連載
#40 「きょうも回してる?」
〝チャラ社長〟の真面目なガチャガチャ論 自立したカエルの悲壮感
SNSで伝えるハンパないこだわり
ガチャガチャ業界では新商品の発売が決定した段階で、メーカーが購入を促すための宣伝やPRをします。しかし業界の大多数を占める中小メーカーは、資金面などから長年、十分な宣伝ができていませんでした。
そのため、ユーザーがガチャガチャ売り場に訪れた時にはじめて、新商品が発売されたことを知ることは珍しくありません。
サイクルが早いガチャガチャ業界では、誰にも知られることなく、新商品の販売が終わってしまうことも多々ありました。この傾向は半世紀以上、変わりませんでした。
流れを変えたのが、ITです。ホームページで商品を紹介することができ、特にTwitterが普及してから、新商品のPRをする中小メーカーが増え始めました。
SNSを上手く活用しているのは、メーカーのクオリアです。他社と違うのが、YouTubeをうまく活用している点です。クオリアの代表の小川勇矢さんは「見た目のチャラさ」を視聴者に指摘され「チャラ社長」。広報のしきせいたさんは、白いメガネをかけていることから「しろメガネ」として、YouTubeで新商品の特徴を紹介するほか、視聴者が楽しめる企画を行っています。
特にチャラ社長としろメガネとの掛け合いが面白いです。また、誰に配るかわからないYouTube用の名刺を作成し、すでに2022年用も。キラキラした何とも言えない名刺は、利用者を楽しませるクオリアらしさが表現されています。
商品づくりにおいて、クオリアを起業する前にガチャガチャの営業を経験した小川さんは、「お客さんのウケるポイント」を熟知しているといいます。
中でも、商品が伝わるためのタイトルやラインナップにはこだわっています。商品化を決めた時に、小川さんの頭にはカエルのフィギュアは色を変え、落としたアイスの色も変えたイメージがすでにありました。シークレットについても、悲壮感たっぷりのカエルのイメージができあがっていたそうです。
ほかにも、小川さんのこだわりは詰まっています。それは、カエルを単独で立たせたことです。
安定しづらい直立のフィギュアは普通、台座に差し込むことで立たせます。なぜなら、単体で立たせようとするとその分製作が難しくなるからです。しかし、小川さんはカエル単体でお客さんに楽しんでもらいたいと考え、どうしてもカエルを立たせたい想いがありました。その結果、コストがかかっても工程数を増やし、PVC(ポリ塩化ビニル)とABS樹脂の二つの素材を明確に使い分け、カエルの足の裏に穴を開けることにより、カエルの自立した状態を実現させました。
さらに、シークレットもわざわざ専用の金型を作って仕上げています。ここに「お客様を喜ばすためなら、良い物を作りたい」という、小川さんの熱量の高さを感じさせます。
今年6月に販売したすべてがおわってしまったカエルは、すぐに再販されました。そして、10万個売れたらヒット商品になるガチャガチャ市場では、すべてがおわってしまったカエルは約20万個売れ、ヒット商品になりました。
売れた理由を聞くと、小川さんは「お客様にどうすればわかりやすく伝わり、どうやって楽しんでもらえるかを考えた結果、DP(ディスプレイポップ)とタイトル、商品の全体的なまとめかたが上手くマッチしました」と教えてくれました。
今回のポイントは何といってもDPです。確かにカエルは笑っているカエルです。しかし、商品タイトルは「すべてがおわってしまったカエル」のため、この悲壮感を伝えるために、お客さんに説明しなくてもわかる工夫をしました。
DPに四コマのマンガを入れたのです。今までDPに四コママンガを入れたケースはありませんでした。マンガの要素を取り入れたことで、悲壮感たっぷりのカエルが伝わるようになりました。
すべてがおしまいになったカエルについて、小川さんは「正直なところ、大人だったらアイスくらい買えばいいじゃないですか(笑)。ただ、小さい子どもにしたら、アイスを落としてしまうことはショックです(笑)。2段のアイスのうち、1個を落としてしまうという子どもあるある話を表現したかった。そんなピュアな世界観をカエルを通じて伝えたかったです」と笑って話してくれました。
まさに、すべてがおしまいになったカエルは、擬人化したことで子どもの世界観を上手く表現した「あるあるガチャ」だと感じました。
次なる展開は、すべてがおしまいになったカエルのクリアバージョンで現在制作中だそうです。
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すべてがおしまいになったカエルは、カエルとバニラアイス、桃色カエルとイチゴアイス、青色カエルとミックスアイス、黄色カエルとチョコアイス、紫色カエルと抹茶アイス、シークレットの全6種類。1回300円。
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