目標にドリフの名を挙げており、ダンスや楽曲、イベントなど多くの影響を感じさせる。彼女たちが目指すものは何か? ドリフからSMAPや嵐につながる、年齢を重ねても活動し続けるスタイルについて考える。(ライター・鈴木旭)
ドリフはお笑いにとどまらず、アイドルグループにも影響を与えている。そのうちの1組が、ももいろクローバーZ(以下、ももクロ)だ。現在、百田夏菜子、玉井詩織、佐々木彩夏、高城れにの4人体制だが、元メンバーの有安杏果が脱退する2018年1月までの約7年間を5人の固定メンバーで活動していた。
2011年4月、グループ名に「Z」がついて5人体制になると、以前にも増してメンバーカラーとそれぞれのキャラクター性を押し出し始めた。グループとしての目標や各々の成長を追うといったドキュメント性が強くなり、そのストーリーに魅了されるファンが続出した。
これは当時、人気絶頂にあったAKB48との違いを打ち出すためだったと考えられる。「AKB48選抜総選挙」のようにグループ内競争でファンを沸かせるのではなく、メンバーが一致団結して「NHK紅白歌合戦の出場」や「国立競技場でのライブ」など大きな目標に立ち向かう。AKB48とは逆に、壁を外部に置いたことで、ファンはグループの成功を支えようと、よりいっそう感情移入するようになった。
この時期からももクロは、グループとしての目標に「嵐」や「ドリフ」の名を挙げるようになる。同じ5人グループで、長期にわたる活動を実現しているためだ。
『夢がMORIMORI』(フジテレビ系、1992~1995年終了)でSMAPと共演した芸人・森脇健児に私が直接インタビューしたところ、故・ジャニー喜多川氏が当時の番組スタッフに「SMAPを平成のドリフターズにするんだ」と話しているのを目撃したという。(2021年7月17日に公開された「文春オンライン」の『「自宅にSMAPが勢揃い」「レギュラー12本で移動はヘリ」芸人・森脇健児が明かした“バブル期バラエティ”の栄光と挫折』より)
メンバーの役割分担を押し出したドリフのスタイルは、SMAPから嵐へとバトンタッチされ、ももクロにも影響を与えた。さらにももクロは、プロレスや少年漫画に見られるような“エピソードを回収するストーリー性”も取り入れ、アイドルグループのエンタメ性を高めた。
影響を感じさせるのは役割分担だけではない。実際にももクロは、ドリフのコントにも挑戦している。
2012年、親子連れのみを対象としたライブイベント「ももクロの子供祭りだョ!全員集合」を開催。この中で、『8時だョ!全員集合』(TBS系)をベースとしたコント、体操コーナー、ヒゲダンスなどが披露されている。ヒゲダンスのコーナーでは、本家である加藤茶もスペシャルゲストとして登場し会場を沸かせた。
そもそも街宣カーでメンバー自らグループの活動をPRしたり、プロレスのイベントに参戦したりと、アイドルらしからぬ動きが多かったももクロ。時折行われるライブ配信で、百田や高城がこりゃめでてーなやデッカチャンといった芸人のギャグを口にしていたことからも、幼少期から『エンタの神様』(日本テレビ系)を見て育ったことがわかる。そんな彼女たちには、変顔や大股開きも平然とやってのける柔軟さがあった。
国民的アイドルを目指す中で、老若男女を楽しませようとする観点から『全員集合』にたどり着いたと考えられる。
前述のイベント「子供祭り」で、ドリフ風の衣装を身にまとって披露された曲が「もリフだョ! 全員集合」だ。「チョットだけよ! 全員集合!!」「ドリフのズンドコ節」といった楽曲をつなぎ合わせたもので、2012年9月にリリースされたシングル曲「ニッポン笑顔百景」のB面に“もリフ” 名義で収録されている。
A面の「ニッポン笑顔百景」はアニメ「じょしらく」のエンディングテーマとして落語をモチーフに制作されているが、「もリフだョ! 全員集合」は自主的なイベントの中で生まれたものだ。著作権が切れた関係で制作しやすいという条件も後押しとなり、このあたりからドリフのメンバーと接点を持ち始めた印象が強い。
興味深いのは、それより以前の2011年に発売されたシングル曲「Chai Maxx」(「ミライボウル」との両A面)でも、ドリフの踊り(ヒゲダンス、「ドリフのビバノン音頭」の振りなど)を取り入れたダンスを披露していることだ。それまでの女性グループにない面白さ、幅広い年齢層をターゲットとする中でドリフの要素を必要としたのだろう。
「子供祭り」のほか、ももクロはドリフのメンバーとの共演も少なくない。グループでは『志村けんのバカ殿様』(フジテレビ系)や『天才!志村どうぶつ園』(日本テレビ系)に何度も顔を見せ、メンバーそれぞれが別の番組で接点を持っている。
リーダーの百田は2015年に『24時間テレビ』(同)の企画「志村けんと知念侑李がコント劇団結成!聴覚障がいの子ども達に笑顔をつなぐ」に参加。同年、『たけしの“これがホントのニッポン芸能史”』(NHK BSプレミアム)でも志村けんと共演している。
高城は、同じ「たかぎ」ということもあり高木ブーとゆかりが深い。2017年のソロコンサートでゲストとして高木を招いたり、ニコニコ生放送のトーク番組『高木ブー家を覗いてみよう』では逆に自宅を訪問したりもしている。
こうしたつながりの中で、今年7月にネット配信番組『もリフのじかん』(ニコニコ生放送)がスタート。11月にはドリフがビートルズ来日コンサートの前座を務めて以来、55年ぶりの武道館ライブで共演を果たしている。いかりや長介の逝去後ではあるが、ここまでドリフと近しい関係にあるアイドルも珍しい。
志村は著書「変なおじさん〈完全版〉」(新潮文庫)の中で、「メンバーが5人いると、2人でコンビもできるし、3人で組むこともできて、コントのバリエーションが豊富になる。だからおもしろいんじゃないだろうか。今思うと、やっぱり僕の笑いの原点はドリフのパターンだったのだ」と書いている。
『全員集合』も『志村けんのだいじょうぶだぁ』(フジテレビ系)も、結果的に主要メンバーは5人だった。ジャニー喜多川氏は、音楽とお笑いの“ショーアップ”という観点でドリフを見ていたと考えられるが、5人グループという特性もSMAPの長期的な活動に結びついたのかもしれない。SMAPは2016年12月に解散するまで、実に28年間にわたって活躍し続けた。
こうしたアイドルグループのひな型はドリフにある。そのドリフが目指していたのは、年齢を重ねても活動し続ける老舗バンド「ローリング・ストーンズ」のようなバンドマンだったのではないだろうか。「もリフのじかん」の武道館ライブでは、今もなおドラムやギター、ウクレレを演奏する3人の姿があった。やはり根底には、バンドや音楽があると感じてならない。
「もリフのじかん」で共演したももクロは、4人体制となった現在も長期的な活動を目指して邁進中だ。年末の主催イベント『ももいろ歌合戦』や『しおこうじ玉井詩織×坂崎幸之助のももいろフォーク村NEXT』(フジテレビNEXT)といった番組では様々なアーティストが顔を見せる。『全員集合』がそうだったように、こうした風通しのいい交流を積み重ね、数十年続く女性アイドルグループの第一人者となることに期待したい。
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