連載
#7 #コミュ力社会がしんどい
「元から人と違ったんだ」漫画家が発達障害をあっさり受け入れた理由
「性格だから」と諦めず得られた安心
私は、発達障害なのではないか――。ゆめのさんは長らく、疑問に思ってきました。
取り組もうと思っていた作業に集中できず、ついネットサーフィンをしてしまう。出先にスマホを持ち出し忘れる。漢字を書くことや、人付き合いへの苦手意識が強い……。
そんな特性が折り重なり、周囲になじめず、学生時代に不登校を体験するなどの困難を経てきたのです。
そこで発達障害の情報を調べてみると、自分の性格や振る舞いが、当事者の状態に関する説明に、かなりの程度当てはまることに気付きました。
「だけど、ちょっとミスが多くて、コミュ力なくて、勉強できない人なだけかも」。確信が持てない、ゆめのさん。しかし発達障害の専門病院は数が限られています。どこも受診希望者が大挙して訪れ、なかなか予約できそうにありません。
とはいえ、メンタルクリニックにかかることにも、抵抗感がありました。過去にうつ病を疑い相談した医師から、こう言い放たれたからです。
「あなたはうつじゃない。うつは頑張っている人がなるものなの」。その後、心の不調に拍車がかかってしまったのでした。
ところが、ある時期から、漠然とした不安や気分の落ち込みに襲われるように。ついに耐えかねて、以前とは別のクリニックに足を運びます。そして「不安障害」「うつ状態」と診断されました。
投薬治療を続け、少しずつ不安が和らいできた頃のことです。ゆめのさんは、発達障害の有無を調べたい意向を、主治医に打ち明けます。すると、ある専門病院宛てに、紹介状を書いてもらえることになりました。
受診当日。1時間ほどにわたり、生育歴や病歴、日々の悩みなどについて語りました。「診断は今度、精密検査を受けてからかな」。そう予想していたゆめのさんに、医師は意外な反応を示したのです。
「これは……ADHD(注意欠如多動性障害)ですね」
何と、自分の状態を説明しただけで、発達障害であると見抜かれたのでした。「あの……確定のやつですか?」「まぁ、間違いないでしょうね」。ゆめのさんは、急展開に驚きつつも、医師の言葉を受け止めます。
加えて、ASD(自閉スペクトラム症)でもあると判明。不思議と、衝撃はありませんでした。「人と同じようにできなくて悩んでいたけど、元から違ったんだ」。病院からの帰り道、電車に揺られながら、ゆめのさんはひとり得心します。
世界の見え方が、ちょっと変わった気がした――。心の中に、じんわりと安堵感が広がりました。
ゆめのさんはこれまで、対人コミュニケーションを中心として、日常での様々な行為に不安を抱いてきました。しかし「これが自分の性格だから」と、ストレスをため込むことしかできず、生きづらさは強まる一方だったそうです。
メンタルクリニックに通い、主治医から客観的な診断を下してもらえたことが、こうした状況に風穴を開けました。医療機関に、望ましい形でつながる。その大切さを実感し、医師への不信感を払拭するきっかけにもなったといいます。
この経験について、ゆめのさんは、次のように語りました。
「私自身、以前行ったメンタルクリニックが合わず、病院に対してずっと苦手意識を持っていました。病院、先生とも相性があるので、自分に合った病院に巡り合うことも、適切な治療を受けるために大切なことかもしれません」
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