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グルメ

3度の廃業を経験したラーメン店主、コロナ禍で決断した餃子自販機

商売よりも大事な〝お店の守り方〟

「中華料理 麺飯坊 無双」のオーナー高橋勝雄さん
「中華料理 麺飯坊 無双」のオーナー高橋勝雄さん

目次

新型コロナウイルスによって打撃を受けた飲食業界では、困難を乗り越えるため色々なアイデアが生まれました。中でも注目されているのが人と接触しないですむ自動販売機です。調布市国領の人気店「中華料理 麺飯坊 無双」がプロデュースした「餃子王(ぎょうざきんぐ)」でも、 冷凍餃子の自動販売機を導入しました。これまで3度の廃業を経験した店主がコロナ禍に考えた「お店の守り方」について聞きました。(ライター・安倍季実子)

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15歳で帰化、17歳から修業

話を聞いたのは、「中華料理 麺飯坊 無双」のオーナー高橋勝雄さんです。

コロナの大打撃を受けて、冷凍餃子の自動販売機を導入した高橋さん。そこには、高橋さんの半生が大きく影響していました。

母親が残留孤児だった高橋さんは中国のハルピンで生まれました。1985年に家族で日本に来日して帰化します。この時、高橋さんは15歳。夜間学校に通いながら日本語を学び、17歳になると都内の有名中国料理店で住み込みで働きはじめました。当時、流行していた広東料理を学んだ後、別のお店で北京料理を学び、25歳で独立します。

しかし、経営知識不足のために、お店を2軒続けて閉店させてしまいました。そこで、高橋さんは1度、ハルピンに戻ります。

「現地で和風食堂を立ち上げるとすぐに話題のお店となり、売り上げもまずまずでした。でも、半年ほど経った頃に反日ブームが起きたんです。私のお店も大きな被害を受けたので、再び日本に戻り、知り合いのお店で副料理長として働きはじめました」

若い頃から修業をしていたため、料理の腕には自信がありました。しかし、料理を作ることとお店を経営することは別物です。3度の失敗を経て、経営の重要さを実感した高橋さんは、勉強に励みました。

そして2010年の秋。これが最後のチャンスだと思い、慣れ親しんだ地元の調布市国領で、お姉さんと一緒に「無双」をオープンしました。

コロナの大打撃を受けて導入した冷凍餃子の自動販売機
コロナの大打撃を受けて導入した冷凍餃子の自動販売機

東日本大震災で気づいた原点

お店のオープンから数カ月後の2011年3月、東日本大震災が起きます。当時、国領駅のまわりには大手企業のオフィスがあったため、順調に売り上げを伸ばしていました。しかし、震災の影響で移転したり、規模が縮小したりする会社が相次ぎ、高橋さんの店も一気に業績が落ちてしまいます。

「お店のために、従業員のために、お客さんのために、今自分は何をするべきなのかを色々と考えました」

その結果、自分の原点に「人のために何かをしたい」という思いがあることに気づいたといいます。

高橋さんは手書きで「お困りごとはありませんか? お役に立てることがあれば相談してください」とだけ書いたチラシを近所にポスティングしました。

すると、「感動した」「うれしかった」「お店は大丈夫?」という反応とともに、お客さんが心配してお店に来てくれるようになったそうです。

「お客さんに選ばれる理由は必ずあると実感しました」

その後、経営は右肩上がりを続けていきました。コロナ前の2019年度の1日の平均来客数は約200名、売り上げは約25万円、年商は7800万円にまでなったそうです。

コロナの中、喜んでもらうには?

コロナが発生した2020年の前半は、そんなに大きな影響はなかったという高橋さん。本格的に影響を受けたのは、5月以降です。

「2020年の1日平均来客数は約100名、売り上げは約18万にまで下がりました。でもそれはまだマシな方です。2021年度は、年始から時短営業やまん延防止対策などの制限が半年以上続いたので、来店数や売り上げはさらに下がっていき、1日平均来客数は70~80名、売り上げは10万円になってしまいました」

東日本大震災以上のピンチに立たされた高橋さんは、再び何をするべきなのかを色々と考えました。そして、目を付けたのは全国的に広がっていた家で食事を楽しむ「中食需要」です。同じ頃、ネットニュースで無人販売の記事を見て、持ち帰りをメインとしたお店の出店を決めました。

「テイクアウト商品は、うちの強みを生かしたメニューがいいと考えたのですが、なかなか決まらなかったんです。そんな時に、常連さんから『餃子が美味しいんだから、餃子にしたらいいじゃない』と言われました。僕の故郷のハルピンでは、お正月などのめでたい日に水餃子を食べる風習があります。餃子は、僕の大事なルーツでもあり、大きな強みでもありました」

テイクアウト商品が餃子に決まると、「無双」では売っていない、ニンニクあり、ニンニクなし、水餃子の3種類を考案しました。

「テイクアウト専用の3種類を作ったのは、『無双』とのシナジー効果を期待してのことです。もし、テイクアウト専門店の餃子を食べておいしいと思ったら、『無双』の餃子も食べてみたいと思うようになるかもしれません。そして、どうせなら24時間販売ができる自動販売機も導入しようと考えました」

冷凍餃子のテイクアウト専門店「餃子王(キング)」、手前には自動販売機がある
冷凍餃子のテイクアウト専門店「餃子王(キング)」、手前には自動販売機がある

突き詰めた「自販機で売る意味」

東京での導入は、おそらく初だという冷凍餃子の自動販売機。考えついたのは、今年の2月中頃だったといいます。埼玉の販売業者に見学に行き、色々なタイプを実際に見て、今の機種を選びました。

「うちで使っている自動販売機の本体は、150万円くらいでした。代理店の人がいうには、少しずつ導入する飲食店が増えてきたそうで、今では納品までに3カ月以上はかかるそうです。他にかかるコストとしては毎月の維持費がありますが、電気代や広告費くらいです。メリットは24時間販売ができることと、人件費が抑えられることですね。初期投資がかかったとしても、トータルで考えたら導入する価値は十分あると思います」

「無双」とテイクアウト専門店の「餃子王」とのシナジー効果を期待したように、テイクアウト専門店と自動販売機とのシナジー効果も期待したといいます。

「『餃子王』は、店舗の後ろ半分が工房になっていて、常に2名のスタッフが餃子を作っています。前半分は無人販売スペースになっていて、冷凍餃子のほかに、おつまみ的な一品も販売しています。自動販売機で冷凍餃子を購入された方が『餃子王』に来店されて、ほかの一品も一緒に購入していただけると嬉しいです」

冷凍餃子の他に豚足などの一品も販売している
冷凍餃子の他に豚足などの一品も販売している

「餃子王」の自動販売機は、国領駅と調布駅の近くに設置されていますが、10月末には柴崎駅にも新しく設置しました。ちなみに、調布駅と柴崎駅の自動販売機は、もつやきの名店「い志井」とのコラボです。

「い志井さんとは元々知り合いで、お互いのお店に行き来する仲でした。去年は、『Go To Eat』がスタートするよりも前に『Go To Eat in国領』というのを一緒に始めました。自動販売機を出す時に『い志井さんのモツも一緒に出しませんか?』と相談したら、快く了解していただけました。反対に、い志井さんも自社で自動販売機を購入されて、『調布駅の方に設置するんで、無双さんの冷凍餃子も一緒に出しませんか』と言ってくださったんです」

自動販売機内に入るパッケージ内で、冷凍やレトルトなどの密封状態のまま保存ができるものであれば、どんな料理でも売れるのが自動販売機です。たくさんある候補の中から餃子にした理由について、高橋さんはこう語ります。

「わざわざ自動販売機で売る意味があるのか、それでお客様が喜んでくれるのかどうかが一番大事だと思います」

現在、自動販売機の売り上げは月平均で約50万円。 高橋さんは「急拡大ではなく、需要のある場所をじっくり選定して、少しずつ設置場所を増やしていき、宣伝広告も怠らなければ、もっと伸びる可能性がある」と手応えを感じています。

1パック30個入りで1000円、水餃子は20個入りで1000円
1パック30個入りで1000円、水餃子は20個入りで1000円

餃子に親しむ環境づくり――取材を終えて

コロナによって販売チャネルが増えて、24時間販売が可能などのメリットから自動販売機を設置するお店が少しずつ増えています。それと同時に、自動販売機設置は、お店の経営を守るためという考えにイコールで結ばれがちな一面を持っています。

確かに、自動販売機は話題性もある面白い販売方法です。経営を続ける上では、大きな柱となる可能性を十分に秘めているでしょう。しかし、今回お話をうかがった「餃子王」では、自動販売機を設置する目的の大元には「餃子を食べて、幸せな気分を味わってほしい」という想いがありました。

「商売も大事だけど、それよりも共創・共生の方が大事」だと語る高橋さん。その想いを実現する取り組みのひとつとして、近くの児童養護施設の子どもたちのために、餃子作り教室や餃子パーティーなどをする計画もあるといいます。

餃子に親しみやすい環境を整えた上で、餃子好きな人たちに喜んでもらうために自動販売機を設置する。餃子好きの人たちを喜ばせる循環の中に組み込むことで、自動販売機は一過性のブームで終わることなく、コロナ以降も長く続く事業に育つのでしょう。

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