話題
衆院選、若者目線で選ぶなら…? 主要6政党を室橋祐貴さんが分析
次期衆院選で、若者はどの政党に投票すべきか。前回の公約は果たされているのか。実績を残した議員は誰か。若者の声を政治に反映させることを目指して、与野党を問わず各党へ働きかけている超党派の若者団体「日本若者協議会」の代表理事、室橋祐貴(むろはし・ゆうき)さんに、主要6政党の注目ポイントを聞きました。( 笑下村塾・たかまつなな)
室橋祐貴(むろはし・ゆうき)
——まず自民党について、この4年間で大きな公約違反はありますか。
公約違反らしきものはないというのが正直なところです。
2017年の衆議院選挙では消費税の10%への引き上げを公約に掲げて、消費税の用途を高齢者向けではなく全世代に使う、つまり幼児教育と高等教育の無償化を行うと言いました。
野党がみんな消費税率の引き上げに反対していた中で、自民党はちゃんと引き上げましたし、無償化もすでにうまくいっています。
若者政策も、ちゃんとやっていたのではないでしょうか。
大きな柱だった働き方改革では、働き方改革関連法が2019年に通って、これまで三六協定を結んでいれば時間外労働に上限はなかったんですけど、そこに上限をはめたり、同一労働同一賃金も施行されてきている。
若者の支持率が高くなっていることを含めて一定の評価をされていいと思います。
——自民党のこの4年間のグッドポイントはどういうところですか。
現役世代の負担を軽減する政策を実行してきたところです。
自民党はこれまで高齢者向けの政策を中心にやってきましたが、政権交代後、特に2015年ごろから若者をターゲットにした政策が多くなってきました。
高等教育と幼児教育の無償化もそうですし、待機児童数の削減にも力を入れてきました。働き方改革も現役世代を重視した政策です。
一方で、高齢者への負担をお願いする政策も行ってきました。年金改革や後期高齢者の医療費の窓口負担増などです。医療費の窓口負担増については、現役世代の医療費負担を考えると、もっと負担を増やした方がいいとは思いますが、野党はこの多少の引き上げにさえ反対していたので、これを将来のためにしっかり実行できたのはグッドポイントだと思います。
——逆に自民党のバッドポイントは?
ジェンダーと情報公開、この二つに尽きます。
ジェンダー政策が一向に進んでいないのは明らかで、世界的に見ても日本は、女性の幹部職への登用や女性議員の増加といった政策が進んでいません。
性教育も昔のまま全然進んでいなくて、明らかに若者世代が望んでいる選択的夫婦別姓など新しい結婚の形についても議論を進める姿勢が見られません。
情報公開についても、これだけスキャンダルがあっても責任を取らず、公文書管理のあり方は抜本的な改善につながっていません。この二つは致命的な問題です。
——若者政策の中で、ファインプレーだった議員さんはどなたですか。
最近は、鈴木貴子衆議院議員が孤独・孤立対策で政策をリードしました。
NPO法人の学生たちから意見を聞いて、若手主導でまとめて菅総理に提言しました。事務局長として党内の議論を引っ張り、非常に活躍しました。
あとは「人生100年時代」を掲げてきた小泉進次郎衆議院議員です。若手議員の勉強会のチームで働き方改革や社会保障の全世代型への転換を掲げて議論をリードしてきました。
気候変動対策について若者とも積極的に意見交換していて、もっと評価されていい方だと思います。
河野太郎行政改革担当大臣は国家公務員改革でリーダーシップを発揮しました。萩生田光一文部科学大臣は、大学入試改革をやめて9月入学への移行も阻止しました。
牧原秀樹衆議院議員は、青年局長の頃から子どもの貧困など若者政策を青年局でまとめて、政党本部に提言、その多くが反映されるなど、非常に積極的に動いています。
——若者政策をする上で自民党の課題はどこにありますか?
女性や弱者向けの政策が弱いと感じています。
性教育やアフターピルの窓口販売、ブラック校則、子どもの権利などについて、あまり進まない印象があります。
子どもの権利については、引退された塩崎恭久元厚生労働大臣が、児童福祉法に子どもの権利を初めて明記するなどこの分野をリードしてきましたが、今も自民党議員の中には「子どもは親の従属物」といった保守的な考え方をしている人が多いのが課題です。
——若手の議員の意見は通りにくいんでしょうか。
党内には旧態依然とした昔の価値観が根強くあります。
一方で、4期目以下、40代以下の議員の中には、選択的夫婦別姓や同性婚に賛成している議員もいたりして新しい価値観を持っている人もいます。
ただ、年功序列の組織体系で当選回数に応じて役職が決まる自民党では、そういった若手議員の声は強く反映されないという現状があります。
——若者の声を聞いてくれる仕組みや意欲はあるんですか?
昔に比べると、政策を議論する場に若者が顔を出す機会は非常に増えてきています。
2015年ごろ、自民党内で「成年年齢引き下げ」(来年から20歳から18歳に)の議論がありましたが、自民党の部会に日本若者協議会から高校生と10代の大学生30名が出席させてもらいました。
当時、高校生が自民党の部会に出席したのは初めてだったそうで、それ以降、けっこうな頻度で参加させてもらっています。
——自民党に若い人が意見するならどうしたらいいのでしょうか。
自民党は経済成長を特に重視しているので、ベンチャー系の人たちは、まず確実に自民党に行ったほうがいいと思います。最初にいきなり上の偉い議員はなかなか会ってくれないので、若手の議員を捕まえてそこから紹介してもらうのがいいと思います。
——次は公明党についてお聞きします。公約違反だと思っているところはありますか。
自公連立なので、基本的にはありません。給付型奨学金と大学の無償化をずっと訴えてきたのが公明党なので、実現したものばかりではないでしょうか。
NPO法人MielkaのJAPAN CHOICEでの政策実現度を見ると、自民党より公明党のほうが公約の達成率は高いです。
——公明党の4年間のグッドポイントをお願いします。
公明党は福祉政党を掲げて、大学無償化、幼児教育の無償化、私立高校の無償化などの議論をリードしてきているので、負担軽減に関するところが高く評価できます。最近ではコロナ禍で若手研究者に追加支援を進めました。
「生理の貧困」については、公明党の女性委員会の地方自治体とのネットワークを生かして、国だけではなく東京都教育委員会など全国各地に要望書を出して、生理用品を一気に配ったり、9月からは都立高校の女子トイレに生理用品が置かれることが決まったりしました。国と連携して非常にスピーディーに実現していました。
——バッドポイントはどういうところですか。
あまりマイナスポイントはありませんが、公明党は選択的夫婦別性などジェンダー政策に賛成はしているものの、自民党に配慮して強く訴えていないので、もっと自民党を説得してほしいです。
——若者政策でのファインプレーの議員はどなたですか。
伊佐進一衆議院議員は、若手研究者の支援について国会で取り組んでいます。
三浦信祐参議院議員は、コロナ禍で研究できなくなってしまった博士課程の学生の要望書を受け取り、財務省を説得して研究のための予算を増やしました。
竹谷とし子参議院議員は「生理の貧困」をリードしてきたキーパーソンです。
——若者政策をする上での公明党の課題は、どういうところにありますか。
ジェンダー政策など、女性向けの施策が意外と乏しい気がします。あとは自民党もそうですが、被選挙権年齢など、若者に権限を渡すという部分では、2016年の参院選でも公約に入れておきながら実現していないので課題かと思います。
——若い人の意見は聞いてもらえますか?
他の政党と比べても公明党が若者の声を一番聞いているのは間違いありません。
ユーストークミーティングをほぼ毎週やっていたり、インターネットで若者の声を集めて総理大臣に要望書を提出する取り組みも毎年やっています。こうしたことをきちんとやっているのは公明党だけです。
意思決定のスピードも早いです。不妊治療の費用負担や貧困世帯向けの手当など、福祉政策を得意としているので、貧困層や中間層の支援を手厚くするようなテーマについては公明党が一番強いと思います。
——続いて立憲民主党についてお聞きします。公約違反だと思ったところはありますか。
2017年から同じ党と考えた場合、消費税の10%への引き上げは反対していたので、公約違反と言えるかもしれません。
児童手当などの所得制限の撤廃も掲げていましたが、むしろ所得制限が広がってしまいました。原発ゼロも実現していません。
——グッドポイントはどこですか。
若者政策に限定すると、正直あまり思いつきません。政策を見ると、ターゲットを明らかに高齢者においています。年金制度改革などにも反対しているので。
ただ、ジェンダー対策は注力しています。実現はあまりしていないですが、選択的夫婦別姓や性教育の拡充など、議論を喚起してきたという意味で頑張ってきました。
若者政策は、どちらかと言うと与党が先に実績をあげてしまっているので、あまり反対する余地がないんですよね。
——バッドポイントはどこですか。
高齢者を重視し過ぎということです。年金制度改革、後期高齢者の医療費負担増に反対したり、国家公務員の定年年齢の引き上げにも積極的でした。
選挙に勝つには投票率の高い高齢者の票を取らないといけないという意識が強くあるんだろうと思います。国会改革でも、質問通告時間を早めたり、オンラインでのレクをなるべくしていこうという議論にも非常に消極的でした。
——若者政策をする上での課題はどこですか。
野党なのに若手議員の発言力が弱いというのが致命的です。若手が声をあげにくい環境で、この4年間で支持率を延ばせていません。執行部の顔ぶれに変化がないので、少し変えないと支持率を伸ばすのは難しいと感じます。
——若者政策のファインプレーの議員はどなたですか。
川内博史衆議院議員は、大学入試改革で頑張っていました。城井崇衆議院議員は、もともと国民民主党ですけど、大学入試や文教系の政策は頑張っていました。
中谷一馬衆議院議員は、ネット投票の法案を出したり積極的に発言したりして若手議員の中ではやっているほうです。
西村智奈美衆議院議員や大河原雅子衆議院議員は、選択的夫婦別姓や性暴力被害、セクハラ問題などで積極的に議論をリードし法案を作っているので、評価できると思います。ジェンダー関係は立憲民主党が圧倒的に強いです。
——若者の意見を聞く仕組みや意欲はいかがですか。
枝野代表や福山幹事長が出席するおしゃべり会議などで機会は作っていますが、どこまで政策に反映しているかというと、正直厳しいと言わざるを得ないです。
——続いて、国民民主党について、公約違反に関してはいかがですか。
2019年の参院選のときに言っていたメインの政策は、教育無償化などを消費税ではなくて教育国債でやるということでしたが、実現していません。ただ、議論に影響を与えていたのでそんなに悪くないと思っています。
——国民民主党のグッドポイントは。
政策をリードしている印象が非常に強いところです。政策提案が早いし、内容も具体的で非常にいいと思います。
2019年の参院選ですでに掲げていて実現したものとして、孤独・孤立対策やヤングケアラーの実態調査などがあります。
コロナ禍の現金の一律給付金などは最終的には公明党がプッシュしていますが、最初に言っていたのは国民民主党の玉木雄一郎代表なので、いつも与党に先んじて政策を打ち出しています。
——バッドポイントはどういうところですか。
バッドポイントはないんじゃないですかね。単純に議員の数が少ないので、政策を自分たちで実現できないというのはあると思いますが。
——若者政策のファインプレーの議員はどなたですか。
玉木代表は積極的にいろいろな政策をリードしています。
伊藤孝恵参議院議員は、ヤングケアラーや生理の貧困、国家公務員の働き方改革などで積極的に動いていました。伊藤議員は、若者と意見交換してからのスピードがめちゃくちゃ速いです。すぐに官僚の人に調べてもらったり、超党派の議連で勉強会を開いたり、圧倒的に行動力があります。
——若者政策をする上での課題はどこにありますか。
議員の数が少ないので、法案提出までできないのが一番のボトルネックです。国会で活動できる機会が非常に限られているので、実現まで行きにくいところです。
——若者の声を聞く仕組みや意欲はありますか。
他の政党と比べて最も若者政策に限定して訴えているのは国民民主党です。特に玉木代表はネットをよく使っているので、ツイッターでリプライを飛ばせば見てもらえます。
人数が少ないので特定の会合を開くことはあまりできませんが、個人の意見を聞く意欲はあります。 野党だったら国民民主党に持っていけば間違いないです。
マイナス点としては、他の野党との連携が弱いことです。立憲民主党とは微妙な仲ですし、日本維新の会や共産党とも近いわけではないので、野党でまとまって動くことは期待しにくいかもしれません。
——続いて、日本維新の会の公約違反についてお願いします。
あまり実現していないですね。反対していた消費税10%引き上げは行われましたし、国会議員の定数削減などの「身を切る改革」や所得制限なしでの教育無償化も実現していません。
——この4年間のグッドポイントとバッドポイントは?
憲法改正の審議を含めて、審議拒否をせず国会でちゃんと議論しようする姿勢は評価できるポイントです。そこは立憲民主党や共産党など他の野党とは違います。
あとは、マイナンバーの活用などデジタル政策への理解度は他の政党に比べて高いです。文書通信の交通滞在費の使途公開や議員報酬の還元などを自主的にやっています。
バッドポイントは、実現できていない政策がめちゃくちゃ多いことです。規制改革や憲法改正、年金の積み立て方式停止など、公約のほとんどが実現していません。
——国民民主党との違いはどこにありますか?
国民民主党は、実現可能な政策を緻密に練っている感じがあるのに対して、日本維新の会は理想論が強いので、実現すれば日本がすごく変わるだろうなというのは多いですけど、実現するには今の体制では難しいというものが多いです。
——若者政策でファインプレーの議員さんはいますか。
デジタル政策の推進では、足立康史衆議院議員。国家公務員のオンラインレクの活用では音喜多駿参議院議員です。
——若者政策をする上での課題は。
実行力、実現力に尽きます。学生部も他の党に比べると政策議論を非常によくやっているし、イベントなどにもよく顔を出しているし、若者の声をそれなりに聞いています。しかし、政策が実現していない。
理由としては単独プレイなんですよね。野党の中で浮いているし、保守政党ですが連立を組んでいるわけではないので与党でもない。一つの政党でやれることは限られるので、中途半端な存在になってしまっています。
——若者の声を聞く仕組みや意欲はどうですか?
比較的若い議員が活躍しているケースも多いし、積極的にネットを活用しています。お願いすれば普通に会ってくれると思います。
意思決定も早くてベンチャー政党っぽい雰囲気があります。小さな政府、規制改革、地方分権、憲法改正、日本を抜本的に変える、みたいな話は日本維新の会に強みがあります。
——続いて共産党についてお願いします。
共産党の公約はほとんど実現していません。反対していた消費税の10%への引き上げは実現しましたし、原発廃止や富裕層への課税なども実現していません。
——グッドポイントはどこですか。
ブラック労働やブラック校則、就活セクハラなど、労働系やジェンダー系については、国会で最も的を得た質問をしている印象があります。
あとは貧困対策や人権問題などには非常に強いです。あと党として調査報道能力を持っています。
「桜を見る会」についても『赤旗』でスキャンダルをすっぱ抜いたりしていて、政党交付金を受け取っていないのに、あれだけの政党活動ができているのはすごいです。公明党もそうですが、他の政党に比べて、政策についてよく勉強しています。
——バッドポイントはどこですか。
実現していない政策がめちゃくちゃ多いこと。審議拒否が多く、国会の信頼を落とすひとつの要因となっていることです。憲法改正も議論することさえ嫌がっているので。
——若者政策のファインプレーの議員はどなたでしょうか。
吉良佳子参議院議員は、ブラック労働もブラック校則も教員の長時間労働もよくやっていました。
田村智子参議院議員は「桜を見る会」の疑惑追及のきっかけとなりました。
小池晃参議院議員は、女性が職場でハイヒールやパンプスの着用を義務づけられていることに抗議する社会運動「#KuToo」を国会で取り上げるなど、ジェンダー平等に力を入れています。
畑野君枝衆議院議員は、大学入試改革を非常によく調べて議論していました。
——若者政策をする上での課題は?
与党になる可能性が非常に低いからなのか、主張が極端なところがあります。
国家の安全保障や天皇に対する考え方など、他の政党と大きな違いがあるので、野党内でも価値観が違う部分がある。政府与党の追及という意味では、立憲民主党よりいい仕事をしている部分も多くあると思いますけど、政権を取れるかと言ったら厳しいですよね。
——若者の声を聞く仕組みや意欲はありますか?
デモの現場にはよく足を運んでいる印象があります。
性暴力に抗議するフラワーデモや原発反対のデモの現場で、当事者からよく話を聞いているし、校則の問題についても高校生からよく話を聞いています。労働問題、人権、ジェンダーなどの分野に圧倒的に強いです。
支持母体がしっかりしていて情報共有がされているのが大きな強みなので、意見を言いたいときは普通に連絡すればちゃんと答えてくれます。拒否されるイメージはありません。
——主要6政党について詳しく聞いてきましたが、最後に、若い人はどういう基準で政党を選べばいいか教えてください。
重要なのはきちんと政策にして実現する力です。何かひとつでも若者向けの政策を実現できていれば、あとは横展開するだけなので、具体的に法案を通した実績がある政党を選ぶのがいいと思います。
◇
笑下村塾では、若者政策を行う各党の注目議員についてインタビュー取材を伝えていきます。
1/31枚