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「ババアの罠だ!」落ちる老夫婦 シソンヌが昇華させたドリフの笑い

お笑いコンビ「シソンヌ」の長谷川忍(左)とじろう
お笑いコンビ「シソンヌ」の長谷川忍(左)とじろう 出典: 朝日新聞

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今年12月に『志村けんとドリフの大爆笑物語』(フジテレビ系)の放送が決定し、改めて脚光を浴びているザ・ドリフターズと志村けん。今活躍する芸人の中で、もっともその遺伝子を受け継いでいるのがコント師・シソンヌではないだろうか。コント演出、強烈でありながら身近なキャラクター、下ネタを扱う芸風など、それぞれの共通点を洗い出しながら、“演劇的ドリフ”としてのシソンヌの魅力に迫る。(ライター・鈴木旭)

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コント演出にドリフオマージュ

シティボーイズにあこがれて俳優を志したじろうだが、その一方でツイッターに“僕のスーパーアイドル”とつづるのが志村けんだ。実際、シソンヌのコントからは志村やザ・ドリフターズの影響が見て取れる。

たとえば「ババアの罠」は、役所の人間が老婆の自宅を訪れる中で巻き起こるサスペンス風コントだ。長谷川忍が鍵が掛かって入れないはずの家屋に閉じ込められ、じろうがアタフタと動くのだが「わかったぞ、ババアの罠だ!」と叫ぶばかり。この過程で衝撃音とともに吊るされた浴衣、人だま、白骨化した老夫婦が落ちて来るという演出がなされている。

これは『8時だよ全員集合』(TBS系)の定番コント、志村が名探偵・金田一耕助に扮する“金田一”シリーズをオマージュしたものだろう。ドリフは、泥棒コントや探検コントなど、お化け屋敷を思わせる演出も特徴的だった。また1人だけ取り残され、ホラー演出で笑いをとることが多くなったのは志村加入後の特徴でもある。

そのほか、シソンヌの「閉めたのに」では、「客から店のドアを開けるよう促された店主が、そのまま外に出て行ってしまう」といったやり取りで笑わせる。こうしたちょっとした部分からもドリフの影響が垣間見える。

本物の消え物を使うコント

現在、コントの消え物(芸能・映像分野の専門用語で、すぐに消費されてしまう食品や洗剤といった小道具を指す)はマイム、つまり、最少の小道具で演じられるのが一般的だ。予算的にもスマートな見せ方をする意味でも、また見る者の想像力を促す部分でも、それが合理的だったと考えられる。

そんな中、シソンヌは本物を使うことが多い。前述の「閉めたのに」でもカレーライス(実際にはミートソース)を口にしながら演じているし、「名店への道」でもしっかりと小鉢のカブ(実際にはおでんの大根)を食している。コントの世界に、よりリアリティーを持たせるためだろう。

こうした点でも、ドリフや志村の影響が脳裏を過ぎる。いかりや長介は、膨大な予算を掛けてセットを組み、しっかりとネタを練り上げる本物志向の人だった。志村もこれを引き継ぎ、たとえば“屋台崩し”を行う一軒家の骨組みはほとんど本物だったそうだ。さらには、机の引き出しの中身、ゴミ箱の中の生ゴミといった見えない部分まで用意する徹底ぶりだった。ここまで来ると、ほとんど狂気である。

舞台装置や消え物は、コントを生み出す側のこだわりが反映されやすい。その場の匂いや空気感まで詰め込んだものが、志村やいかりやの思い描くコントだったのだろう。

「生活圏で見た」人をキャラ化

身近な人物をキャラクター化するスタンスも志村と同じだ。たとえば軍艦のようにせり上がった結い髪をした“ひとみばあさん”は、新宿三丁目にあった割烹居酒屋の女将がモデルだ。また、“デシ男”は極度の汗かきだった付き人の1人を参考にしたものだという。(乾き亭げそ太郎の著書『我が師・志村けん 僕が「笑いの王様」から学んだこと』(集英社インターナショナル)より)

シソンヌのじろうも、実生活で目に入った人物をモチーフとしてキャラクターを生み出すようだ。2017年11月9日に公開された女性向けファッション雑誌「Oggi」ウェブ版のインタビューの中で2人はこう語っている。

「自分の生活圏内で見たことを、とにかくケータイに箇条書きでメモしていますね」(じろう)
「例えば、『ラーメン屋に来るやばいおじさん』のネタ。あれは馬券場でそういうおじさんを見かけて作ったネタです。世間的には一見“やばいおじさん”なんだけど、『こういう人もいるよ、怖がる必要はないよ』と思うんです」(長谷川)
「あと、そういう“やばいおじさん”がどんなことを考えているのかを想像するのが好きで、それがネタになっていますね」(じろう)

志村は著書「変なおじさん〈完全版〉」(新潮文庫)の中で、自身の演じるキャラクターを「いつも本物らしく見えることを心がけてる」と書いている。強烈でありながら、どこか身近な雰囲気を放つのは志村もじろうも同じだ。それは、実在する人物から少しだけデフォルメするスタンスの近さから来るものなのだろう。

志村けん『変なおじさん〈完全版〉』 (新潮文庫)』

下ネタを堂々とやってのける

ドリフや志村と言えば、下ネタの笑いは欠かせない。『全員集合』では、加藤茶の「ぐるっと回ってうんこチンチン!」「チョットだけヨ。アンタも好きネェ」といったフレーズ、志村の「東村山音頭」では白鳥の首がフリフリするバレリーナ姿で笑わせた。

その後も志村は、“変なおじさん”“いいよなおじさん”といったちょっとエッチで怪しげな名物キャラクターを生み出している。PTAなど各所からクレームもあっただろうが、いずれのコントにも特有の“かわいげ”があった。長く愛され続けたのは、その点が大きいだろう。

時代も変わり、下ネタを扱うコントが少なくなった。そんな状況下で、さらりとやってのけているのがシソンヌだ。『有吉の壁』(日本テレビ系)で見せた「こうへいくんとゴンちゃん」では、ランニングの小学生が友だちのゴリラを元気づけるため、肩の裏あたりに股間を当て「ち~んちょん」とやって笑わせる。

また、2013年の単独ライブで披露した「製作発表会2013」は、スティーブ・ジョブズを思わせるいでたちのじろうが、iPadに変わるタブレッド“パイパッド”についてひたすら説明するコントだ。パイパッドとは、イメージ通り女性の胸の部分をつけたタブレッドである。じろうは流暢な英語で語り、女性ナレーターが日本語に訳していく。本物さながらの演出だからこそ、下ネタのバカバカしさが浮き上がり余計に笑ってしまう構造だ。

見せ方こそ違う部分もあるが、下ネタをメインに据え、堂々とやってのけるところに似たものを感じる。

もっともドリフを昇華したコンビ

志村とシソンヌは、私が知る限りテレビで3回共演している。うち2回は『ドリーム東西ネタ合戦』(TBS系)の審査員とネタを披露する立場で、ほとんど接することもなかっただろう。ただ残り1回は『志村けんのだいじょうぶだぁSP』(フジテレビ系)でのコント共演だ。この件について、じろうはこう振り返っている。

「僕らの持ちネタで、自転車屋にパンクを直しにきた少年(のぼる)が店員の長谷川さんに執拗に『おつんつん見すて』とせがむ『自転車屋』というコントがある。志村さんはそれをどこかで見て下さっていたらしく、もしよかったら、と僕らに声をかけて下さったらしい。(中略)気が付いたとき、コントは既に撮り終わっていた。信じられないかもしれないが、記憶が全くないのだ。僕はのぼるになりきっていた。いや、僕じゃない、のぼるがそこに居たんだと思う。志村さんの姿は既にその場にはなかった」(2020年4月30日に公開された「お笑いナタリー」の『シソンヌじろう「志村さんとコントをした日(妄想)」』より)

ちなみにこのコントは、いいよなおじさんがサドル裏から顔を出し、「おつんつんは、いいよな~」と言い放つのがオチだ。それだけ想像すると笑ってしまうが、やはり2人には共鳴するものがあったのだろう。

『有吉の壁』の中でシソンヌは、何度もドリフや志村をモチーフにして笑わせている。じろうがバカ殿様、長谷川が家老に扮していたこともあるし、じろうが『天才!志村どうぶつ園』(日本テレビ系)の志村園長、長谷川が仲本工事の体操着姿で登場した放送回もあった。

ある時期までドリフは古典とされ、若手はその要素を取り込まない(あるいは取り込めない)という空気感があった。ただ、ルーツをひもとけばチャールズ・チャプリンにも通じる万国共通の笑いだ。シソンヌはそれを演劇的な枠に落とし込み、うまく芝居寄りの笑いへと昇華しているように思う。

じろうが青森県出身で、キャラクターに東北訛りが入ったりと志村を彷彿とさせる点も多い。いまだシソンヌを中心としたコント番組はないが、もし始まるのなら今もっともドリフや志村の遺伝子を継ぐ内容になると期待している。

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