IT・科学
武器はフィルムとSNS 「好き」を仕事にした20歳の写真家・葵さん
飾らない瞬間を切り取る魔法
21世紀産まれのプロ写真家である葵さん(20)は、高校生から写真の道に入り、早くから有名なファッションブランドとの仕事を手掛けてきました。そんな葵さんが、写真家として一歩踏み出すきっかけになったのがフィルムカメラとSNSとの出会いでした。SNSに投稿した写真がきっかけで、10代の時からその才能を見いだされ、「anan」などの有名雑誌、「ben devis」といったファッションブランドから声がかかるように。葵さんがいかにして写真家の道を歩むことに至ったか。「好き」を仕事にするまでを聞いてきました。(写真家・相沢亮)
フィルムカメラとの出会いは、ふとSNSに流れてきたフィルムの写真を見た時だったという葵さん。
淡く、優しい光と影の粒子感の雰囲気に魅了され、すぐにフリマアプリで見た目に一目惚れしたNikonのカメラを購入したそうです。
ただ使い方がわからなく、買った次の日の学校の帰り道にカメラ屋さんに駆け込んで店主の方に話しかけ、フィルムカメラの基本を習いました。
当時から思い立ったらすぐ行動に移す性格だったとカメラとの出会いを振り返る葵さん。
そんな葵さんでも最初は、フィルムの現像代からシャッターを切ることを躊躇していたと打ち明けます。
しかし、その不安も1回現像に返ってきた写真を見て払拭されました。
「1回確認できたので、次からこんな風に撮れば、自分の好きな世界観を表現できると、ある程度感覚を掴めました」
デジタルと違ったフィルムカメラの魅力については「撮った後にすぐ写真が確認できずに、フィルムの現像後、手元に帰ってくるまでのドキドキ感や写真の答え合わせをする感覚が好き」と語ります。
そうして高校2年生、3年生と撮る本数は増え続け、フィルム代と現像代を合わせ年間約30万円にもなったそうです。
葵さんの撮影する、飾らない高校時代の同級生の写真が注目されるきっかけとなったのはTwitterでした。
SNSのタイムラインには同級生との日々や友人たちの等身大の姿が、フィルム独特の懐かしい空気感で写された素敵な瞬間として並びます。
「高校時代の日々は、毎日が新しい出会い。友達と過ごす今日は、今しか写せない」。そう考え、どんどんシャッターを切ります。
そして、現在、自身のSNSのアイコンにも使用しているプールの授業中に防水の「写ルンです」で撮った水中の青の写真が話題を呼び、一躍その名が知れ渡ります。
その後も淡い青の世界観を写し続け、その人気を確立していきます。
自分の代名詞とも言える青の写真の魅力について、葵さんは次のように話します。
「楽しい思い出、悲しい記憶、見てくれた方の心に寄り添うような雰囲気を醸し出してくれる、拠り所になるような魅力が詰まっています」
自身の作風については「見てくれた方が自由に解釈してほしい。押し付けるようなメッセージ性はいらない」とも。
実際に葵さんの個展を訪れた人は、学生時代の楽しい思い出が蘇ったという感想から、涙を浮かべるほど感動する人まで様々な反応を見せるそうです。
写真には〝その時を切り取る〟役目があります。葵さんの切り取った世界観を垣間見た人が自由に感情を揺さぶられ、過去を振り返りたくなる。そんな魅力が詰まっているのでしょう。
埼玉県の進学校に通っていた葵さんですが、周りの友人たちが受験勉強に励む中、フィルムカメラに熱中し友人との日々を撮り続けていました。
将来の不安はなかったのか、という問いには、きっぱりと笑顔で「なかった」。
高校3年生の授業が休みの日には、フィルムカメラを片手にふらっと、仙台、宇都宮、高松などに旅に出ていたそうです。この時の旅が感性を養ってくれたとも語ります。
そんな学校生活には自由にやりたいことを尊重してくれる家族の存在がありました。
「母が背中を押してくれて、今も写真家としての活動を応援してくれます。今は、家を出て東京で仕事をしていますが、いつでも帰れる実家がある安心感があり、本当に母に感謝しています。好きなことをしていいよと肯定してくれるから高校卒業時に周りと違う選択肢を選べました。自分の意思を強く持って生きられるように育ててくれたかのかなと思います」
プールで撮影された青の写真が話題になったことで、写真家の米原康正さんに声を掛けられます。米原氏がキュレーターを務める、若者向けファッションブランド「WEGO」のアート展に参加。その後、表参道と原宿のローカルメディア「OMOHARAREAL」、花に関するアートやデザインを手掛ける「PLANTICA」とのコラボレーションを経て、三ツ矢サイダーのタイアップ企画に声がかかるなど、活躍の場を広げていきます。
それらの抜擢には、葵さんの写真への追求と行動力がありました。
「高校生だから失敗して恥をかいても問題ないと思い、面識のない写真家の方にメールを送っていました。そうしたら青山裕企さんからものすごく丁寧にお返事がきて。とても嬉しかったです」
その後、青山さんのユカイハンズギャラリーで高校生活の集大成となる「未完成の青」の写真展が開催されました。
気になったら悩まず行動に移す。高校時代から備わっていた最初の一歩を躊躇しない度胸が、仕事を広げる原動力になっています。
そして、高校卒業後にファッションブランド「BEN DAVIS」とのコラボレーション、「anan」の撮影と活躍の場を広げていき、10代最後の節目の年に作品集「drop」を発表しました。テーマは「青と悲しさ、そして光」。初めてテーマを決めた作品集であり、今後は、作家活動にも力をいれていくそうです。
その世界観に多くの方が惹かれ、若手注目の写真家の1人として人気が増すばかりの葵さん。
SNSが生まれたことによって、プロアマ関係なく、自分の撮った作品を多くの人に見てもらう機会が広がりました。そんな時代の写真家として、高校時代の思い出を紡ぐように撮り続けたことで培われた感性と、抜群の行動力で、これからも活躍の場を広げていくのでしょう。
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