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検温セレモニー化「安全より安心」落とし穴 意味あるコロナ対策とは

“セレモニー化”との指摘もあるが……。※画像はイメージ
“セレモニー化”との指摘もあるが……。※画像はイメージ 出典: PIXTA

目次

すっかり当たり前の光景になった、商業施設などにおける入店時の検温。しかし、その効果については疑問の声もついて回ります。検温が“セレモニー化”した現状を脱し、意味のある新型コロナ対策を行うにはどうすればいいのか、専門家を取材しました。(朝日新聞デジタル機動報道部・朽木誠一郎)
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検温の“セレモニー化”?

コロナ禍における新しい生活様式の最たるものの一つが、店などに入る際の「検温」ではないでしょうか。一方で、感染拡大から約1年半、この検温が形がい化していることも指摘されるようになりました。

検温の“セレモニー化”は、株式会社タニタが実施したインターネットリサーチ『体温計に関する意識・実態調査 2021』※の中で使われている言葉です。

※期間:2021年3月11日〜3 月15日、対象:全国の 15〜69歳の男女1000 人

この調査では「検温器があるのに測定せずに入店したこと」が「あった」は22.2%、「検温器があるのに測定せずに入店する人を見たこと」が「あった」は41.1%でした。

また、実際の検温で、「自動検温器でうまく測れないこと」が「あった」は49.4%、「平熱より低い温度が表示されたこと」は「あった」が64.2%。

そして「非接触式体温計での検温をいい加減だと感じたこと」が「あった」は49.7%でした。

同調査では、こうした結果をもとに「非接触式体温計を用いた入店前の検温がセレモニー化してしまっていると感じている人が多いのかもしれません」とまとめています。

熱がない・高くない感染者も

セレモニー化した検温ではなく、意味のある新型コロナ対策をするためには、どうしたらいいのでしょうか。感染対策の専門家で聖路加国際大学QIセンター感染管理室マネジャーの坂本史衣さんに話を聞きました。

坂本さんはまず、“入店”のように人が外から内に入るシチュエーションにおいて、対策は主に「A. 感染者が入ってこないようにする」「B. 入ってしまった場合に、感染を他の人に広げないようにする」に分かれるとします。

ここでもちろん検温はA.の対策です。では、検温で「感染者が入ってこないようにする」ことはできるのでしょうか。新型コロナウイルスの特徴を考えると、実はこれは難しいことです。

「新型コロナウイルスは、発症直前から直後の無症状、あるいは症状が軽い時期に感染性のピークを迎える(人にうつしやすい)ことが知られています。では、この時期に、一般的な入店の基準になりやすい37.5℃以上の発熱が見られるかというと、必ずしもそうとは言えません。

発熱なし、あるいは微熱の患者さんも多くいらっしゃいます。その患者さんたちは、熱の症状は出ていないけれど、喉が痛かったり、鼻水が出ていたり、お腹を下していたりしており、それが後から新型コロナウイルスによるものだったとわかることも。“『熱がなければコロナじゃない』ではない”ことに注意が必要です」

検温だけでは十分ではない

8月のフジロックフェスティバルでは、JR越後湯沢駅から会場へ向かうバス乗り場で、主催者による検温・消毒が行われた
8月のフジロックフェスティバルでは、JR越後湯沢駅から会場へ向かうバス乗り場で、主催者による検温・消毒が行われた 出典: 朝日新聞社
厚生労働省は新型コロナウイルス感染症の『診療の手引き』で、無症状のままの感染者の割合は30%前後と推定しています。

熱がないか、高くない感染者が一定の割合でいて、感染性を持つのが新型コロナウイルスの特徴です。検温ではこれらの人は検知できないわけですから、そうした人については、A.の対策にならないことになります。

したがって、そもそも体温によるスクリーニングは十分ではないのです。基準になりやすい「37.5℃以上の発熱」という数値も「37.5℃未満なら新型コロナウイルス感染症ではないとは言えない」とします。

また、A.の対策は「入店者のモラルに委ねられる部分がある」と坂本さん。前述したタニタの調査結果のように、検温の結果によらず入店してしまう人がいれば、実効性を失います。

熱がなかったり、高くなかったりしても、他の面で体調が悪いと自覚しているのに外出、入店してしまうようなケースを防ぐのも利用者側のモラルだと言えます。その上で、坂本さんは検温の考え方をこう説明します。

「検温の意味がないわけではありません。体温のように客観的に他の人が確認できる指標が他にないのも事実です。明らかに体温が高かったら入店しない、させないということは、一つの対策としてはあり得ます。ただし、前述のように効果が不十分であるため、逆に言えば、必須の対策とは言えません」

検温の精度は信頼できる?

さらに坂本さんが指摘するのは検温の精度の問題です。「指標として活用するには、それが信頼できることが前提」とします。

「体温は活用していい指標の一つですが、感染対策の視点からは『測るべきものを測ることができている』ことが保証されていないといけません」

一口に検温と言っても、利用されているのは医療機器である体温計から、いわゆるサーマルカメラ※までさまざまです。

※人を含む物体の表面温度を計測する機器で、医療機器である体温計ではなく、あくまでも温度計。

「医療機関で正確に体温を計測しようとすれば、直腸や鼓膜、腋窩といった、より体の内部の体温を反映しやすいところで計測します。一方、入店時の検温でしばしば見かける非接触型の体温計では額や手首から体温を、サーマルカメラは体表面の温度を計測するものです。外側に行くほど、内部の体温からは乖離が大きくなります。

特に医療機器でない温度計の中には、精度の低いものもあると聞きます。そもそも体温によるスクリーニングが不十分なだけでなく、入店時の検温機器が発熱を正確に検知できていない可能性もあるということは、店側だけでなく、利用者側も知っておくべきでしょう」

「安心」は「安全」から

3度目の緊急事態宣言前日の夜、マスクをつけた銀座三越のライオン像=2021年4月24日午後7時6分、東京都中央区、井手さゆり撮影
3度目の緊急事態宣言前日の夜、マスクをつけた銀座三越のライオン像=2021年4月24日午後7時6分、東京都中央区、井手さゆり撮影 出典: 朝日新聞社
一方で、坂本さんは「長引くコロナ禍で、入店するお客さんに安心してもらうために、検温を止めることに不安な面もあると思います」とも話します。

「“社会的配慮として検温が必要”と思っている人が多いのでしょう。ただ、安心を提供するには、安全を提供できることが前提です。実際には安全ではないのに、安心だけしてしまうと、かえって危険だからです」

冒頭の調査結果のように、検温機器の精度に疑問を持つ人も多くいます。精度の低い検温機器を用いることは、偽りの安心につながり、避けるべきと坂本さん。また、医療機器の体温計であっても、使用方法を遵守することが必要だとします。

「簡易的な検温は数値が周囲の条件に簡単に左右されてしまうものです。そもそも信頼しづらいですが、せめてそれぞれの機器の使用方法を遵守し、できるだけ計測の精度を高めることをおすすめします」

意味あるコロナ対策のために

これまで、商業施設などにおけるA.の対策としては、検温以外に選択肢が乏しかったとも言えます。しかし、日本でもワクチン接種が進んだことで、坂本さんは「例えば諸外国のように入店時に接種証明を確認するようなやり方は、A.の対策になり得る」とします。

とはいえ、不特定多数が頻繁に出入りするような施設では、すべての人の接種証明をチェックすることも現実的ではないかもしれません。「接種証明の必要性や条件は今後検討されるでしょう」「また、ワクチンを2回接種した人でも、感染者になり、感染性を持つことがあるのも事実です」と坂本さん。

だからこそ、A.が突破されてしまうことも想定して、B.の対策が大事になります。感染者が施設内に入ったとしても、感染を広げないようにする。そのためには「施設内で混雑する場所が生まれないようにする」「換気を十分にする」など、これまでも重要とされてきた対策をしっかり実施することが大事だということでした。

「残念ながら、たった一つの対策で防げるようなウイルスではありません。効果が見込まれる複数の対策を組み合わせて、できるだけ対策の効果を高めること。こうした地道な取り組みにより、コロナ対策に意味を持たせることができるはずです」
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